【2025年版】健康診断後に会社がやるべき事後措置を5ステップで解説|罰則・保存期間・医師の意見聴取まで完全網羅

毎年、従業員に健康診断を受けてもらっている企業は多いでしょう。しかし、「健診結果を回収して終わり」になっていませんか?実は、健康診断の実施そのものと同じくらい、もしくはそれ以上に重要なのが「事後措置」です。

健康診断の結果に異常所見があった従業員に対して、何も対応しなかった場合、会社は法令違反になるだけでなく、従業員が重篤な疾病を発症した際に損害賠償請求を受けるリスクもあります。にもかかわらず、中小企業の現場では「何をすればよいかわからない」「産業医がいないから対応できない」という声が少なくありません。

この記事では、労働安全衛生法が定める健康診断後の事後措置について、具体的な手順と実務上のポイントをわかりやすく解説します。人事担当者が一人でも対応できるよう、よくある誤解の解消も含めて丁寧にお伝えしますので、ぜひ最後までお読みください。

目次

そもそも「事後措置」とは何か?法律が定める義務の全体像

「事後措置」とは、健康診断の結果を受けて、事業者(会社)が行わなければならない一連の対応のことです。労働安全衛生法では、健康診断の実施義務(第66条)だけでなく、その後の対応についても明確に義務を定めています。

法律が求める事後措置の流れは、以下のとおりです。

  • 結果の本人通知(義務):健診結果は従業員本人に個別に知らせなければなりません。
  • 医師等からの意見聴取(義務)/第66条の4:異常所見がある従業員について、産業医などの医師から「就業上の措置」に関する意見を聴かなければなりません。
  • 就業上の措置の実施(義務)/第66条の5:医師の意見を参考に、必要な措置を会社が決定・実施します。
  • 保健指導の提供(努力義務)/第66条の7:軽度の異常や生活習慣の改善が必要な従業員に対して、保健師などによる指導の機会を設けるよう努めます。
  • 記録・保存(義務):健康診断個人票を5年間保存します。

重要なのは、「健診を受けさせれば終わり」ではないという点です。異常所見があるにもかかわらず事後措置を怠ると、労働基準監督署(労基署)による行政指導の対象となるほか、従業員の健康被害が発生した場合に安全配慮義務違反として法的責任を問われる可能性があります。

ステップ1:健診結果の「異常所見」をどう判断するか

事後措置の出発点は、健診結果の中に「異常所見」があるかどうかの確認です。ただし、すべての検査値の異常が即座に「就業制限」につながるわけではありません。まずは健診機関が使用している判定区分の意味を理解することが大切です。

多くの健診機関では、検査結果を以下のような区分で示しています(機関によって表記が異なります)。

  • A(異常なし)/1:問題なし
  • B(軽度異常)/2:日常生活に支障なし、経過観察
  • C(要経過観察)/3:生活習慣の改善や定期的な観察が必要
  • D(要再検査・要精密検査)/4:改めて検査が必要な状態
  • E(要治療)/5:医療機関での治療が必要な状態

事後措置が特に必要になるのは、「要再検査」「要精密検査」「要治療」などの判定が出た従業員です。「要経過観察」についても、業務内容によっては医師への相談が求められる場合があります。

人事担当者が自己判断で「この程度なら大丈夫」と決めることは避け、必ず次のステップである「医師の意見聴取」に進むことが重要です。

ステップ2:医師の意見聴取を必ず実施する(義務)

異常所見が認められた従業員がいる場合、事業者は医師または歯科医師から就業上の措置に関する意見を聴かなければなりません(労働安全衛生法第66条の4)。これは法的な義務であり、省略することは認められません。

誰に意見を聴けばよいか

従業員数が50人以上の事業場では産業医の選任が義務付けられているため、選任された産業医に意見を求めます。一方、50人未満の事業場では産業医の選任義務がないため、「意見を聴く相手がいない」と困っている担当者も多いのではないでしょうか。

しかし、手段がないわけではありません。50人未満の事業場でも以下の方法で対応できます。

  • 地域産業保健センター(地さんぽ)の活用:各都道府県の産業保健総合支援センターが設置している相談窓口で、無料で産業医への相談ができます。健診結果に基づく意見聴取にも対応しています。
  • 嘱託産業医への依頼:必要に応じて嘱託(非常勤)の産業医と契約し、意見を求めることも可能です。
  • 従業員のかかりつけ医(主治医)への照会:本人の同意を得たうえで、主治医から意見書を取り付ける方法もあります。

意見聴取の内容と記録

医師に求める意見の内容は、「この従業員が現在の業務を続けることが健康上問題ないか」「何らかの配慮や制限が必要か」という点です。厚生労働省が公開している意見書のひな形を活用すると、漏れなく必要な情報を記録できます。

意見書は必ず書面で残してください。口頭のやり取りだけでは、後日の労基署対応や裁判において証拠となりません。

ステップ3:就業上の措置を決定・実施する(義務)

医師から意見を得たら、次は事業者が就業上の措置を決定して実施します(労働安全衛生法第66条の5)。ここで重要な点が一つあります。措置を「決定」するのは、医師ではなく事業者(会社)です。

医師はあくまで「意見を述べる」役割であり、業務内容・人員体制・経営状況なども踏まえたうえで、最終的な判断を下すのは事業者です。もちろん医師の意見を尊重することが原則ですが、経営上の合理的な理由がある場合には、その判断の根拠を書面に残したうえで異なる対応をとることも、法律上は許容される余地があります。

主な就業上の措置の種類

  • 就業場所の変更:粉じん作業・高温環境・有害物質を扱う作業場からの異動など
  • 作業の転換:重量物の取り扱い作業の免除、立ち仕事から事務作業への変更など
  • 労働時間の短縮:残業の制限・深夜業の禁止など
  • 深夜業の回数減少:シフト変更による深夜勤務の軽減
  • 療養のための休暇・休業:治療に専念できる期間の確保

措置の内容は、従業員の健康状態・業務内容・職場環境によって異なります。「重大な異常があるのに通常勤務のまま」という状態が最もリスクが高いため、「何もしない」という選択肢は避けるべきです。

ステップ4:再検査の勧奨と従業員への通知

事後措置の中で、多くの担当者が悩むのが「従業員への働きかけ」です。「プライバシーの問題では?」「再検査を勧めても行ってくれない」という声をよく耳にします。ここで知っておきたい重要なポイントが2つあります。

健診結果の通知はプライバシー侵害ではない

健康診断の結果は要配慮個人情報(センシティブ情報)であり、取り扱いには慎重さが求められます。しかし、本人への通知は法律上の義務であり、適切な手続きのもとで行うことは問題ありません。

通知の際には以下の点に配慮しましょう。

  • 封書・専用封筒など、他の人の目に触れない方法で個別に渡す
  • 上司や同僚など、本人の同意なしに第三者へ開示しない
  • 閲覧できる社内の担当者の範囲を就業規則や内規で明文化しておく

再検査への受診勧奨は会社の義務だが「強制」はNG

「再検査はあくまで本人の問題では?」と思う方もいるかもしれませんが、会社には再検査・精密検査の受診を勧奨する義務があります。ただし、法律上、再検査の受診は従業員に強制できるものではなく、あくまで丁寧な勧奨が求められます。

実務上は、以下のようなアプローチが効果的です。

  • 「会社として健康を気にかけている」というメッセージを伝え、義務感ではなく配慮として勧奨する
  • 受診のための業務調整(有給奨励・早退許可など)をあらかじめ案内する
  • 再検査費用の会社負担については法的義務はありませんが、費用補助を設けると受診率が向上する傾向があります
  • 勧奨した事実と従業員の回答は記録として残す

記録の保存と管理体制の整備

健康診断の結果および事後措置の内容は、健康診断個人票(様式第5号)として5年間保存する義務があります(労働安全衛生規則第51条)。紙での保管も、電子データでの保管も認められていますが、電子保管の場合は改ざん防止などの要件を満たす必要があります。

記録管理で押さえるべきポイント

  • 医師の意見書を必ず書面で保管する(口頭のみは不可)
  • 就業上の措置を実施した場合は、その内容・日付・根拠を記録に残す
  • 再検査の勧奨を行った日時・方法・本人の対応も記録しておく
  • 退職した従業員の記録も、在職中の健診から5年間は保存が必要

「記録がない」状態で労基署の調査が入ったり、後日トラブルが発生したりすると、会社が不利な立場に置かれます。面倒に感じるかもしれませんが、記録・保存は会社を守る手段でもあります。

実践ポイント:今日からできる事後措置の仕組みづくり

最後に、中小企業の経営者・人事担当者がすぐに取り組める実践的なポイントをまとめます。

  • ①健診機関の判定区分の読み方を確認する
    使用している健診機関の判定基準(A〜Eなど)を改めて確認し、「どの区分から事後措置が必要か」を社内で共有しましょう。
  • ②地域産業保健センター(地さんぽ)に問い合わせる
    50人未満の事業場でも無料で産業医への相談ができます。一度問い合わせて、医師の意見聴取の流れを把握しておくと安心です。
  • ③事後措置のチェックリストを作成する
    「結果通知→意見聴取→措置決定→記録」の各ステップを一覧化したチェックリストを作成し、担当者が変わっても対応が属人化しない仕組みを作りましょう。
  • ④健診結果の閲覧ルールを明文化する
    誰が健診結果を閲覧できるかを就業規則や社内規程に定め、個人情報保護の観点からも適正な管理体制を整えましょう。
  • ⑤再検査の勧奨文書を標準化する
    勧奨の言葉や方法をあらかじめ決めておくと、担当者の判断に迷いが生じにくくなります。勧奨した記録も合わせて残しましょう。

まとめ

健康診断の事後措置は、「義務だからやる」というだけでなく、従業員の健康を守り、会社のリスクを減らすための重要な取り組みです。法律が定める流れは、「結果の通知→医師の意見聴取→就業上の措置→記録保存」という4つのステップで構成されており、いずれも省略することはできません。

「産業医がいないから何もできない」という状況は、地域産業保健センター(地さんぽ)を活用することで解消できます。また、「健診結果に踏み込むのはプライバシーの問題では?」という心配についても、適切な手続きと配慮のもとで行う事後措置は法律に基づく正当な対応です。

大切なのは、「何もしない」というリスクを正しく認識することです。異常所見を放置して従業員が健康被害を受けた場合、安全配慮義務違反として事業者が法的責任を負う可能性があります。一方で、適切な事後措置を講じることは、従業員との信頼関係を築き、長く働いてもらえる職場環境につながります。

まずは今年度の健診結果を見直し、事後措置の対応状況を確認するところから始めてみてください。不明な点があれば、都道府県の産業保健総合支援センターや社会保険労務士など、専門家への相談も積極的に活用しましょう。

よくある質問

Q1: 健康診断の結果を従業員に渡しただけでは足りないのですか?

はい、足りません。法律では結果の本人通知だけでなく、異常所見がある場合は医師の意見聴取と就業上の措置の実施が義務付けられています。これらの事後措置を怠ると、労基署の行政指導や従業員の健康被害時に損害賠償請求を受けるリスクがあります。

Q2: 従業員数50人未満の小さな会社では、産業医がいないので事後措置ができないのではないですか?

いいえ、産業医がいなくても対応できます。地域産業保健センター(無料)の活用、嘱託産業医の依頼、または従業員のかかりつけ医への照会など複数の方法があるため、会社の規模に関わらず医師の意見聴取が可能です。

Q3: 健診結果で『要経過観察』という判定が出ました。これは対応する必要がありますか?

『要経過観察』は判定によっては対応が必要です。業務内容によっては医師への相談が求められる場合があるため、人事担当者の自己判断で大丈夫と決めず、必ず医師の意見聴取に進むことが重要です。

健康診断の事後措置や保健指導の体制整備には、INTERMINDの産業医サービスが役立ちます。専属の産業保健スタッフが継続的にサポートします。

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