「うちは小さい会社だから、カウンセリングなんて大げさでは?」「導入したいけれど費用がどれくらいかかるのかわからない」「従業員のプライバシーは守られるのだろうか」——こうした声は、中小企業の経営者や人事担当者から非常によく聞かれます。
近年、働く人のメンタルヘルス問題は規模を問わずあらゆる職場の課題となっています。厚生労働省の調査によれば、仕事や職業生活に強いストレスを感じる労働者の割合は長年にわたって50%を超え続けており、精神障害による労災請求件数も年々増加傾向にあります。こうした状況の中で注目を集めているのが、オンラインカウンセリングの職場導入です。
インターネットを通じてカウンセラーと面談できるオンラインカウンセリングは、従来の対面カウンセリングと比べてコストが抑えやすく、場所や時間の制約が少ないという特長があります。しかし、実際に導入を検討しようとすると、費用の仕組みや法律上の位置づけ、サービスの選び方など、わからないことが多くて二の足を踏んでしまう担当者も少なくありません。
本記事では、中小企業がオンラインカウンセリングを職場に導入するための具体的な方法を、法律・費用・運用の三つの観点から丁寧に解説します。
オンラインカウンセリングと法律上の位置づけを正しく理解する
導入を検討する前に、まずオンラインカウンセリングが法律上どのように位置づけられているかを確認しておきましょう。
労働安全衛生法では、従業員数50人以上の事業場に対してストレスチェック制度の実施が義務付けられています(第66条の10)。また、ストレスチェックで高ストレスと判定された労働者が申し出た場合には、医師による面接指導を実施する義務も生じます。一方、オンラインカウンセリングの導入そのものは法律で義務付けられてはおらず、努力義務として活用できる支援策として位置づけられています。
厚生労働省が定める「労働者の心の健康の保持増進のための指針(メンタルヘルス指針)」は、職場のメンタルヘルス対策として四つのケアを推奨しています。セルフケア(労働者自身による取り組み)、ラインケア(管理職によるケア)、事業場内EAPによるケア、そして事業場外EAPによるケアの四つです。EAPとは「Employee Assistance Program(従業員支援プログラム)」の略称で、外部の専門機関が提供する支援サービスのことを指します。オンラインカウンセリングはこの「事業場外EAP」に該当し、メンタルヘルス対策の正式な手段として厚生労働省の指針に沿ったものです。
また、重要な点としてカウンセリングは医療行為には当たりません。診断を下したり薬を処方したりすることはカウンセラーには認められていませんが、精神的な悩みや職場でのストレスについて専門家に話を聴いてもらい、対処法を一緒に考えるという支援は、従業員のメンタルヘルスを守る上で非常に有効な手段です。
なお、カウンセリングの内容は「要配慮個人情報」に該当します。個人情報保護法の観点から、取得・利用・第三者への提供に際しては原則として本人の同意が必要であり、サービス事業者との間で委託契約や守秘義務契約を締結することが必須となります。この点については後ほど詳しく説明します。
「50人未満だから不要」は誤解——中小企業こそ導入が有効な理由
「ストレスチェックの義務対象は50人以上だから、うちは関係ない」と思っている経営者の方は少なくありません。しかし、これは大きな誤解です。
むしろ従業員数が少ない職場ほど、社内に相談できる窓口や専任の人事担当者が存在しないことが多く、悩みを抱えた従業員が相談できないまま問題が深刻化するリスクがあります。大企業であれば産業医や産業カウンセラーを常駐させることができますが、中小企業ではそうした体制を整えることが難しいのが現実です。
また、少人数の職場では人間関係が濃密になりやすく、上司や同僚への気遣いから悩みを打ち明けられない従業員が多い傾向にあります。外部の第三者であるカウンセラーに話せる環境があることは、そういった従業員にとって大きな安心につながります。
さらに、中小企業は一人の従業員が抜けた際の業務への影響が大きく、メンタル不調による休職・離職のダメージが相対的に深刻です。予防的な支援として外部カウンセリングを整備しておくことは、リスクマネジメントとしても合理的な判断といえるでしょう。
コスト面では、産業保健総合支援センター(さんぽセンター)による無料相談・支援の活用が可能です。全国に設置されているこの機関では、産業保健に関する専門的なアドバイスを無料で受けられるため、まずここへ相談することも一つの選択肢です。また、職場環境改善に関する助成金制度が存在する場合もありますので、活用できる補助制度がないかどうか、地域の産業保健センターや都道府県の窓口に確認することをお勧めします。
サービス選定で押さえるべき五つのチェックポイント
現在、職場向けのオンラインカウンセリングサービスは数多く存在しており、どれを選べばよいか判断に迷う方も多いはずです。以下の五つのポイントを確認することで、自社に適したサービスを選びやすくなります。
①カウンセラーの資格・経験
カウンセリングを行う専門家の資格は、サービスの信頼性を判断する重要な基準です。主な資格としては、国家資格である公認心理師、民間資格ですが高い専門性が認められている臨床心理士、職場のメンタルヘルスに特化した産業カウンセラーなどがあります。サービスを提供するカウンセラーがこうした資格を保持しているかどうかを事前に確認してください。
②緊急時対応の体制
万が一、利用した従業員が自殺を示唆するような発言をした場合、カウンセラーはどのように対応するのか。こうした緊急時の対応プロトコル(手順書)が明確に定められているサービスを選ぶことが重要です。また、医療受診が必要なケースへの紹介・連携体制が整っているかどうかも確認ポイントとなります。
③個人情報管理体制
カウンセリングの内容が会社側に漏れることへの不安は、従業員が利用をためらう最大の要因の一つです。サービス事業者のプライバシーポリシーや情報管理体制(ISO認証の有無など)を確認し、守秘義務契約が適切に締結できるかを必ず確認してください。また、会社が受け取る報告は個人が特定されない集計データのみであることを、従業員にも明確に伝える必要があります。
④対応時間帯・利用のしやすさ
業務時間外の夜間や休日にも対応しているか、テキスト・音声・ビデオなど複数の相談方法が用意されているか、スマートフォンから利用できるかなど、従業員が実際に使いやすいかどうかを評価してください。利用のしやすさは利用率に直結します。
⑤費用の仕組みと自社規模への適合性
料金体系は主に三つのパターンがあります。月額固定型は利用者数に関わらず一定額を支払う形式で、少人数の企業でも予算を立てやすいというメリットがあります。従量課金型は利用件数に応じて費用が変動するため、利用が増えるとコストが上がります。EAPパッケージ型はカウンセリングに加えて研修やコンサルティングがセットになったもので、より包括的な支援が受けられます。自社の規模や想定利用頻度を踏まえて、最も費用対効果が見えやすい方式を選ぶことが重要です。
導入時に必ずやっておくべき社内整備と従業員への周知
サービスを契約するだけでは、オンラインカウンセリングはうまく機能しません。導入を成功させるためには、社内体制の整備と従業員への丁寧な説明が欠かせません。
社内体制の整備
まず、人事担当者・産業医(いる場合)・管理職それぞれの役割分担を事前に文書化しておくことが重要です。特に、従業員をカウンセリングへ「つなぐ役割」を担う窓口担当者を明確にしておきましょう。管理職が部下の変化に気づいた際に、どのようにカウンセリングの利用を案内するかという流れを整えておくだけで、早期発見・早期支援の可能性が大幅に高まります。
また、産業医との連携フローも事前に文書化しておくことをお勧めします。カウンセリングで医療的なケアが必要と判断された場合に、誰がどのように産業医や医療機関につなぐかというプロセスを明確にしておくことで、いざという時にスムーズに対応できます。
従業員への周知・啓発
サービスを導入したにもかかわらず誰も使わない——これが最もよくある失敗パターンです。利用率が低い最大の原因は、「カウンセリングを使うことへの抵抗感」と「内容が会社に伝わるのではないかという不安」です。
この抵抗感を取り除くためには、「カウンセリングの内容は会社に報告されない」ということを、経営者や人事担当者自らが繰り返し明確に伝えることが不可欠です。全社メールや社内掲示物での案内にとどまらず、全体ミーティングや部署ごとの説明会で口頭でも周知することが効果的です。
また、管理職向けの研修とセットで導入すると利用率が上がりやすいとされています。管理職がメンタルヘルスに関する基礎知識を持ち、部下への声かけができる環境が整うことで、サービスの活用が自然に促進されます。
運用を継続するための実践ポイント
導入後の継続的な運用が、オンラインカウンセリングの効果を最大化するための鍵となります。以下の実践ポイントを参考に、制度として定着させていきましょう。
- トライアル期間を設けて評価する:まず3〜6ヶ月を試験的な運用期間として設定し、利用率と従業員満足度を測定します。利用率が著しく低い場合は、周知方法や利用手続きの簡便さを見直してください。
- ストレスチェックと組み合わせて案内する:ストレスチェックで高ストレスと判定された従業員に対して、積極的にオンラインカウンセリングの利用を案内する仕組みを作りましょう。強制ではなく、あくまで本人が希望した場合に利用できるという形が基本です。
- 年1回以上、満足度アンケートを実施する:利用した従業員の声を集め、サービスの質や使いやすさを定期的に評価します。その結果をもとにサービス事業者に改善を求めたり、場合によっては別のサービスへの切り替えを検討したりすることも必要です。
- 経営層への効果報告を定期的に行う:個人が特定されない集計データをもとに、利用率・満足度・傾向などを経営層に報告します。「見えない投資」になりがちなメンタルヘルス対策を可視化することで、制度の継続と予算確保につながります。
- 導入の目的を見失わない:オンラインカウンセリングはあくまでも支援手段の一つです。職場環境そのものの改善(過重労働の是正、ハラスメントの防止など)と並行して取り組むことが、根本的なメンタルヘルス対策につながります。
まとめ
オンラインカウンセリングの職場導入は、大企業だけのものではありません。むしろ、専任の産業保健スタッフを置くことが難しい中小企業にとって、外部の専門家とつながれるこの仕組みは、従業員を守るための現実的かつ効果的な手段です。
導入に際しては、まず法律上の位置づけと個人情報管理の重要性を正確に理解した上で、カウンセラーの資格・緊急時対応・費用体系などを基準にサービスを選定しましょう。そして社内の役割分担を整え、「内容が会社に伝わらない」ことを従業員に繰り返し伝えることが、利用率を高めるための最も重要なステップです。
導入後も利用率や満足度を定期的に確認し、制度として定着させていくことが大切です。完璧な体制が整ってから始めようとするより、まずできる規模で試験的に導入してみることが、実際には最も確実な一歩となります。
従業員が安心して相談できる環境を整えることは、個人の健康を守るだけでなく、組織全体のパフォーマンスと定着率の向上にもつながります。今こそ、オンラインカウンセリングの導入を具体的に検討してみてはいかがでしょうか。
よくある質問
Q1: 従業員50人未満の中小企業では、オンラインカウンセリングの導入は法律上義務ではないのですか?
はい、ストレスチェック制度は50人以上が義務ですが、オンラインカウンセリングそのものは法律で義務付けられていません。ただし、むしろ少人数企業ほど相談窓口がなく悩みが深刻化しやすいため、導入が有効とされています。
Q2: オンラインカウンセリングは医療行為と同じなので医師の診断が必要では?
いいえ、カウンセリングは医療行為ではなく、診断や薬の処方はできません。ただし精神的な悩みやストレスについて専門家に話を聴いてもらい、対処法を一緒に考えるサポートとして非常に有効です。
Q3: 従業員がカウンセリングで話した内容のプライバシーはどのように守られるのですか?
カウンセリングの内容は個人情報保護法で保護される「要配慮個人情報」に該当し、本人の同意が原則として必要です。サービス事業者との間に委託契約や守秘義務契約を締結することが法律で必須となっています。
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