「男性育休を取らせると職場が壊れる?」中小企業で起きるメンタル問題の真実と解決策

「うちの会社は育休制度を作ったけれど、男性社員が一人も使っていない」「使いたそうにしている社員はいるが、なんとなく申し出にくい雰囲気がある」——そのような声を、中小企業の経営者や人事担当者からよく耳にします。

育児・介護休業法の改正が段階的に施行され、男性の育児参加を後押しする制度の整備は進んでいます。しかし、制度をつくるだけでは男性育休の取得は進みません。そしてもう一つ、多くの企業がまだ十分に意識できていない重要な視点があります。それがメンタルヘルスとの深い関わりです。

男性育休の取得推進は、単に「育児参加を促す施策」ではありません。取得する本人のメンタルヘルス、職場に残る同僚のメンタルヘルス、そして復職後の職場全体の健全性に直結する、労務管理の根幹にかかわるテーマです。本記事では、中小企業の経営者・人事担当者が知っておくべき法律の要点を整理しながら、育休取得推進とメンタルヘルスの関係を実務的な視点から解説します。

目次

なぜ今、男性育休取得推進がメンタルヘルスと結びつくのか

まず、現行の法制度の概要を確認しておきましょう。2022年の育児・介護休業法改正により、産後パパ育休(出生時育児休業)が創設されました。これは、子どもの出生後8週間以内に、最大4週間の育児休業を2回に分けて取得できる制度で、2022年10月から施行されています。また、育児休業そのものも年2回の分割取得が可能になりました。

さらに経営者・人事担当者にとって見逃せないのが、個別周知・意向確認の義務化です。従業員本人や配偶者が妊娠・出産を申し出た際、育休制度の内容を説明し、取得意向を確認することが全事業主に義務づけられました。また、従業員1,000人超の企業には育休取得率の公表義務(2023年4月〜)が課せられており、300人超の企業についても同様の対応が求められる方向で動いています。

こうした法改正の流れの中で、パタハラ(パタニティハラスメント)——つまり育児休業の取得を妨げる言動——は、労働施策総合推進法(パワハラ防止法)のもとで明確にハラスメントとして禁止されており、中小企業においても2022年4月から義務化されています。

では、なぜこれがメンタルヘルスと結びつくのか。それは、育休取得を取り巻く「職場の空気」そのものが、取得者本人・上司・同僚それぞれにストレスをもたらす構造になっているからです。制度として整備されていても、使えない雰囲気が漂う職場は、じわじわと従業員のメンタルヘルスを蝕みます。この問題に正面から向き合うことが、今の中小企業に求められています。

「使えない空気」が生む、三者それぞれのメンタルリスク

男性育休の取得推進を考えるとき、メンタルヘルスへの影響は一人の従業員だけの話ではありません。取得する本人・職場に残る同僚・管理職という三者それぞれにリスクが存在します。

取得者本人のメンタルリスク

「申し出ること自体に勇気がいった」「チームに迷惑をかけているという罪悪感が育休中も消えなかった」——取得経験者からはこうした声が聞かれます。男性が育休を取得した場合、育休中に生じやすいメンタルヘルスリスクとして、以下のようなものが挙げられます。

  • 育児による身体的・精神的疲労と睡眠不足の慢性化
  • 「仕事から外れている」という焦りや自己肯定感の低下
  • 職場との接点が急になくなることによる孤立感
  • 社会的アイデンティティの揺らぎ(「自分は今何者なのか」という感覚)

特に日本の男性は「仕事を通じた自己実現」を強く内面化している場合が多く、育休中に仕事から離れることで予想以上の精神的な不安定さを経験することがあります。この点は、産業医や社内の担当者が事前に本人と共有しておく必要がある情報です。

職場に残った同僚・チームのメンタルリスク

中小企業では一人ひとりの担う業務範囲が広く、誰かが抜けた際の業務負担は大企業以上に集中しやすい構造があります。代替要員の確保や業務の再分配を十分に行わないまま育休取得を進めると、残されたメンバーの過重労働が起き、職場全体のメンタルヘルスが悪化するリスクがあります。

「あの人だけ休んでいる」「こちらは仕事を押しつけられた」という不満が蓄積すると、職場内の人間関係が悪化し、育休取得者の復職をさらに困難にするという悪循環に陥ります。これは、育休取得推進策の失敗例として非常によく見られるパターンです。

管理職のメンタルリスク

管理職もまたストレスを抱えやすい立場にあります。「部下に取らせてあげたいが、チームが回らなくなる不安がある」「会社から取得率向上を求められるが、実際のフォロー方法がわからない」——そうした板挟みの状況が、管理職自身の精神的な疲弊につながることもあります。管理職への支援なき育休推進は、現場のメンタルリスクを高める一因です。

よくある誤解が招く「制度の形骸化」と職場ストレス

男性育休の推進が現場レベルで機能しない背景には、いくつかの根強い誤解があります。これらを放置すると、制度と実態の乖離が職場のストレス源になります。

誤解①「給料が出ないから取れない」

育休中の収入について、本人も上司も正確に理解していないケースが多くあります。育児休業給付金は、育休開始から180日目まで賃金の67%、それ以降は50%が支給されます。さらに、育休中は健康保険・厚生年金の保険料が免除されるため、手取りベースで見ると実質的に従前の手取り収入の約8割程度が補填されるという計算になります(給付金は非課税のため)。

この事実を知らないまま「育休=無給」と思い込んでいる社員や上司が、取得の妨げになっているケースは少なくありません。個別意向確認の場を利用して、こうした情報を正確に伝えることが重要です。

誤解②「数日取得すればOK」

取得率の数字を上げることが目的化してしまい、形式的な数日間の取得で「男性育休を推進した」と見なすケースがあります。しかし、これでは育児参加の実質的な効果は得られず、本人の育児ストレスや配偶者の負担軽減にもつながりません。形だけの取得は、職場における信頼感の低下にも直結します。

誤解③「制度を整備すれば取得は進む」

最も多い誤解がこれです。就業規則に育休規定を設けただけでは、社員は取れません。取得の最大の障壁は職場の雰囲気と上司の言動です。上司が明示的に「取っていいよ」と伝えない限り、部下は忖度して申し出を控えます。制度整備はスタートラインに過ぎず、管理職の意識改革と現場での運用が不可欠です。

なお、ストレスチェック制度(50人以上の事業場には義務、49人以下は努力義務)を実施している企業では、育休関連のストレスが集団分析の結果として現れることがあります。ストレスチェックの結果を育休推進策の見直しに活用することも、実践的なアプローチの一つです。

復職後3ヶ月間が最大のヤマ場——見落とされがちなメンタル支援

男性育休取得後のメンタルヘルスリスクが最も高まるのは、復職直後の3ヶ月間と言われています。この時期に適切なサポートがないと、離職リスクが上昇するケースも報告されています。復職後に生じやすい問題を把握しておきましょう。

  • 自分が担っていた役割や業務範囲が変化しており、居場所がわからなくなる
  • 在籍中に進んだプロジェクトや人間関係の変化についていけない感覚
  • 「育休を取ったせいで評価が下がった」という実感によるモチベーション低下
  • 育休中に慣れた育児ペースと職場復帰後のリズムの差異による疲弊

これらへの対応として、人事担当者や産業医が育休中に復職面談を先行して実施することが有効とされています。復職してから対応するのではなく、復職前から本人の状態を把握し、職場環境を整えておくアプローチです。

また、「育休取得が人事評価に影響しない」ということを、制度として明文化し、本人に伝えることも重要です。評価への影響を懸念するあまり、短期間の形式的取得にとどまるケースを減らすためにも、評価基準の透明性が求められます。

中小企業が今すぐ取り組める実践ポイント

ここまでの内容を踏まえ、中小企業の経営者・人事担当者がすぐに着手できる実践的なポイントをまとめます。

1. 管理職への研修を最優先にする

育休取得の最大の障壁は管理職の言動です。「育休はメンタルヘルスとも関係する経営課題だ」という認識を管理職に持たせるための研修や勉強会を実施しましょう。外部の産業保健専門家や社会保険労務士を活用することも一つの方法です。また、パタハラに該当する言動の具体例を示し、ハラスメントリスクとして意識させることも重要です。

2. 個別意向確認を「形式」にしない

法律で義務化されている個別周知・意向確認を、書類を渡すだけで終わらせないことが重要です。制度の内容(産後パパ育休の仕組みや給付金の実態など)を丁寧に説明し、本人が安心して意向を述べられる場をつくりましょう。面談形式で行うことが効果的です。

3. 業務の引き継ぎ計画を仕組みとして整備する

取得者が決まった段階で、本人・チーム・上司が一緒に業務の棚卸しと引き継ぎ計画を作成する仕組みをつくります。代替要員の確保については、両立支援等助成金(出生時両立支援コース・育休中等業務代替支援コース)を活用できます。この助成金は中小企業でも活用しやすい設計になっていますが、認知度が低いため、社会保険労務士などに相談しながら申請を検討することをお勧めします。

4. 残されたチームへの支援を同時に行う

育休取得者が出る際には、必ず残されたメンバーへのフォローも同時に行いましょう。業務の再分配、必要に応じた残業抑制策、チームへの感謝の言葉を伝える場の設定など、「育休取得=チームで支え合う文化」として位置づけることが大切です。

5. 復職前面談を育休中に実施する

復職の1〜2ヶ月前に、人事担当者または産業医が本人と面談を行い、復職後の業務内容・役割・職場環境について事前に擦り合わせておきましょう。育休中に完全に孤立させず、適切な情報提供と心理的サポートをつなぎ続けることが復職後の定着率向上につながります。

6. ストレスチェック結果を育休推進の見直しに活用する

ストレスチェックを実施している企業は、その集団分析結果を育休取得の推進状況と照らし合わせて分析してみましょう。特定の部署で高ストレス者が集中している場合、育休取得に関わる業務負担の偏りが背景にある可能性があります。

まとめ

男性育休の取得推進は、法律の義務への対応にとどまらず、職場のメンタルヘルス全体に関わる経営課題です。取得する本人、職場に残る同僚、そして管理職——それぞれに異なるメンタルリスクが存在し、制度の形骸化がそのリスクをさらに高めることを本記事で確認しました。

重要なのは、制度を整備するだけでなく、管理職の意識改革・業務体制の整備・復職後のフォロー・チームへのケアをセットで取り組むことです。中小企業ならではのコスト面の懸念については、両立支援等助成金などの活用を視野に入れることで、現実的な対応が可能になります。

まず一歩として、自社の男性育休取得の状況と、職場のメンタルヘルス状況を同時に見直すところから始めてみてください。両者をつなげて考えることが、人が定着し、安心して働ける職場づくりへの確かな道筋になります。

よくある質問

Q1: 制度があるのに男性社員が育休を使わないのはなぜですか?

制度があっても、職場に「使えない雰囲気」が存在するためです。記事では、これが取得者本人・職場の同僚・管理職の三者にストレスをもたらし、メンタルヘルスに悪影響を及ぼす構造になっていると指摘しています。

Q2: 育休を取得する男性本人にはどのようなメンタルリスクがありますか?

育児の身体的・精神的疲労、仕事から外れることへの焦りや自己肯定感の低下、職場との孤立感、社会的アイデンティティの揺らぎなどが挙げられます。特に日本の男性は仕事を通じた自己実現を重視する傾向があり、予想以上の精神的不安定さを経験することもあります。

Q3: 育休取得が職場に残った同僚のメンタルヘルスに悪影響を与えるのはなぜですか?

中小企業では一人ひとりの業務範囲が広いため、代替要員の確保や業務再分配を十分に行わないと、残されたメンバーの過重労働が発生します。これが不満蓄積や人間関係悪化につながり、職場全体のメンタルヘルスが悪化するリスクがあります。

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