「誰も使わないカウンセリング制度」を変える7つの周知策|中小企業でも今日からできる認知度向上の実践法

「相談窓口を設けたのに、誰も使ってくれない」。カウンセリング制度やEAP(Employee Assistance Program:従業員支援プログラム)を導入した中小企業の経営者・人事担当者から、こうした声を頻繁に耳にします。厚生労働省の調査によれば、EAPを含むメンタルヘルス相談窓口の平均利用率は3〜5%程度にとどまるとされており、制度の存在が従業員に十分届いていないことが大きな課題となっています。

メンタルヘルス対策に投資したにもかかわらず効果が見えないと感じるのであれば、それは制度そのものの問題ではなく、「従業員への届け方」に課題がある可能性が高いです。本記事では、カウンセリング制度の認知度を高め、実際に利用してもらうための具体的な方法を、法律の背景も踏まえながら解説します。

目次

なぜカウンセリング制度は利用されないのか

認知度向上の施策を考える前に、まず「なぜ使われないのか」という根本原因を整理しておく必要があります。利用されない理由は大きく二つに分けられます。

従業員側の心理的バリア

最も根深い問題が、スティグマ(偏見)と呼ばれる心理的障壁です。「カウンセリングを利用する=精神的に弱い」「問題を抱えた社員だと思われる」という誤ったイメージが、相談への一歩を踏み出せなくさせています。さらに、中小企業では組織が小さいため、「誰が利用したか周囲にわかってしまう」という匿名性への不安も強く働きます。

加えて、「上司や同僚の目線が変わるのではないか」「人事評価に影響するのではないか」という懸念も、制度の利用をためらわせる要因として挙げられます。

制度の認知・アクセスの問題

従業員が制度を「知らない」「わからない」という情報面の課題も見逃せません。入社時の研修でカウンセリング制度の説明を受けたとしても、日常業務に追われる中でその記憶は薄れていきます。「誰に連絡すればいいのか」「費用はかかるのか」「どこに電話すればいいのか」といった基本的な情報が不明瞭なまま放置されているケースも多く、問い合わせること自体のハードルが高くなっています。

導入時に一度周知して終わり、その後の継続的な発信をしていない企業も少なくありません。制度の認知は、一度きりの告知では定着しないのです。

制度の背景にある法的義務と経営者の責任

カウンセリング制度の整備は、単なる福利厚生の充実にとどまりません。法律上の根拠も存在します。

労働契約法第5条では、使用者(会社)は労働者がその生命・身体等の安全を確保しつつ労働できるよう、必要な配慮をする義務(安全配慮義務)が規定されています。この安全配慮義務にはメンタルヘルスへの配慮も含まれると解釈されており、相談窓口の整備や利用促進を怠った場合に問題となるケースがあります。

また、労働安全衛生法第66条の10では、常時使用する労働者数が50人以上の事業場にストレスチェック制度の実施が義務付けられています(2015年施行)。ストレスチェックの結果として高ストレスと判定された従業員に対しては、面接指導や相談窓口への案内が求められており、カウンセリング制度はその受け皿として機能させる必要があります。

さらに、厚生労働省が定める「労働者の心の健康の保持増進のための指針」では、4つのケア——①従業員自身によるセルフケア、②上司・管理職によるラインケア、③産業医・保健師などの事業場内スタッフによるケア、④外部専門機関を活用した事業場外資源によるケア——を組み合わせた取り組みが推奨されています。カウンセリング制度は、この4つのケアを支えるインフラとして位置づけられます。

常時使用する労働者数が50人未満の小規模事業場であっても、ストレスチェックの実施は努力義務とされており、メンタルヘルス対策を講じることが強く推奨されています。

認知度を高める5つの実践的アプローチ

① 情報発信を多層化・継続化する

カウンセリング制度の認知は、一度の告知では定着しません。継続的かつ複数のチャネルを使った発信が不可欠です。具体的には、月1回の社内報やニュースレターへの掲載、社内イントラネットへの常設ページの設置、SlackなどのビジネスチャットツールやLINE WORKSへの定期投稿、休憩室やトイレへのポスター掲示などが有効です。

特に近年注目されているのがQRコードの活用です。ポスターや名刺サイズのカードにQRコードを印刷し、トイレや喫煙所など一人になれる場所に設置することで、周囲の目を気にせずスマートフォンから制度情報にアクセスできる導線をつくることができます。

また、年間カレンダーへの計画的な組み込みも効果的です。10月は厚生労働省が推進する「精神保健福祉普及運動」(メンタルヘルス月間)にあたるため、この時期に集中的な周知活動を行うと従業員の関心を高めやすくなります。年度始めの4月・5月、長期休暇明けの時期なども発信タイミングとして活用しましょう。

② 「カウンセリング」という言葉のハードルを下げる

スティグマ対策として有効なのが、制度の名称や表現の工夫です。「カウンセリング」「メンタルヘルス相談」という言葉は、心理的に重く受け取られることがあります。「コンディション相談」「ライフサポート窓口」「気軽な話し相談」など、より日常的で軽い表現に言い換えることで、利用のハードルを下げられる可能性があります。

また、匿名の利用体験談の共有も心理的安全性を高める上で効果的です。「仕事と育児の両立について話を聞いてもらった」「転職を考えていたが、話すうちに気持ちが整理できた」といったリアルな事例(実名不要)を共有することで、「こんなことでも相談できるのか」という気づきを与えられます。

さらに、経営者や管理職が率先して制度への関与を示すことも重要です。「私自身もストレス管理のためにコーチングや相談を活用しています」とトップが発信することで、「弱さのサイン」というイメージを払拭する効果があります。

③ アクセスのしやすさを徹底的に改善する

制度を知っていても、「どう使えばいいかわからない」という状況では利用につながりません。利用手順は3ステップ以内に絞り込むことを目標にしましょう。「このURLにアクセス→フォームに入力→翌営業日に連絡が来る」という流れを一枚のシートにまとめ、全従業員に配布する方法が実践的です。

明記すべき情報は、①費用の有無(無料か一部負担か)、②対応方法(電話・オンライン・対面など)、③対応時間(夜間・休日対応の有無)、④所要時間(「まず15分から話せる」など)の4点です。これらが不明瞭なままでは、申し込む前の段階で諦めてしまいます。

外部のメンタルカウンセリング(EAP)サービスを活用している場合は、担当カウンセラーの顔写真・経歴・専門分野を社内に公開することも有効です。「どんな人が相談に乗ってくれるか」がわかることで、利用への心理的距離が縮まります。

④ 管理職をカウンセリング推進の担い手にする

中小企業では、従業員が最も信頼を置くのは直属の上司であることが多く、管理職の言動が部下の行動に大きく影響します。管理職が「何かあればこの制度を使えばいいよ」と自然に案内できるようになることが、制度の利用率向上に直結します。

そのためには、ラインケア研修(管理職が部下のメンタルヘルスを支援するための研修)の実施が効果的です。研修では制度の概要説明にとどまらず、「部下に案内する際の声のかけ方」「1on1ミーティングで制度カードを渡すタイミング」といった具体的なスクリプトまで提供することが重要です。知識だけでは行動は変わりません。

また、1on1ミーティングや定期面談のルールとして「制度の案内カードを毎回渡す」「相談窓口の存在を月に一度は言及する」を組み込むと、管理職の個人差によらず均質な周知が実現します。管理職の評価項目に「チームのメンタルヘルスケア環境づくり」を加えることも、継続的な取り組みを促す仕掛けとして有効です。

⑤ 効果を見える化して改善を繰り返す

費用対効果が見えにくいことも、経営者がメンタルヘルス対策への投資を躊躇する理由のひとつです。しかし、測定できなければ改善できません。匿名を保ちながらでも、以下の指標を定期的に追うことが可能です。

  • 制度認知率:「相談窓口の存在を知っているか」を問う月次アンケート(パルスサーベイ)
  • 利用率:全従業員数に占める利用件数の割合(個人が特定されない形で集計)
  • 利用後の満足度:「相談して役に立ったか」を匿名で収集
  • 休職率・離職率の推移:間接的な効果測定として活用

産業保健総合支援センター(各都道府県に設置されている産業保健の支援機関)では、メンタルヘルス対策の相談や研修支援を無料で受けることができます。専門知識が不足していると感じる人事担当者は、こうした外部リソースを積極的に活用してください。

小規模企業特有の課題への対処法

従業員数十人規模の中小企業では、「誰が利用したかわかってしまう」という匿名性の不安が特に大きな障壁となります。この課題に対しては、外部EAPサービスの導入が最も効果的な解決策のひとつです。

外部の第三者機関が相談窓口を担うことで、「会社に情報が伝わらない」という安心感を従業員に与えることができます。外部EAPでは一般的に、個人の相談内容は厳密に守秘され、会社には利用件数の統計情報のみが報告される仕組みになっています。このような仕組みを明文化したポリシーとして全従業員に周知することが、信頼感の醸成につながります。

また、「業務時間中に利用してよい」と明確にポリシーで示すことも重要です。「休憩時間を使えばいいのか」「早退扱いになるのか」という曖昧さが残ると、利用をためらう原因になります。「1回30分程度の相談は業務内利用として認める」と明示するだけで、心理的ハードルが大きく下がります。

産業医サービスと連携することで、産業医が従業員の健康管理に関するアドバイスを行いながら、カウンセリング制度の推進役を担うという体制を構築できます。特に小規模事業場では、産業医・カウンセラー・人事担当者が連携した包括的なサポート体制をつくることが、メンタルヘルス対策の実効性を高めます。

実践ポイント:今日から始められること

  • 制度の「入口情報」を一枚のシートにまとめ、全従業員に再配布する:費用・方法・手順・連絡先を明記したA4一枚の案内シートを作成し、デスクに置くか社内チャットで共有する
  • 休憩室・トイレにQRコードつきのポスターを貼る:一人になれる場所から匿名でアクセスできる導線を確保する
  • 次回の管理職会議でラインケアの話題を取り上げる:「部下から相談があったらどう案内するか」を議題にするだけで意識づけができる
  • 「月1回、制度に触れる」を社内カレンダーに入れる:朝礼での一言案内・チャットへの投稿など、小さな発信を継続する仕組みをつくる
  • パルスサーベイに「相談窓口を知っているか」という設問を加える:現状の認知率を把握してから施策を設計する

まとめ

カウンセリング制度を「導入して終わり」にしてしまっている企業は、せっかくの投資を無駄にしている可能性があります。制度が利用されない根本原因は、スティグマによる心理的バリアとアクセスのわかりにくさにあり、どちらも経営者・人事担当者の工夫によって改善できます。

重要なのは、一度の告知ではなく継続的な発信管理職を巻き込んだ推進体制、そして匿名性を担保した安心できる仕組みの三つです。特に小規模企業では外部EAPの活用が匿名性の確保に有効であり、産業医との連携もあわせて検討する価値があります。

メンタルヘルス対策は従業員の健康を守るだけでなく、離職率の低下・生産性の向上・安全配慮義務の履行という経営課題にも直結します。まず今日できる小さな一歩として、制度の案内シートを見直すことから始めてみましょう。

よくある質問(FAQ)

カウンセリング制度の従業員への周知は法律で義務付けられていますか?

カウンセリング制度の周知そのものを直接義務付ける条文はありませんが、労働契約法第5条の安全配慮義務に基づき、使用者はメンタルヘルスを含む従業員の健康を守る措置を講じる必要があります。また、常時使用する労働者数が50人以上の事業場ではストレスチェック後の相談窓口案内が義務付けられており、その窓口を従業員が実際に利用できる状態にすることが求められます。周知不足により相談機会が失われた場合、安全配慮義務違反として問題になるリスクもあるため、継続的な周知活動は義務の趣旨に沿った対応といえます。

従業員10〜20人の小規模企業でも外部EAPを導入できますか?

はい、外部EAPサービスは小規模事業場でも導入可能です。近年はオンライン相談を中心としたサービスが増え、従業員数に応じた柔軟な料金プランを提供しているベンダーも多くあります。また、都道府県の産業保健総合支援センターでは、常時使用する労働者数が50人未満の小規模事業場向けに産業医相談や相談窓口設置のサポートを無料で提供していますので、まずは地域の産業保健総合支援センターに相談することをお勧めします。

カウンセリング利用率を上げるために最初に取り組むべきことは何ですか?

最初のステップは、現状の認知率を把握することです。「相談窓口の存在を知っているか」「利用方法がわかるか」という2問だけでも、簡単なアンケートで現状を確認できます。次に、費用・方法・連絡先・所要時間を明記した案内シートを一枚作成し、全従業員に再配布するだけで認知度が改善するケースは多くあります。大規模な施策よりも、まず「届いているか・わかるか」という基本的な情報提供の見直しから始めることが実践的です。

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