【2024年改正】労働安全衛生法で中小企業がやるべき5つの対応策|罰則前に確認すべきチェックリスト付き

「改正があったのはなんとなく知っているが、自社に何が必要なのか整理できていない」——中小企業の経営者や人事担当者から、こうした声を頻繁に耳にします。労働安全衛生法は、近年にわたって段階的に大きな改正が加えられており、2024年はとりわけ影響範囲の広い施行内容が集中した年です。

特に問題となりやすいのが、「自社は製造業ではないから関係ない」「50人未満だから義務の対象外だ」といった思い込みによる準備の遅れです。実際には、業種や規模を問わず対応が求められる項目が増えており、行政指導や罰則のリスクを抱えたまま運営を続けている事業場も少なくありません。

本記事では、2024年の労働安全衛生法改正のうち中小企業が優先して把握すべきポイントを整理し、現場で実際に動ける実務対応のヒントをお伝えします。専門家に相談するコストがなかなか確保できない環境にある方にこそ、まず全体像を把握していただくことを目的としています。

目次

2024年改正の全体像:なぜ今、これほど変わっているのか

2024年の労働安全衛生法改正は、単発の制度見直しではなく、2022年から2027年にかけて段階的に進む大規模な法整備の中間地点にあたります。今回の改正が多くの事業場に影響する理由は、主に以下の3点にまとめられます。

  • 化学物質規制の管理の枠組みそのものが変わった
  • 規制の対象となる物質数が大幅に拡大した
  • 業種・規模にかかわらず義務が課される項目が増えた

これまでの労働安全衛生法における化学物質規制は、国が指定した物質ごとに個別の管理義務を設けるという仕組みでした。いわば「国が指定したものだけ気をつければいい」という考え方です。しかし2022年以降の改正では、この考え方が根本から転換されました。新しい仕組みでは、事業者自身が職場で使用する化学物質のリスクを評価し、管理策を講じる「自律的管理」が求められるようになっています。

また、2024年4月には墜落・転落防止対策の強化、熱中症対策に関する規制の明確化など、化学物質以外の分野でも重要な施行が重なっています。これだけ広範囲に及ぶ改正であるため、「どれから手をつければいいかわからない」という混乱が生じやすい状況にあります。まずは自社に関係する項目を正確に把握することが、対応の第一歩です。

最重要項目:化学物質規制の大幅な転換と実務対応

2024年改正の中でも、中小企業にとって最も影響が大きいのが化学物質規制の変更です。以下では、特に押さえるべき内容を整理します。

リスクアセスメント対象物質が大幅に拡大

リスクアセスメントとは、職場における危険性や有害性を事前に調査・評価し、リスクを低減するための措置を検討・実施するプロセスです。今回の改正により、このリスクアセスメントの義務対象となる物質数が、従来の約674物質から約2,900物質へと大幅に拡大されました。

ここで注意が必要なのは、「製造業ではないから関係ない」という思い込みです。飲食店の厨房で使われる業務用洗剤、美容院のヘアカラー剤、事務所で使用する洗浄スプレーや溶剤系の接着剤なども、対象物質を含んでいる場合があります。業種を問わず、まず自社で使用している化学物質の棚卸しを行い、SDS(安全データシート)を確認することが出発点です。

SDSとは、化学物質の製造者や輸入者が提供する、成分・危険性・取り扱い上の注意事項などを記載した書類です。仕入先やメーカーに最新版の提供を依頼し、内容を確認する作業が実務上の第一歩になります。

化学物質管理者・保護具着用管理責任者の選任義務

2024年4月から、リスクアセスメント対象物質を製造・取り扱うすべての事業場において、化学物質管理者と保護具着用管理責任者の選任が義務付けられました。この義務には事業場の規模(従業員数)による免除はなく、小規模の事業場でも対象物質を使用していれば選任が必要です。

よくある誤解として、「担当者を社内で任命さえすれば手続きは完了」と考えるケースがあります。しかし、名称だけの選任では足りません。化学物質管理者については、製造業その他の業種では規定の講習を修了していることが要件とされており(ただし業種や規模等によって要件が異なる場合があります)、選任した後も権限の付与・活動の記録・定期的な教育が求められます。名ばかり選任は行政指導の対象になり得るため、形式だけでなく実質的な機能を持たせることが重要です。詳細な要件については、管轄の労働基準監督署または産業保健総合支援センターにご確認ください。

2024年4月施行:保護具着用義務の追加

2024年4月からは、皮膚障害等防止用の保護具(手袋・保護メガネ等)の着用義務が強化されました。皮膚や眼に刺激・腐食性を持つ物質を取り扱う作業では、適切な保護具の選定・使用が求められます。手袋であれば素材の適合性・サイズ管理、使い捨て品の定期交換ルールまで含めた整備が求められます。また、作業環境測定の結果が管理濃度を超える「第3管理区分」と判定された事業場については、改善措置の義務がさらに強化されています。

見落とされがちな2つの改正:墜落防止対策と熱中症対策

フルハーネス型墜落制止用器具の適用範囲拡大

高所作業における墜落・転落防止については、フルハーネス型の墜落制止用器具(いわゆる安全帯)の使用義務が段階的に拡大されてきました。2024年の見直しでは、対象となる作業の範囲を改めて確認する必要があります。

実務上の注意点として、フルハーネスの特別教育を受講していない従業員が対象となる高所作業を行うことは法令違反になります。受講状況の記録を整備し、未受講者がいる場合は速やかに受講させる必要があります。また、外部の一人親方や下請け業者に作業を委託している場合でも、発注者側として教育受講を確認する責任が生じる場合があるため、注意が必要です。

熱中症対策:「屋外だけ」という誤解が危険

熱中症対策については、WBGT(暑さ指数)という指標を用いた管理の重要性がより明確に位置付けられました。WBGTとは、気温・湿度・輻射熱(ふくしゃねつ:太陽や機器などからの熱放射)を組み合わせた、暑さの厳しさを総合的に評価する指標です。

ここで多くの事業者が誤解しているのが、「熱中症対策は屋外作業の話」という認識です。工場・厨房・倉庫など屋内であっても高温環境となる作業場も対象となります。飲食業・製造業・物流業などでは、特に夏季の屋内作業環境について見直しが必要です。

実務上は、WBGT測定器の整備、作業強度別の数値基準の掲示と周知、計画的な休憩と水分補給のルール化と記録、そして新入社員や配置転換直後の従業員への「暑熱順化期間(暑い環境に体を慣らすために必要な期間、一般的に数日から1〜2週間程度)」の設定が求められます。

体制整備:規模別に確認すべきポイント

労働安全衛生法における義務の多くは、事業場の従業員数によって要件が異なります。「規模要件」(従業員数による義務の有無)と「物質要件」(使用物質による義務の有無)を混同しないことが、正確な対応への第一歩です。

50人以上の事業場

従業員50人以上の事業場には、安全衛生委員会(安全委員会と衛生委員会を設置するか、または統合した安全衛生委員会を設置する)の設置と、毎月の開催・記録の整備が義務付けられています。ただし、安全委員会の設置義務は業種により異なります。開催記録が形式的なものになっていないか、議事録の保存と労働者への周知がなされているかを再確認してください。

10人以上50人未満の事業場

この規模の事業場では、安全衛生推進者(または衛生推進者)の選任が義務付けられています。委員会の設置は義務ではありませんが、職場の安全衛生活動を推進する担当者を明確にし、その活動を記録しておくことが実務上重要です。

規模にかかわらず義務となる事項

先述のとおり、化学物質管理者・保護具着用管理責任者の選任は、対象物質を取り扱う事業場であれば規模を問わず義務です。また、年1回の定期健康診断の実施と結果の保存、有所見者(健診で異常の所見があった労働者)への就業上の措置と医師への意見聴取も、業種・規模に関係なく義務となっています。健診を実施しているだけで記録・フォローアップが不十分なケースは依然として多く、行政調査の際に指摘されやすい点です。なお、有所見者への具体的な就業措置については産業医等の専門家に相談することをお勧めします。

今すぐ取り組める実践ポイント

改正対応を「いつかやること」として先送りにしているうちに、行政の定期監督が入るケースは珍しくありません。以下に、すぐに着手できる実践的な対応を優先順位とともに整理します。

  • 【第1優先】使用化学物質の棚卸しとSDS収集:工場・倉庫・事務所・厨房など、職場で使用しているすべての化学物質を洗い出し、仕入先・メーカーから最新版のSDSを入手します。まず「使っているものを把握する」ことが対応の土台です。
  • 【第2優先】化学物質管理者・保護具着用管理責任者の選任:対象物質の取り扱いがあることが確認できたら、速やかに選任手続きを進め、化学物質管理者については規定の講習受講を手配します。
  • 【第3優先】リスクアセスメントの実施と記録:使用物質ごとにリスクの程度を評価し、管理措置の内容と合わせて記録として残します。「実施した」という事実だけでなく、「記録として証明できる」ことが求められます。
  • 【第4優先】高所作業従事者のフルハーネス特別教育受講状況の確認:対象となる従業員全員の受講記録を確認し、未受講者がいれば受講を優先させます。
  • 【第5優先】熱中症対策ルールの文書化と周知:WBGT測定の仕組み、休憩のルール、緊急時の対応手順を文書化し、従業員全員に周知します。

なお、助成金・補助金制度についても積極的に活用を検討してください。安全衛生対策や設備整備に関連して活用できる制度が存在する場合があります。管轄の労働基準監督署や中小企業支援センターに相談することで、自社が利用できる制度を確認できます。

まとめ

2024年の労働安全衛生法改正は、化学物質規制の自律的管理への転換、対象物質の大幅拡大、墜落防止・熱中症対策の強化など、多岐にわたる内容を含んでいます。中小企業にとって最も重要なのは、「うちには関係ない」という思い込みを捨て、業種・規模の別なく自社に求められる義務を正確に把握することです。

特に化学物質管理者と保護具着用管理責任者の選任は、従業員数にかかわらず対象物質を使用する事業場に義務付けられており、名ばかり選任ではなく実質的な機能を伴った体制整備が求められています。また、リスクアセスメントは「実施すること」だけでなく「記録として残すこと」が義務の要件となっている点も見落としがちなポイントです。

法令対応を適切に進めることは、コスト負担として捉えられがちですが、労働災害の発生を防ぎ、従業員の健康と職場の安定を守ることに直結します。まずは使用化学物質の棚卸しとSDS収集から着手し、小さな一歩を確実に積み重ねていくことが、着実な法令対応への近道です。不明点がある場合は、管轄の労働基準監督署や産業保健総合支援センター(各都道府県に設置された無料相談窓口)への相談も積極的に活用してください。

よくある質問

Q1: うちは製造業ではなく小規模な事務所ですが、この改正は関係あるのでしょうか?

業種や規模を問わず対応が求められています。事務所で使用する洗浄スプレーや接着剤などにも対象物質が含まれている場合があり、従業員数による免除規定はありません。まずは自社で使用している化学物質の確認が必要です。

Q2: 化学物質管理者を選任すれば対応は完了ですか?

名称だけの選任では不十分です。規定の講習修了、権限付与、活動記録、定期的な教育など実質的な機能が求められ、名ばかり選任は行政指導の対象となります。管轄の労働基準監督署に詳細要件を確認することをお勧めします。

Q3: 改正対象となる化学物質が大幅に増えたとのことですが、具体的に何をしたらいいでしょうか?

まず自社で使用している全ての化学物質の棚卸しを行い、仕入先やメーカーから最新版のSDS(安全データシート)を取得して内容を確認することが出発点です。SDS確認を通じて対象物質を特定し、リスクアセスメントを進めていきます。

労働法改正への対応や安全衛生管理体制の整備には、INTERMINDの産業医サービスが力になります。専門家による継続的なサポートで法令対応を進められます。

産業医・メンタルヘルスのご相談はお気軽に

まずは資料請求・無料相談から。専任担当がサポートします。

目次