「健康経営銘柄は中小企業でも取れる?申請から認定まで全ステップを解説」

「健康経営銘柄に興味はあるが、何から始めればいいかわからない」「経営層を説得するための根拠が見つからない」――こうした声は、中小企業の人事担当者からよく聞かれます。健康経営の認定制度は複数存在し、制度の全体像をつかむだけでも相当な労力が必要です。さらに、専任担当者が置けない、産業医との連携が整っていないといったリソース面の壁が加わり、着手を先延ばしにしている企業も少なくありません。

本記事では、健康経営銘柄をはじめとする認定制度の仕組みを整理したうえで、中小企業が現実的に取り組めるフェーズ別ロードマップを解説します。「まず何をすべきか」が明確になるよう、実務に即した内容を心がけました。ぜひ自社の健康経営推進の足がかりとしてご活用ください。

目次

健康経営銘柄・健康経営優良法人とは何か――制度の全体像を整理する

まず混同しやすい制度の違いを整理することが出発点です。

健康経営銘柄とは

健康経営銘柄は、経済産業省が東京証券取引所と共同で選定する制度です。対象は上場企業のみであり、業種別に原則1〜2社、全体で約50社程度が選ばれます。選定の前提条件として「健康経営度調査」への回答が必要です。競争倍率が非常に高く、上場企業であっても一朝一夕に取得できるものではありません。

健康経営優良法人とは

一方、健康経営優良法人は上場・非上場を問わず申請できる認定制度です。大規模法人部門と中小規模法人部門に分かれており、中小規模法人部門は資本金3億円以下または従業員300人以下が目安とされています。毎年11〜12月頃に申請を受け付け、翌年3月頃に認定が発表されます。

さらに、中小規模法人部門の上位500社には「ブライト500」、大規模法人部門の上位500社には「ホワイト500」という特別認定が付与されます。中小企業が現実的に目指せるのは、まず健康経営優良法人(中小規模法人部門)の認定取得であり、その先にブライト500、そして上場後に健康経営銘柄という段階を踏むのが一般的なキャリアパスです。

なぜ今、健康経営に取り組む必要があるのか

健康経営の認定取得には、採用競争力の強化、融資・調達面での優遇、従業員のエンゲージメント向上といった効果が期待されています。また、労働安全衛生法に基づく定期健康診断の実施義務(第66条)やストレスチェック制度(従業員50人以上の事業場に義務付け)といった法令対応の整備が、健康経営の評価項目と重なる部分も多くあります。つまり、健康経営への取り組みは「法令遵守の強化」と「競争力の向上」を同時に実現できる施策とも言えます。

健康経営度調査の評価軸を理解する――何が問われているのか

健康経営優良法人の認定審査や健康経営銘柄の選定において中核となるのが、経済産業省の「健康経営度調査」です。2024年度版の評価軸は以下の5つで構成されています。

  • 経営理念・方針:経営トップが健康経営を明確にコミットしているか
  • 組織体制:推進体制が整備され、担当者・専門職との連携があるか
  • 制度・施策実行:具体的な健康施策が実施されているか
  • 評価・改善:PDCAサイクル(計画・実行・評価・改善の繰り返し)が機能しているか
  • 法令遵守・リスクマネジメント:労働法令を遵守し、健康リスクへの対応ができているか

注目すべきは「施策の数」ではなく「PDCAが回っているか」が重視される点です。単発のイベントをいくら実施しても、データに基づく改善サイクルが見えなければ高評価は得られません。この視点が、後述するロードマップ設計の根幹になります。

フェーズ別ロードマップ――3つのステージで着実に前進する

健康経営の取り組みは、一気に完成形を目指すのではなく、段階的に積み上げることが現実的です。以下の3フェーズを参考に、自社の状況に合わせてペースを設定してください。

Phase 1:基盤整備(開始から約6ヶ月)

最初のフェーズでやるべきことは「現状の見える化」と「推進体制の構築」です。施策の実施はまだ先で構いません。

  • 健康経営宣言の策定・公表:経営トップが健康経営へのコミットメントを社内外に明示します。これは評価上「経営理念・方針」の根拠となるため、最初に取り組むべき事項です。
  • 推進体制の構築:担当者を任命し、産業医サービスを活用した産業医・保健師との連携ルートを確認します。50人未満の事業場では産業医の選任義務がありませんが、産業保健総合支援センターの無料支援を活用することで専門的なアドバイスを得ることも可能です。
  • 現状データの集計:定期健康診断の受診率、精密検査の受診率、ストレスチェックの実施率などを集計します。この数値が「健康課題の特定」につながります。
  • 認定基準チェックシートの確認:経済産業省が公開している健康経営優良法人の認定基準チェックシートを活用し、自社の現状ギャップを把握します。

Phase 2:施策展開(6〜18ヶ月)

フェーズ1で把握した課題をもとに、具体的な施策を実施します。すべての施策を一度に導入しようとすると担当者の負担が集中するため、優先度をつけて段階的に進めることを推奨します。

必須対応事項として優先すべき項目は以下のとおりです。

  • 定期健康診断の受診率100%達成
  • 有所見者(健診で異常が見つかった従業員)への医療機関受診勧奨の仕組み化
  • ストレスチェックの実施と集団分析結果の活用
  • 長時間労働者への医師面談制度の整備(過重労働による健康障害防止のための総合対策に対応)

これらは法令対応とも重なるため、未整備の場合はリスクマネジメントの観点からも早急に手を打つ必要があります。

重点施策は自社の健康課題に応じて選択します。たとえば、メンタルヘルス不調者が増加しているのであれば、メンタルカウンセリング(EAP)の導入による相談窓口の整備やラインケア研修(管理職向けの部下のメンタルヘルスサポート研修)が有効です。運動不足が課題であればウォーキングイベントやフィットネス費用補助、女性の健康支援が弱いのであれば婦人科検診費用補助や不妊治療と仕事の両立支援といった施策が考えられます。

また、健保組合や全国健康保険協会(協会けんぽ)との連携による「コラボヘルス」(保険者と事業主が共同で従業員の健康増進を行うこと)を積極的に活用することで、データ取得の効率化と評価上の加点を同時に得られます。くるみん認定(次世代育成支援対策推進法に基づく子育てサポート企業認定)やえるぼし認定(女性活躍推進法に基づく認定)なども健康経営度調査の加点要素になるため、他部署の取り組みと連携して取得を検討する価値があります。

Phase 3:評価・改善(18ヶ月以降)

フェーズ3では、施策の効果を測定し、PDCAサイクルを確立することに注力します。この段階まで来ると、健康経営優良法人の認定申請が現実的な射程に入ってきます。

  • プレゼンティーイズムの測定:出勤しているが体調不良などで生産性が低下している状態を指します。東大1項目版やSPQ(シングルアイテム質問票)などの簡易ツールで測定できます。
  • アブセンティーイズムの測定:疾病による欠勤・休職日数の集計です。
  • ワークエンゲージメントの測定:仕事に対する活力・熱意・没頭の度合いを示す指標で、日本語版UWES(ユトレヒト・ワーク・エンゲージメント尺度)などが活用されています。

これらの指標を継続的に測定することで、施策のROI(投資対効果)を数値で示せるようになります。経営層への報告や次年度予算の確保にも有効です。

中小企業が陥りやすい失敗パターンと対策

健康経営の取り組みが途中で失速する企業には、共通した失敗パターンが見られます。事前に把握しておくことで、リスクを大幅に低減できます。

失敗パターン①:施策が単発イベントで終わる

健康セミナーを1回開催したり、ウォーキングイベントを単年度で実施したりするだけでは、評価は得られません。重要なのは継続性とデータの蓄積です。「実施した施策の参加率は何%だったか」「前年度と比較して受診率はどう変化したか」といった数値の記録を年度をまたいで管理する仕組みを整えてください。

失敗パターン②:担当者変更による取り組みの途絶

人事担当者が異動・退職するたびに取り組みがリセットされるケースは非常に多く見られます。対策として、健康経営推進の規程・マニュアルを文書化し、委員会形式で複数人が関与する体制を作ることが重要です。従業員代表を推進委員会に参加させることで、担当者依存のリスクを下げながら評価上の加点も得られます。

失敗パターン③:経営層のコミットメントが形式的

「健康経営宣言」を公表しただけで経営トップが関与しない状態は、審査上も問題ですが、社内の推進力にも影響します。トップが健康経営の進捗報告を定期的に受け、判断を行う体制を作ることが重要です。役員の健診受診状況を公表するなど、経営層自身が率先垂範(自ら模範を示すこと)する姿勢が、従業員の参加意欲にも直結します。

実践ポイント――今すぐ着手できる5つのアクション

ここまでの内容を踏まえ、明日から着手できる具体的なアクションを整理します。

  • ①健康経営優良法人の認定基準チェックシートをダウンロードする:経済産業省のウェブサイトから無料で入手できます。自社の現状ギャップを把握する第一歩です。
  • ②直近3年間の健診受診率を集計する:最低限把握すべき数値です。受診率が100%でない場合、その原因(未受診者の属性・理由)を特定し、対応策を検討します。
  • ③産業保健総合支援センターに相談する:各都道府県に設置されており、産業医・保健師による無料の相談支援が受けられます。専任担当者が置けない中小企業にとって有力なリソースです。
  • ④健康経営宣言の草案を作成する:難しく考える必要はありません。「当社は従業員の健康を重要な経営資源と位置づけ…」といったシンプルな文章で構いません。まず草案を作り、経営トップの言葉として公表する形を目指します。
  • ⑤協会けんぽ・健保組合に連携の可否を確認する:コラボヘルスの実施は加点要素になります。既に健保組合や協会けんぽと何らかの接点がある場合は、共同施策の可能性を問い合わせてみましょう。

まとめ

健康経営銘柄は上場企業のみが対象ですが、その手前にある健康経営優良法人(中小規模法人部門)やブライト500は、中小企業でも十分に手の届く目標です。重要なのは、完璧な施策を一度に揃えることではなく、「現状の把握→課題の特定→施策の実施→効果の測定→改善」というPDCAサイクルを継続的に回す仕組みを組織の中に根付かせることです。

専任担当者がいない、産業医との連携が薄いといったリソース面の課題は、外部の専門サービスや公的支援機関を組み合わせることで補うことができます。まずは今日から、チェックシートの確認と健診受診率の集計という小さな一歩を踏み出してみてください。その積み重ねが、数年後の認定取得につながります。

よくある質問(FAQ)

健康経営銘柄と健康経営優良法人は何が違うのですか?

健康経営銘柄は経済産業省と東京証券取引所が共同で選定する制度で、対象は上場企業のみです。業種別に原則1〜2社(全体で約50社程度)という非常に狭き門です。一方、健康経営優良法人は上場・非上場を問わず申請でき、中小規模法人部門(資本金3億円以下または従業員300人以下が目安)が設けられているため、中小企業でも目指せる制度です。まずは健康経営優良法人の認定取得を目標とし、段階的に上位認定を目指すのが現実的なアプローチです。

従業員が50人未満でも健康経営優良法人に申請できますか?

はい、申請は可能です。ただし、50人未満の事業場はストレスチェックの実施が努力義務(義務ではない)となっており、産業医の選任義務もありません。こうした場合は、産業保健総合支援センターの無料相談を活用したり、産業医サービスを通じて産業医との連携体制を整えたりすることで、審査上の評価を高めることができます。リソース不足を理由に申請をためらうよりも、まず認定基準チェックシートで現状ギャップを確認することをお勧めします。

健康経営の取り組みのROI(費用対効果)はどのように測ればよいですか?

代表的な指標として、プレゼンティーイズム(出勤しているが生産性が低下している状態)の改善率、アブセンティーイズム(疾病による欠勤・休職日数)の変化、ワークエンゲージメントスコアの推移などがあります。これらはアンケートツールや健診データで継続的に測定できます。採用コストの削減や離職率の低下といった間接的な効果も含めて試算することで、経営層への説明に使える数値を揃えることが可能です。

監修・運営:INTERMIND株式会社

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