「言った言わない」はもう通用しない!中小企業が今すぐ整備すべきセクハラ・マタハラ対応の全手順

「うちの会社にはそんな問題はない」と思っている経営者ほど、ある日突然、深刻なハラスメント問題に直面することがあります。厚生労働省が毎年実施する「職場のハラスメントに関する実態調査」によると、過去3年間にセクシュアルハラスメント(以下、セクハラ)を経験したと回答した女性労働者の割合は相当数に上ります。しかし、被害者の多くは「我慢する」「職場の雰囲気が悪くなるから言わない」という選択をしており、表面に出てこないケースが圧倒的に多いのが実態です。

中小企業では、専任の人事担当者がいなかったり、経営者と従業員の距離が近かったりするため、問題が表面化しにくい反面、いざ発生すると組織全体に深刻なダメージを与えます。今回は、職場で実際に起こりやすいセクハラ・マタニティハラスメント(以下、マタハラ)の具体的な事例と、法律に基づいた適切な対応方法を解説します。

目次

なぜ中小企業でハラスメントが見過ごされるのか

大企業では法務・コンプライアンス部門が整備されているケースが多いですが、中小企業にはそのような専門部署がないことがほとんどです。そのため、次のような問題が連鎖的に生じます。

  • 相談窓口が事実上機能しない:経営者や上司に相談しなければならない構造になっており、加害者が管理職の場合には相談すること自体が困難になる
  • 「慣れ」による感覚のマヒ:長年にわたる職場文化として定着しており、当事者全員が問題と認識していないケースがある
  • 小規模職場特有の人間関係:被害者が「告発したら職場にいられなくなる」と感じ、声を上げることをためらう
  • 法的知識の不足:経営者自身が何がハラスメントに該当するかを正確に把握していない

これらの要因が重なることで、問題が深刻化するまで放置される状況が生まれます。「知らなかった」では済まない法的責任が事業主に課されている以上、経営者自身が正確な知識を持つことが不可欠です。

セクハラ・マタハラに関する法律の基本を押さえる

ハラスメント対応の基礎として、どのような法律が適用されるかを理解しておく必要があります。

セクシュアルハラスメントに関する法律

男女雇用機会均等法第11条は、事業主に対して職場におけるセクハラを防止するための必要な措置を講じることを義務付けています。これは企業規模に関わらず適用されるものであり、努力義務ではなく法的義務です。また、同法第11条の2では、相談者および行為者等のプライバシー保護も義務として規定されています。

さらに、民法第709条(不法行為責任)および第715条(使用者責任)により、セクハラが発生した場合には加害者本人だけでなく、会社自体も損害賠償責任を問われる可能性があります。「社員個人がやったこと」として会社が責任を回避することは、法的には困難です。

マタニティハラスメントに関する法律

男女雇用機会均等法第11条の3では、妊娠・出産等を理由とした不利益取り扱いやハラスメントの防止措置を事業主に義務付けています。また、育児・介護休業法第25条では育児休業の取得等を理由としたハラスメント防止措置が義務化されており、同法第10条は育休申請・取得を理由とした不利益取り扱いを明確に禁止しています。この禁止規定に違反した場合は、刑事罰が科される可能性もあります。

なお、2022年4月からは中小企業においてもパワーハラスメント防止措置が努力義務から義務へと格上げされました。セクハラ・マタハラと合わせて、総合的なハラスメント対策が求められる時代になっています。

実際に起きやすいセクハラの事例と対応策

「これはセクハラにあたるのか」と判断に迷う場面が多いのが実態です。厚生労働省のガイドラインでは、セクハラの判断基準は「被害者がどのように感じたか」であり、加害者が「冗談のつもり」「悪意はなかった」と主張しても、ハラスメントの認定に影響しないとされています。

事例①:上司から部下へのボディタッチ

肩・腰・手などへの不必要な身体的接触は、職場のセクハラの中でも頻繁に報告されるケースです。「励ましのつもりだった」「親しみを込めた」という加害者側の言い訳は通用しません。就業規則に身体的接触の禁止を明記するとともに、初回であっても厳重注意と記録化を徹底することが重要です。注意した事実を文書に残しておくことで、後の「言った言わない」の水掛け論を防ぐことができます。

事例②:性的な発言・外見へのコメント

「若いのにどうして彼氏がいないの?」「結婚しないの?」という繰り返しの問いかけや、外見に関する発言、飲み会での性的な話題は、職場環境型セクハラ(環境を悪化させるタイプのセクハラ)に該当します。これらは一度注意しても繰り返されるケースが多いため、全社員を対象とした研修で「受け手がどう感じるか」が基準であることを周知徹底する必要があります。

事例③:メール・SNSでの性的メッセージ

業務外のLINEやダイレクトメッセージで性的な内容を送付する行為も、職場のセクハラに該当します。「プライベートの連絡だから関係ない」という主張は認められません。こうしたデジタル上のやり取りはスクリーンショットやログが証拠として残るため、被害者が証拠を保全しやすいという側面があります。一方で会社側も、社員に対して「デジタル上の言動も証拠になる」という認識を研修で伝えることが抑止力になります。

事例④:上下関係を利用した「対価型セクハラ」

採用・昇進・継続雇用などと引き換えに性的な関係を求める行為を「対価型セクハラ」といいます。これは最も悪質性が高く、被害者に深刻な精神的ダメージを与えます。発覚した場合は即時に事実調査を開始し、認定されれば懲戒解雇を含む厳正な処分を検討する必要があります。外部の専門家(社会保険労務士・弁護士)と連携して対応することが望ましいケースです。

実際に起きやすいマタハラの事例と対応策

マタハラは「悪意のある嫌がらせ」だけでなく、「配慮のつもり」がハラスメントになるケースが多いという特徴があります。善意であっても、本人の意向を無視した判断は違法になり得ます。

事例①:妊娠報告後の嫌味・プレッシャー

「迷惑だ」「辞めることを考えてほしい」といった発言は、典型的なマタハラです。このような発言は口頭で行われることが多く、証拠が残りにくいため、被害者にはできる限り記録を残すよう伝えることが重要です。発覚した場合、発言者への指導および被害者への謝罪要求を行い、業務継続を支援するサポート体制を整備することが求められます。

事例②:育休申請への妨害・雰囲気による抑圧

「育休は取れない雰囲気」を管理職が意図的に醸成したり、育休取得後に嫌がらせをするケースは育児・介護休業法違反に直結します。育休の取得を理由とした不利益取り扱いには刑事罰が科される可能性があります。管理職に対して、法的リスクを明確に説明する研修を実施することが効果的な抑止策になります。

事例③:復職後の不当な降格・配置転換

育休明けを理由に職位や給与を引き下げる行為は法律で明確に禁じられています。復職前に面談を実施し、業務内容・処遇について書面で確認することが、後のトラブル防止につながります。口頭での約束は後から覆されるリスクがあるため、書面化の習慣を組織として定着させることが大切です。

事例④:「配慮のつもり」によるマタハラ

「重い仕事はやらせない方がいいだろう」という管理職の一方的な判断で業務量を大幅に減らした結果、能力評価が下がるケースがあります。また「どうせ産んだら辞めるんでしょ」という前提のもと、重要なプロジェクトから外すことも同様です。これらは本人の意向を確認せずに行われる点が問題です。必ず本人に確認し、その内容を書面で記録するという手順を徹底することで、「配慮がハラスメントになる」事態を防ぐことができます。

相談から解決までの実務対応フロー

ハラスメントの相談を受けたとき、対応を誤ると被害者が二次被害(相談したことで状況が悪化する被害)を受けるリスクがあります。次の流れを基本として、組織内で共有しておくことが重要です。

ステップ1:相談の受付

相談を受ける担当者は、まず話をしっかり聴くことに徹します。この段階で「それはセクハラではない」「双方に問題がある」などの判断を口にしてはいけません。相談者のプライバシーを保護することを明確に伝え、どのような対応を希望しているかを確認します。「調査してほしい」「まず話を聞いてほしいだけ」など、相談者の意向はさまざまであるため、一律に調査を進めることが適切とは限りません。

ステップ2:事実調査

相談者が調査を望む場合、被害者・行為者・関係者からの個別ヒアリングを行います。メールやチャットのログ、業務記録などの客観的な証拠も収集します。この際、双方の言い分を公平に聴く姿勢が重要です。最初から加害者側を決めつけた調査は、後の法的トラブルで会社の不利になる可能性があります。

ステップ3:判定と処分

収集した情報をもとに、ハラスメントの有無を認定します。ハラスメントが認定された場合は、就業規則に定められた手続きに従って懲戒処分を検討します。また、被害者が継続して働ける環境を整えることも同時に検討が必要です。配置転換や業務調整は、被害者側ではなく加害者側に対して行うことが原則です。被害者を異動させることは二次被害につながります。

ステップ4:再発防止

個人情報に配慮しながらも、ハラスメントが発生したという事実と会社としての方針を全社員に周知します。また、研修の実施や相談体制の見直しなど、組織的な再発防止策を講じることが法的な「防止措置」として評価されます。

今すぐ取り組める実践ポイント

ハラスメント対策は「何か起きてから」では遅く、予防的な仕組みづくりが重要です。中小企業でも比較的取り組みやすい実践ポイントを挙げます。

  • 就業規則へのハラスメント禁止規定の明記:規定がなければ懲戒処分の法的根拠が弱くなります。社会保険労務士に依頼して整備することを検討してください
  • 相談窓口の設置と周知:内部窓口だけでなく、外部の相談窓口(社会保険労務士、弁護士、都道府県労働局の総合労働相談コーナーなど)を案内することで、相談しやすい環境になります
  • 管理職向け研修の実施:加害者になりやすいのは管理職であると同時に、対応を誤りやすいのも管理職です。法的責任と具体的な言動事例をセットで伝える研修が効果的です
  • 記録の文書化習慣:相談を受けた日時・内容・対応経緯をすべて記録します。訴訟リスクへの備えとして最も費用のかからない対策です
  • 妊娠・育休申請時の面談記録:本人の意向を確認し、書面に残す手順を標準化することで、マタハラのリスクを大幅に低減できます
  • テレワーク環境でのルール整備:オンライン会議での言動やチャットでのメッセージもハラスメントの対象になることを明記したガイドラインを整備します

まとめ

セクハラ・マタハラは、「悪意ある特別な人間」だけが引き起こすものではありません。善意の「冗談」や「配慮」が、法的責任を伴うハラスメントになるケースが多数あります。中小企業の経営者・人事担当者には、法律が定める防止措置を整備する義務があり、これを怠ることで会社が損害賠償責任を負うリスクも現実に存在します。

問題が表面化してから対応するのではなく、就業規則の整備、相談体制の構築、管理職研修、記録の文書化という4つの柱を先手で整えることが、経営リスクの最小化につながります。専門的な知識が必要な部分については、社会保険労務士や弁護士など外部の専門家を活用することも積極的に検討してください。ハラスメントのない職場環境は、法令遵守であるだけでなく、従業員の定着率や生産性の向上にも直結する、経営上の重要課題です。

よくある質問

Q1: 中小企業でハラスメント問題が見過ごされやすいのはなぜですか?

中小企業には法務やコンプライアンス部門がないため、相談窓口が機能しない、問題が職場文化として定着する、被害者が報復を恐れるなど複数の要因が重なります。また経営者自身がハラスメントの法的定義を正確に把握していないことも大きな原因です。

Q2: セクハラが起きた場合、会社が責任を回避することはできますか?

いいえ、できません。男女雇用機会均等法の規定により企業規模に関わらず防止措置は法的義務であり、民法の不法行為責任と使用者責任により、「社員個人がやったこと」として会社が責任を回避することは法的には困難です。

Q3: 加害者が『冗談のつもりだった』と主張した場合、セクハラと認定されませんか?

いいえ、認定されます。厚生労働省のガイドラインでは、セクハラの判断基準は「被害者がどのように感じたか」であり、加害者の意図や言い訳は認定に影響しないと明記されています。

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