「社員のメンタル相談を放置したら会社が訴えられた」中小企業が今すぐ知るべき法的リスクと最低限の対応策

「うちの社員からメンタルヘルスの相談を受けたが、どう対応すればいいかわからない」「様子を見ていたらそのまま長期休職になってしまった」——こうした声を、中小企業の経営者・人事担当者からよく耳にします。

メンタルヘルス不調への対応は、大企業特有の問題だと思っていませんか。しかし現実は異なります。社員からの相談を「放置」した結果、会社が多額の損害賠償を命じられたり、労働基準監督署から是正勧告を受けたりするケースは、従業員数十名規模の中小企業でも起きています。

本記事では、メンタルヘルス相談の放置によって会社が負いうる法的責任の具体的な内容と、中小企業でも今すぐ実践できる対応策をわかりやすく解説します。「知らなかった」では済まされない時代が、すでに到来しているのです。

目次

「相談を受けた」その瞬間から、会社の義務は始まっている

多くの経営者・人事担当者が見落としがちな重要な事実があります。それは、社員が上司や人事担当者にメンタルヘルスの悩みを打ち明けた時点で、会社は問題を「認知した」と法的に判断される可能性があるということです。

「相談を受けたが、本人が大丈夫と言っていたので様子を見た」「気のせいだろうと思って特に何もしなかった」——このような対応は、法的には「義務を怠った証拠」になりかねません。相談後に何のアクションも取らなかった事実は、後の裁判や行政調査において、会社側に不利な材料として使われることがあります。

さらに注意が必要なのは、本人が相談してこない場合でも責任が生じうる点です。平成26年の東芝(うつ病・解雇)事件最高裁判決では、労働者の申告がなくても、使用者側が労働者の健康状態に関する情報を収集し適切に対応すべき場合があることが示されています。つまり、社員が「大丈夫です」と言っていたとしても、外形的に不調のサインが見られる場合には、会社は何らかの措置を講じることが求められます。具体的な対応については、産業医や社会保険労務士などの専門家にご相談ください。

相談を受けた際には、内容と日時、その後の対応を必ず文書で記録してください。記録の存在そのものが、会社が誠実に対応しようとした証拠になります。

会社が負う法的責任の種類と根拠法律

メンタルヘルス相談を放置した場合に会社が問われる法的責任は、大きく分けて民事責任・刑事責任・行政責任の3種類があります。それぞれの根拠と内容を確認しておきましょう。

民事責任:安全配慮義務違反による損害賠償

労働契約法第5条には、「使用者は、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」と明記されています。これを安全配慮義務といい、雇用関係に伴って当然に発生する使用者の義務です。

この義務に違反した場合、民法第415条(債務不履行)または第709条(不法行為)を根拠として、会社は損害賠償を請求される可能性があります。賠償の対象には、休業中の収入損失(休業損害)、精神的苦痛に対する慰謝料、将来得られたはずの収入の損失(逸失利益)などが含まれることがあります。

特に深刻なのは、過労や職場ストレスが原因で社員が自死に至った場合です。遺族への賠償を含めると、賠償総額が高額に達するケースもあります。平成12年の電通事件最高裁判決では、使用者の安全配慮義務違反が認められ、業務の量や内容を適切に調整すべき義務が示されました。この判決は今日の職場メンタルヘルス対応の礎となっています。

また、管理職個人も無関係ではありません。民法第709条の不法行為責任により、適切な対応を怠った上司が個人として損害賠償義務を負う可能性があります。個別の事案における法的責任の判断については、必ず弁護士などの専門家にご相談ください。

刑事責任・行政責任:労働安全衛生法違反

労働安全衛生法第69条は、事業者が労働者の健康保持増進に努める義務を規定しています。また同法第66条の10では、常時50人以上の労働者を使用する事業場にストレスチェックの実施を義務付けており、違反した場合は50万円以下の罰金の対象となります。

行政責任としては、労働基準監督署による是正勧告が考えられます。監督署の調査が入れば、就業規則の整備状況から日常の対応記録まで、幅広く確認されます。

「うちは50人未満だから関係ない」は通用しない

中小企業の経営者からよく聞かれる言葉に「ストレスチェックは50人以上が義務でしょう。うちには関係ない」というものがあります。確かに、ストレスチェックの実施義務は常時50人以上の労働者を使用する事業場に適用されます。しかし、この認識には重大な誤解が含まれています。

まず、50人未満の事業場でもストレスチェックは努力義務です。実施しないことが免責の根拠にはなりません。次に、安全配慮義務(労働契約法第5条)は従業員規模に関係なく、すべての使用者に課されています。1人でも雇用していれば、その社員の心身の安全を守る義務が生じるのです。

「コストがかかるから専門家を使えない」という声もよく聞きます。しかし、50人未満の事業場には地域産業保健センター(産保センター)という無料で活用できる公的資源があります。産業医への相談や保健指導を無料で受けられるため、まずこの仕組みを活用することを検討してください。

また、産業医サービスを外部委託するという選択肢もあります。常時50人以上の労働者を使用する事業場では産業医の選任が義務となりますが、50人未満の企業でも産業医と契約することで、医学的な観点からの助言や面接指導を受けることができます。専門家との連携体制を整えておくことは、法的リスクの軽減に直結します。

放置と認定されやすい「5つの典型的NG対応」

会社側が「対応した」と思っていても、法的には「放置」と認定されるケースがあります。以下の5つは、特に注意が必要な対応パターンです。

  • 精神論だけで終わらせた:「頑張れ」「気持ちの問題だ」という言葉のみで相談を打ち切り、具体的なアクションを何も取らなかった場合
  • 医療機関への受診を勧めなかった:明らかに不調のサインがあるにもかかわらず、産業医や医療機関への受診勧奨を行わなかった場合
  • 業務量・環境の見直しをしなかった:過重労働やハラスメントが不調の原因とわかっていながら、業務の調整や異動などの措置を講じなかった場合
  • ストレスチェックの高ストレス者を放置した:高ストレスと判定された社員に対して、医師による面接指導の機会を提供しなかった場合(労働安全衛生法第66条の10第3項)
  • 休職後のフォローを怠った:休職に入れば会社の義務は終わりと考え、休職期間中の状況確認や復職支援を行わなかった場合

特に「休職させれば責任はなくなる」という誤解は危険です。休職期間中も定期的な状況確認と復職支援の継続が求められており、復職後に不十分なサポートで症状が再発した場合も、会社の責任が問われることがあります。

また、「触れるとハラスメントと言われるかもしれない」という萎縮から、管理職が社員への関与を避けるケースも見られます。しかし、業務上の指示の範囲で状況を確認し、産業医や相談窓口につなぐことはハラスメントには該当しません。むしろ、そうした対応を怠ることの方が法的リスクを高めます。適切な関与と過剰な干渉を区別した上で、必要な対応を記録に残しながら行うことが重要です。

中小企業が今すぐ整備すべき対応体制の実践ポイント

法的リスクを回避し、社員の心の健康を守るために、中小企業が優先的に取り組むべき実践ポイントを整理します。

1. 相談窓口を設け、形骸化させない

相談窓口は設置するだけでは意味がありません。社員が実際に利用できる仕組みを整えることが重要です。窓口の担当者を明確にし、相談があった場合の対応フロー(記録→専門家への報告→対応策の検討)を文書化しておきましょう。外部のEAP(従業員支援プログラム)などのサービスを活用することで、社内の人間関係を気にせず相談できる環境を整えることも有効です。

2. 管理職へのラインケア研修を実施する

ラインケアとは、管理職(ライン)が部下のメンタル不調の早期発見・対応を行うことです。厚生労働省のメンタルヘルス指針でも推奨されているこのケアを機能させるためには、管理職が「部下の変化に気づくサイン」「声のかけ方」「専門家へのつなぎ方」を知っておく必要があります。年に1回程度の研修機会を設けることを検討してください。

3. 就業規則にメンタルヘルス対応手順を明記する

就業規則に休職・復職の手順、相談窓口の利用方法、産業医との連携フローなどを明記しておくことで、社員への周知と会社の義務履行の証跡になります。整備されていない場合は、社会保険労務士などの専門家に相談して早急に対応することをお勧めします。

4. 対応記録を必ず残す

相談を受けた日時、内容の概要、その後に取ったアクション(受診勧奨の有無、業務調整の内容など)を記録に残してください。この記録が、会社が誠実に対応したことを示す重要な証拠になります。口頭のやり取りだけで終わらせず、メールや記録用紙など形として残る手段を活用してください。

5. ストレスチェックの結果を活用する

常時50人以上の労働者を使用する事業場でストレスチェックを実施している場合、集団分析の結果を職場環境の改善に活用することが求められています。「義務だから実施する」だけでは不十分です。高ストレス者への面接指導の勧奨と実施、職場単位での課題把握と対応策の検討まで行ってこそ、法令の趣旨に沿った運用といえます。

まとめ:「知らなかった」で済まない時代に備える

社員からのメンタルヘルス相談を放置することは、民事・刑事・行政の3つの側面から法的責任を問われるリスクがあります。労働契約法の安全配慮義務はすべての使用者に課されており、従業員規模が小さいからといって免除されることはありません。

特に重要なのは、相談を受けた時点で会社は「認知した」とみなされる可能性があるという点です。その後の対応いかんで、会社の誠実さが問われます。「様子を見る」「本人に任せる」という選択は、法的には「放置」と評価される可能性があることを忘れないでください。

今すぐできることから始めましょう。相談記録のルール整備、管理職へのラインケア研修、外部専門家との連携体制の構築——これらは決して大きなコストをかけずに取り組める対策です。社員の心の健康を守ることは、会社のリスク管理であると同時に、優秀な人材が長く働き続けられる職場環境づくりへの投資でもあります。

よくある質問(FAQ)

社員が「大丈夫」と言っていれば、会社は対応しなくていいですか?

本人の申告がなくても、外形的に不調のサインが見られる場合は会社が対応義務を負うと解されることがあります。平成26年の東芝(うつ病・解雇)事件最高裁判決でも、労働者の申告がなくても使用者側が健康状態に関する情報を収集し適切に対応すべき場合があることが示されています。「大丈夫と言っていた」という記録を残しつつ、継続的なフォローを行うことが重要です。具体的な対応については、産業医や弁護士などの専門家にご相談ください。

従業員が50人未満でも、ストレスチェックや産業医の対応は必要ですか?

ストレスチェックの実施義務は常時50人以上の労働者を使用する事業場ですが、50人未満でも努力義務があり、安全配慮義務(労働契約法第5条)はすべての使用者に適用されます。50人未満の事業場は地域産業保健センター(産保センター)を無料で活用できるほか、外部の産業医サービスやEAPの導入も選択肢の一つです。

休職させれば、会社の法的責任はなくなりますか?

休職させることで直ちに責任が消えるわけではありません。休職期間中も定期的な状況確認や復職支援が求められており、復職後に十分なサポートがなく症状が再発した場合も、会社責任が問われる可能性があります。休職から復職までの一連のプロセスを適切に管理することが必要です。不明な点は社会保険労務士や弁護士にご相談ください。

管理職が部下に関与することはハラスメントになりますか?

業務上の範囲で状況を確認し、専門家や相談窓口につなぐ行為はハラスメントには該当しません。むしろ、不調のサインを見落として対応を怠ることの方が法的リスクを高めます。「どのように声をかけるか」「専門機関へのつなぎ方」などをラインケア研修で学ぶことで、適切な関与とハラスメントの境界線を理解することができます。

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