少子化対策と働き方改革の一環として、育児・介護休業法は2021年・2022年・2025年と短期間に連続して改正されてきました。法律の改正そのものは社会的に意義のあることですが、中小企業の経営者や人事担当者にとっては「また改正があった」「自社は何をしなければならないのか」という対応疲れを感じている方も少なくないのではないでしょうか。
特に2025年4月に施行された改正は、育児だけでなく介護に関する制度も大幅に拡充されており、就業規則の改定から従業員への周知・意向確認の仕組みづくりまで、企業に求められる対応範囲は非常に広くなっています。本記事では、中小企業が今すぐ確認・対応すべき改正ポイントを整理し、実務に活かせる情報をわかりやすく解説します。
改正の全体像を把握する:3段階の施行スケジュール
まず混乱を避けるために、育児・介護休業法の近年の改正が「いつ・何が変わったのか」を時系列で整理しておきましょう。
2021年改正(2022年4月〜段階施行)
この改正では、主に以下の3点が大きな変化として挙げられます。
- 雇用環境整備・個別周知の義務化:育児休業を取得しやすい環境を整えるための措置(研修実施・相談窓口の設置など)が義務となり、従業員が妊娠・出産を申し出た際には個別に制度を周知し、取得の意向を確認することが求められるようになりました。
- 産後パパ育休(出生時育児休業)の創設:子の出生後8週間以内に、最大4週間(28日)取得できる制度が新設されました。通常の育児休業とは別枠で取得でき、2回に分割することも可能です。申出期限は原則2週間前と、通常の育休(1ヶ月前)よりも短く設定されている点が特徴です。
- 育児休業の分割取得の解禁:従来は原則1回しか取得できなかった育児休業を、2回まで分割して取得できるようになりました。これにより、夫婦が交互に育休を取得するといった柔軟な運用が可能になっています。
2023年改正(2025年4月〜施行)
2025年4月施行の改正は、育児と介護の両方にわたる幅広い内容が含まれています。企業の実務に直接影響する主な変更点は以下のとおりです。
- 子の看護休暇の拡充:取得できる子の対象年齢が、小学校就学前から小学校3年生修了時まで引き上げられました。また、取得できる事由も従来の病気・けが・健診に加え、感染症対策や学校行事への参加なども対象に加わっています。
- 所定外労働の制限対象の拡大:残業を免除する権利を持てる対象が、3歳未満の子を持つ従業員から小学校就学前の子を持つ従業員まで広がりました。
- 3歳〜小学校就学前の子を持つ従業員への措置義務:この年齢の子を持つ従業員に対して、短時間勤務や始業・終業時間の変更、テレワークなど柔軟な働き方を選択できる措置を講じることが義務となっています(テレワークについては努力義務)。
- 育休取得状況の公表義務の拡大:これまで1,000人超の企業に義務付けられていた育児休業等の取得状況の公表が、従業員150人超の企業にまで拡大されました。中小企業にとっても対象となる企業が増えています。
- 介護関連の整備:介護が必要な家族を抱える従業員に対しても、個別周知・意向確認が義務化されました。また、介護休暇の取得要件が緩和され、勤続6ヶ月未満の従業員も取得できるようになっています。さらに、介護のためのテレワーク努力義務や所定外労働の制限も新設されています。
中小企業が特に注意すべき「個別周知・意向確認」の義務
改正内容の中でも、中小企業にとって見落としがちで、かつ実務上の影響が大きいのが個別周知・意向確認の義務です。2022年4月から育児休業についての義務が始まり、2025年4月からは介護についても同様の義務が加わりました。
「義務」という言葉からも明らかなように、これは努力目標ではなく、企業として必ず実施しなければならない対応です。具体的には、以下のような場面で対応が求められます。
- 従業員(本人または配偶者)が妊娠・出産の申出をした場合 → 育児休業制度の個別周知と意向確認
- 従業員が家族の介護が必要な状況を申し出た場合 → 介護休業・介護休暇などの制度の個別周知と意向確認
実務上よくある誤りとして、「社内にポスターを貼っている」「就業規則に規程がある」といった対応を周知として扱ってしまうケースがあります。しかし法律が求めているのは個別の周知です。当事者に対して面談や書面・メールなどで直接、制度内容を説明し、意向を確認する必要があります。
なお、意向確認の際は「育休を取りますか?」といった形で取得を前提にした聞き方をすることで、従業員が断りにくいと感じるケースもあります。あくまでも中立的な文言で「制度について理解していただいたうえで、ご意向をお聞きしたい」というスタンスで臨むことが重要です。また、面談記録や書面の交付記録を保存しておくことで、後のトラブル防止にもつながります。
就業規則・育児介護休業規程の整備は急務
法改正への対応として最初に取り組むべき実務作業が、就業規則および育児・介護休業規程の改定です。産後パパ育休や育児休業の分割取得、2025年施行の各種措置義務など、新たに制度化された内容は規程に明文化する必要があります。
整備のチェックポイント
- 産後パパ育休(出生時育児休業)の制度・手続き・分割取得の要件が明記されているか
- 育児休業の分割取得(2回まで)が規程に反映されているか
- 子の看護休暇の対象年齢・取得事由が最新の内容に更新されているか
- 3歳〜小学校就学前の子を持つ従業員への柔軟な働き方の選択肢が規定されているか
- 介護休暇の取得要件(勤続6ヶ月未満も対象)が最新化されているか
- 有期雇用労働者の育児休業取得要件について、自社がどう定めているかが明確か
規程を改定した場合は、労働基準監督署への届出も必要です(常時10人以上の従業員がいる場合)。また、就業規則本則と育児・介護休業規程の間に矛盾や抜け漏れが生じていないかを確認することも大切です。
なお、有期雇用労働者(契約社員・パートタイム等)については、労使協定(労働者代表との書面による協定)を締結することで、一定の要件を満たさない有期雇用従業員を育児休業の対象外とすることができる制度が残っています。ただし協定がなければ原則として有期雇用労働者も対象となるため、自社の方針を明確にしたうえで対応を決める必要があります。
男性育休の取得推進と職場環境づくり
産後パパ育休の創設は、男性が育児に積極的に関わる機会を制度面で支えるものです。しかし、制度があっても職場の雰囲気や上司の理解が不足していれば、実際には取得しにくい状況が続いてしまいます。特に中小企業では、「一人抜けると業務が回らない」「前例がない」といった理由で、男性従業員が育休取得に踏み出せないケースが多く見られます。
推進のための実践的なアプローチとして、以下が有効と考えられます。
- 経営トップが取得推進を明言する:経営者や役員が「男性も育休を取ることを歓迎する」と社内で宣言することで、現場の雰囲気は大きく変わります。
- ロールモデルとなる事例を社内に共有する:実際に育休を取得した男性従業員の体験談を社内報やミーティングで紹介するなど、取得が「特別なこと」ではないという認識を広める取り組みが効果的です。
- 管理職への研修を実施する:部下からの申出を適切に受け止めるためには、管理職が制度を正しく理解している必要があります。育休取得の妨害(いわゆる「育休ハラスメント」)はパワーハラスメントに該当する可能性もあるため、制度説明と合わせてハラスメント防止の観点も研修に含めましょう。
- 業務の属人化を減らす:特定の従業員しか対応できない業務は、育休だけでなく病気や退職時にもリスクになります。業務マニュアルの整備やチームでの情報共有を進めることで、誰かが休んでも対応できる体制を日頃から構築しておくことが重要です。
2025年4月からは、従業員150人超の企業に育休取得状況の公表義務が課されています。これに該当する企業は、自社の育休取得率(男女別)を把握し、公表媒体(自社ウェブサイト等)を準備しておく必要があります。
助成金と給付金を活用して制度整備のコストを軽減する
育児・介護休業制度への対応は一定のコストがかかりますが、国の助成金や給付金制度を活用することで、企業の負担を軽減できる場合があります。
両立支援等助成金
厚生労働省が所管する両立支援等助成金は、育児・介護との両立支援に取り組む企業を対象にした助成制度です。複数のコースがあり、代表的なものとして以下が挙げられます。
- 出生時両立支援コース(子育てパパ支援助成金):男性従業員が産後パパ育休を取得した場合などに助成が受けられます。中小企業に対する助成額は、第1種(最初の取得者)の場合、一定の要件を満たすことで受給できます(金額や要件は申請時点の最新情報を厚生労働省または最寄りの都道府県労働局で確認してください)。
- 育児休業等支援コース:育休取得者の業務代替体制を整えた場合や、育休取得後の職場復帰を支援した場合に助成が受けられます。
育児休業給付金と社会保険料免除
従業員が育児休業を取得した場合、雇用保険から育児休業給付金が支給されます。給付率は休業開始後180日間は休業前賃金の67%、181日目以降は50%が基本となっています。
さらに2025年には、両親ともに14日以上の育休を取得した場合、最大28日間は手取りで10割相当になるよう給付を強化する見直しが予定されています(施行時期等の詳細は最新情報を確認してください)。
また、育児休業期間中は一定の条件を満たすことで社会保険料(健康保険・厚生年金)が免除されます。企業負担分も免除の対象となるため、企業にとっても休業中のコスト負担が抑えられる仕組みになっています。
なお、助成金の受給要件や手続きは定期的に変更されることがあります。最新かつ正確な情報は、厚生労働省の公式ウェブサイトや最寄りの都道府県労働局・ハローワークで確認することをお勧めします。
今すぐ取り組むべき実践ポイント
ここまでの内容を踏まえ、中小企業の経営者・人事担当者が優先的に取り組むべき実践ポイントを整理します。
- 育児・介護休業規程の現状を確認し、改定が必要な箇所をリストアップする:特に2025年4月施行の内容(子の看護休暇の拡充、柔軟な働き方の措置義務、介護関連の整備等)が反映されているかを確認します。社労士などの専門家に依頼することも有効です。
- 個別周知・意向確認の社内フローを整備する:妊娠・出産の申出があった際に誰がどのような手順で対応するかを明確にし、記録を残す仕組みを作ります。介護についても同様のフローが必要です。
- 管理職向けの制度説明の場を設ける:法改正の内容と、部下からの申出を受けた際の適切な対応についてレクチャーする機会を設けます。
- 150人超の企業は育休取得状況の公表準備を進める:男女別の育休取得率を把握し、公表のタイミングと媒体を確認しておきます。
- 助成金の受給要件を確認し、申請に向けた準備を始める:両立支援等助成金は事前に計画書の提出が必要なコースもあるため、余裕を持って手続きを始めることが大切です。
- 業務の属人化解消に取り組む:特定の従業員に業務が集中している部署を洗い出し、引継ぎ手順の整備やマニュアル化を進めます。
まとめ
育児・介護休業法の改正は、従業員が仕事と家庭を両立しやすい社会を実現するための重要な制度整備です。一方で、中小企業にとっては対応すべき内容が多岐にわたり、負担感があることも事実です。
しかし、制度対応を後回しにすることには法的なリスクだけでなく、優秀な人材の流出や採用力の低下といった経営リスクも伴います。育児や介護に直面する従業員が「この会社なら安心して続けられる」と感じられる職場づくりは、長期的に見れば企業の競争力を高めることにつながります。
まずは自社の規程と対応フローの現状を確認し、不備があれば速やかに整備を進めましょう。専門家(社会保険労務士など)の力を借りることも、確実かつ効率的な対応につながる選択肢の一つです。改正内容の詳細や助成金の最新情報については、厚生労働省の公式ウェブサイトや都道府県労働局を通じて常に最新情報を確認するようにしてください。
よくある質問
Q1: 2021年の改正で創設された産後パパ育休は、通常の育児休業とどう違うのですか?
産後パパ育休は子の出生後8週間以内に最大4週間取得でき、通常の育児休業とは別枠です。申出期限が2週間前と短く、2回に分割することも可能という点が特徴で、父親の早期休取を促進する制度として設計されています。
Q2: 2025年4月の改正で、中小企業にとって新たに負担が増える理由は何ですか?
育児に関する制度がさらに充実したうえ、介護関連でも個別周知・意向確認が新たに義務化されたため、対応範囲が大幅に拡大したためです。また、育休取得状況の公表義務が1,000人超から150人超の企業まで拡大され、中小企業の対象が増えています。
Q3: 個別周知・意向確認の義務において、就業規則に規程を記載するだけでは不十分なのですか?
その通りです。法律が求める「個別周知」とは、ポスター掲示や就業規則への記載ではなく、当事者に対して面談や書面・メールで直接制度を説明し、意向を確認することを指します。これは努力目標ではなく企業の義務です。
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