「また法改正があったのか」——そう感じながらも、日々の業務に追われてなかなか詳細まで把握できていない経営者・人事担当者の方は少なくないでしょう。雇用保険制度は、従業員の生活保障と企業の労務管理の両方に直結する重要な仕組みです。しかし、近年は育児・介護給付の拡充、短時間労働者への適用拡大、電子申請の推進など、複数の改正が同時並行で進んでいます。
特に2024〜2025年にかけての改正は、中小企業の実務に大きな影響を与える内容が多く含まれています。本記事では、雇用保険の改正2024・2025年の主なポイントを整理したうえで、人事担当者が現場でつまずきやすいポイントと、今すぐ取り組むべき実務対応を具体的に解説します。
2024〜2025年の雇用保険制度、何がどう変わったのか
まず今回の改正全体の流れを整理しておきましょう。2024〜2025年にかけての改正は、大きく5つの柱で構成されています。
- 育児休業給付の給付率引き上げと新給付の創設(2025年4月施行)
- 介護休業給付の給付率引き上げ
- 短時間労働者への適用範囲の段階的拡大
- 教育訓練給付の拡充と新給付の創設
- 雇用保険料率の動向
これらは単独の改正ではなく、「働く人のライフイベントを支える給付の強化」と「多様な働き方への対応」という2つの大きな方向性のもとに進められています。以下、それぞれの内容を詳しく見ていきます。
育児・介護給付の拡充:人事担当者が押さえるべき変更点
育児休業給付の給付率引き上げ(2025年4月施行)
育児休業給付金は、育児休業中の収入補てんを目的とした給付です。従来は休業開始から6ヶ月間が給付率67%、それ以降が50%という水準でした。2025年4月の改正では、父母ともに育児休業を取得した場合、子の出生後28日間の給付率が80%に引き上げられます。
この80%という数字には背景があります。社会保険料の支払いが育児休業中は免除されるため、手取りベースで換算すると実質的に従前賃金の約10割相当になると試算されています(給付率80%+社会保険料免除分の合算による試算)。これは従業員にとって大きなメリットであり、特に男性の育児休業取得を後押しする狙いがあります。
また、今回の改正では「育児休業等給付」への再編も行われ、新たに出生後休業支援給付金が創設されます。これは子の出生後28日以内に父母ともに育休を取得した場合に支給される上乗せ給付で、給付率の引き上げと合わせた複合的な支援策です。なお、給付の詳細な要件や手続きについては、最新の厚生労働省資料またはハローワークにご確認ください。
人事担当者としては、従業員から「育児休業中の手取りはどうなるか」という問い合わせが増えることが予想されます。制度の仕組みを正確に理解し、個別に案内できる体制を整えておくことが重要です。
介護休業給付の給付率引き上げ
介護休業給付は、家族の介護のために休業した場合に支給される給付です。現行の給付率は67%ですが、2025年度以降に80%へ引き上げられる方向で検討が進んでいます。施行時期や要件の詳細は、最新の厚生労働省資料で確認してください。背景には、介護離職の防止を明確な政策目標として位置づける狙いがあります。
ここで注意が必要なのが、社内規程と法律上の「介護休業」の定義のずれです。介護休業給付の対象となるのは、雇用保険法上の「介護休業」の定義を満たす場合に限られます。就業規則で独自の介護休暇・休業制度を定めている場合、その制度が給付対象と合致しているかを改めて確認しておく必要があります。定義がずれていると、従業員が制度を利用したにもかかわらず給付を受けられないというトラブルに発展するケースがあります。就業規則の確認・改定にあたっては社会保険労務士にご相談ください。
短時間労働者の適用拡大:今から備えておくべき理由
現在、雇用保険の加入要件は週20時間以上の労働時間であることが基本的な条件の一つです。しかし、この基準を将来的に週10時間以上へ段階的に引き下げる方向で検討が進んでいます(2025年時点で施行時期・段階は未確定)。企業規模別の段階的施行が予定されており、中小企業への適用時期は今後の政令・省令で定められる見通しです。
この改正が実施されると、これまで雇用保険の対象外だった短時間パート・アルバイト従業員が新たに被保険者となります。企業にとっては次のような実務的影響が生じます。
- 新たに対象となる従業員の洗い出しと被保険者資格取得届の提出
- 給与計算における雇用保険料控除の追加対応
- 事業主負担分の保険料増加による人件費コストの上昇
- 労働時間管理の精度向上(週の所定労働時間を正確に把握する仕組みの整備)
「週20時間未満のパートは雇用保険に加入しなくてよい」という認識は現時点では正しいものの、制度変更後にその考えのまま運用を続けると、未加入者が大量発生するリスクがあります。今のうちに在籍する短時間労働者の労働時間を把握し、適用拡大に備えた管理体制を整えることが得策です。
また、副業・兼業者の取り扱いにも注意が必要です。65歳以上の労働者を対象とした「マルチジョブホルダー制度」(複数の事業所での労働時間を合算して週20時間以上であれば雇用保険に加入できる制度)が設けられています。本人からの申請が原則であるため、自社の高齢従業員にこの制度が適用される可能性がある場合は、制度の存在を周知しておくことが望まれます。
教育訓練給付の拡充と雇用保険料率の動向
教育訓練給付の拡充と新給付の創設
教育訓練給付は、労働者が厚生労働大臣の指定を受けた教育訓練を受講・修了した場合に、費用の一部が支給される制度です。今回の改正では、特定一般教育訓練・専門実践教育訓練の給付率が引き上げられるとともに、教育訓練休暇給付金が新設されました。
教育訓練休暇給付金は、自発的なスキルアップのために休暇を取得した際の収入減少を補てんすることを目的とした給付です。在職者・離職者を問わず活用できる制度として整備されており、従業員のリスキリング(職業能力の再開発)や自律的なキャリア形成を後押しする狙いがあります。なお、受給要件や支給額の詳細は厚生労働省の最新資料またはハローワークでご確認ください。
人事担当者としては、この制度を従業員に積極的に周知することで、研修費用の負担を軽減しながらスキルアップを促進できるというメリットがあります。制度利用の案内資料を作成したり、社内イントラや掲示板で情報提供したりする取り組みが有効です。
雇用保険料率の確認と給与計算への反映
雇用保険料率は毎年度見直しが行われます。2024年度の保険料率は、一般の事業の場合、労働者負担が0.6%、事業主負担が0.95%(失業等給付・育児休業給付分+雇用保険二事業分の合計)です。農林水産業・清酒製造業・建設業では料率が異なりますので、自社の事業区分を確認のうえ適用してください。なお、料率は年度ごとに変更される場合があるため、必ず最新年度の厚生労働省公表値をご確認ください。
保険料率の改定は4月1日付けで行われるケースが多く、3月分の給与(4月支給)の計算から新料率を適用する必要があります。年度切り替え時に給与計算システムの設定を更新し忘れるというミスは決して珍しくありません。毎年3月末までに厚生労働省や都道府県労働局のウェブサイトで翌年度の料率を確認し、システム担当者と連携して事前に設定変更を済ませる習慣をつけておきましょう。
実務対応の実践ポイント:今すぐ取り組める5つのアクション
① 手続きの期限管理を仕組み化する
雇用保険の手続きには、法律で定められた提出期限があります。被保険者の資格取得・喪失届は採用または退職の翌月10日まで、育児休業給付の申請は休業開始から2ヶ月後の翌月末が目安です。離職票の交付遅延が従業員の失業給付受給開始を遅らせ、トラブルになるケースも報告されています。
こうした期限を一覧化したチェックリストを作成し、担当者が異動・退職した場合でも対応が継続できる体制を整えることが重要です。
② 賃金台帳・出勤簿の整備を日常業務に組み込む
給付申請の際に必要となる賃金台帳・出勤簿などの書類は、日常的に正確に記録・保存されていることが前提です。記録不備があると、給付額の算定根拠を証明できず、申請が遅れたり給付が適正に計算されなかったりするリスクがあります。電子申請(e-Gov・GビズIDを活用したオンライン手続き)の活用も視野に入れながら、書類管理の電子化・クラウド化を検討することをお勧めします。
③ 育児・介護給付の拡充内容を就業規則に反映する
法改正に伴って給付内容が変わった場合、就業規則や社内規程の内容が現行法と整合しているかを確認・更新する必要があります。特に育児休業・介護休業の定義、取得条件、賃金の取り扱いなどは、法律の改正内容と社内規程のずれが生じやすいポイントです。就業規則の改定後は労働基準監督署への届出も必要ですので、社会保険労務士への相談も含めて計画的に対応しましょう。
④ 短時間労働者の労働時間を正確に把握する体制を整える
適用拡大に備え、現在在籍しているパート・アルバイト従業員の週の所定労働時間を正確に把握する仕組みを整えておきます。シフト制や変形労働時間制を採用している場合は特に注意が必要です。労働時間管理ツールや勤怠管理システムを活用し、週単位での集計が容易にできる環境を整えることが対応の第一歩となります。
⑤ 助成金との連動を確認し、活用機会を逃さない
雇用保険制度の改正は、関連する助成金制度の拡充と連動しているケースがあります。たとえば、両立支援等助成金(育児・介護と仕事の両立支援に取り組む事業主への助成)やキャリアアップ助成金(非正規雇用労働者の正社員化・処遇改善等に取り組む事業主への助成)などが代表的です。ただし、助成金には受給後も一定期間の支給要件の維持が求められるものがあり、要件を満たせなくなった場合は返還を求められるリスクがあります。申請前に要件を精査し、確実に維持できるか確認したうえで活用を検討してください。助成金の申請手続きや要件確認については、社会保険労務士またはハローワークにご相談ください。
まとめ:制度改正への「先手対応」が企業を守る
雇用保険制度の改正は、従業員の安心・安全な働き方を守るためのものであると同時に、企業の労務管理に直接影響を与えます。今回の2024〜2025年の改正では、育児・介護給付の給付率引き上げ、短時間労働者の適用拡大、教育訓練給付の拡充など、複数の変更が重なって進んでいます。
大切なのは、「改正が施行されてから対応する」のではなく、施行前に内容を理解し、就業規則・給与計算・手続き体制を整えておく「先手対応」の姿勢です。専門家(社会保険労務士)がいない中小企業では特に、厚生労働省の公式ウェブサイトや労働局のリーフレット、ハローワークの窓口を活用した情報収集を定期的に行うことをお勧めします。
法改正の情報をいち早くキャッチし、従業員に正確な情報を提供できる企業は、優秀な人材の定着や採用競争力の向上にもつながります。今回の改正ポイントを足がかりに、自社の雇用保険対応の体制を今一度点検してみてください。
よくある質問
Q1: 育児休業給付の給付率が80%に引き上げられるとのことですが、手取りが10割相当になるというのはどういう意味ですか?
育児休業中は社会保険料(健康保険・厚生年金など)の支払いが免除されるため、給付率80%に加えて社会保険料免除分を合算すると、実質的に従前賃金の約10割相当になるということです。つまり、給付金の手取りと社会保険料の支払い免除を合わせると、実務上の経済効果がほぼ従前の給与と同等になるという意味です。
Q2: 短時間労働者への適用拡大で、企業にとって具体的にどのような負担が増えるのですか?
これまで雇用保険の対象外だった週10~20時間の短時間労働者が新たに被保険者となるため、企業は給与計算での保険料控除追加、事業主負担分の保険料増加による人件費コスト上昇が生じます。また、労働時間管理を正確に行う仕組みの整備や、対象となる従業員の洗い出しなど、事務的な対応も増加します。
Q3: 就業規則で独自の介護休暇制度を定めている場合、改正に対応するために何をしたらよいですか?
社内規程の「介護休業」の定義が雇用保険法上の定義と合致しているか確認することが重要です。ずれがあると、従業員が制度を利用しても給付を受けられないトラブルが発生する可能性があるため、就業規則の確認・改定にあたっては社会保険労務士に相談することをお勧めします。
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