「EAP利用率が上がらない会社がやっていない、従業員が自然と相談したくなる職場文化の作り方」

EAP(Employee Assistance Program=従業員支援プログラム)を導入したにもかかわらず、従業員がほとんど利用しない——そんな悩みを抱える中小企業の経営者・人事担当者は少なくありません。業界全体の平均利用率は3〜5%程度にとどまるとも言われており、「せっかく費用をかけたのに意味がなかった」という声も聞かれます。

しかし、利用されないのはEAPそのものの問題ではなく、職場の文化・風土がEAP利用を阻んでいることがほとんどです。従業員が「相談したら上司に知られるかもしれない」「メンタルの相談をすると弱い人間だと思われる」と感じている限り、どれだけ優れたサービスを用意しても使われません。

この記事では、EAP利用率を上げるために必要な「職場文化の作り方」を、法的背景も含めながら具体的に解説します。人事担当者や経営者の方が明日から実践できるポイントを中心にまとめていますので、ぜひ最後までお読みください。

目次

なぜEAPは使われないのか——根本にある4つの障壁

EAPが活用されない背景には、単なる「周知不足」以上の問題が潜んでいます。従業員が相談をためらう理由を正確に把握しないまま対策を打っても、利用率はなかなか改善しません。主な障壁は以下の4つです。

障壁1:「秘密が守られない」という不安

最も多い懸念が、相談内容が上司や人事部門に漏れるのではないかという恐れです。「相談したら人事評価に響くかもしれない」「異動や解雇のきっかけになるかもしれない」という不安は、特に正規・非正規問わず多くの従業員に共通しています。EAPプロバイダーが守秘義務を負っていても、そのことが従業員に正確に伝わっていなければ意味がありません。

障壁2:メンタルヘルスへのスティグマ(偏見)

「メンタルの問題を抱えている=仕事ができない・精神的に弱い」という偏見は、多くの職場にいまだ根強く残っています。このスティグマがある限り、従業員は不調を感じていても相談することを自ら禁じてしまいます。管理職の世代に「自分たちの時代は我慢した」という意識が強い場合、その傾向はさらに強くなります。

障壁3:管理職がEAPを正確に理解していない

部下にEAPを案内する立場の管理職が、そのサービス内容や守秘義務の範囲を正確に把握していないケースも多く見られます。管理職自身がEAPをよく知らなければ、部下に適切に紹介することはできませんし、自ら利用することもないでしょう。管理職の無理解は、組織全体のEAP活用を妨げる大きな要因となります。

障壁4:一度きりの周知で終わっている

入社時のオリエンテーションで案内して終わり、という形式的な周知では不十分です。人は繰り返し情報に触れることで初めて「使えるかもしれない」と思い至ります。また、パートタイマーや外国人労働者など、属性によっては最初の案内すら届いていないこともあります。

法律が求める企業の責任——EAP整備は義務の延長線上にある

EAP活用文化の構築は、単なる福利厚生の充実にとどまらず、企業が法律上負う義務と深く結びついています。この点を経営者・人事担当者が理解することで、社内での取り組みに正当な根拠と優先度を与えることができます。

労働契約法第5条は、使用者が労働者の生命・身体等の安全を確保するための措置を講じる「安全配慮義務」を定めています。メンタルヘルス対策が不十分であったことで従業員が精神疾患を発症した場合、安全配慮義務違反として損害賠償請求を受けるリスクがあります。EAPの整備と適切な運用は、このリスクを軽減する重要な対策として評価されます。

労働安全衛生法第66条の10では、常時50人以上の事業場にストレスチェック制度の実施が義務付けられています。50人未満の事業場は努力義務ですが、EAPはストレスチェックの補完的な手段として非常に有効です。高ストレス者への対応窓口としてEAPを活用することで、面接指導や医師相談への橋渡しがスムーズになります。

また、厚生労働省の「メンタルヘルス指針(労働者の心の健康の保持増進のための指針)」は、メンタルヘルスケアを「セルフケア」「ラインケア」「事業場内産業保健スタッフによるケア」「事業場外資源によるケア」の4つに分類しています。EAPはこのうち「事業場外資源によるケア」に該当し、国が推奨する正式な支援手段のひとつです。

さらに、個人情報保護法の観点では、EAP利用記録は要配慮個人情報に該当しうるため、事業者が従業員の相談内容を無断で取得・利用することは許されません。EAPプロバイダーとの契約において守秘義務の範囲(どのような場合に例外的に情報共有が行われるか等)を就業規則や利用規程で明確にしておくことが、法的にも従業員の信頼獲得の観点からも重要です。

「秘密は守られる」を徹底的に可視化する——信頼構築の第一歩

EAP利用を促進するうえで最も効果的なのは、守秘義務を「言葉」ではなく「仕組み」として可視化することです。「秘密は守られます」と口頭で伝えるだけでは不十分です。従業員が「本当に守られる」と納得するためには、具体的な根拠を示す必要があります。

  • EAPプロバイダーとの契約書・守秘義務規程を従業員に開示する:何が守られ、何が例外となるかを明文化した文書を配布するか、社内イントラネットに掲示します。
  • 「会社に報告される情報・されない情報」を一覧で示す:たとえば「利用の有無・回数・相談内容は会社に報告されない」「ただし本人の生命に重大な危険がある場合はこの限りでない」といった例外規定も含めて明確にします。
  • 利用が人事評価・昇進に影響しないことを就業規則等に明記する:規程に書かれていることは口頭の説明より信頼されます。
  • 経営トップが公式にメッセージを発信する:社長・役員が「EAPを使うことは会社として歓迎している」「評価には一切影響しない」と明言することで、従業員の不安は大きく軽減されます。このトップコミットメントは、どの施策よりも効果が高いと言えます。

なお、EAPと連動する形でメンタルカウンセリング(EAP)を外部の専門機関に委託している場合は、その機関が担う守秘義務の範囲についても従業員向けに丁寧に説明することが重要です。

管理職教育(ラインケア)とEAPを連動させる

EAPの利用促進において、管理職の役割は非常に重要です。従業員が最初に「何か辛い」と感じたとき、最も身近にいるのは直属の上司だからです。管理職が適切に機能すれば、EAPへのアクセスを大きく後押しできます。

管理職研修でEAPの正確な知識を伝える

ラインケア研修(管理職が部下のメンタルヘルスをサポートするための研修)の中に、EAPの内容・使い方・守秘義務の範囲を組み込みます。特に「部下にEAPを使うよう強制してはいけない」という点は必ず教育に含める必要があります。強制や過度な勧めは、かえって従業員を傷つける可能性があります。

管理職自身がEAPを活用できる環境を作る

管理職もまた、プレッシャーや悩みを抱える立場です。管理職自身がEAPを利用した体験を(強制ではなく自発的に)語れる組織文化は、部下が相談することへの心理的ハードルを大きく下げます。「上司も使っているなら、自分が使っても変ではない」という安心感が生まれます。

部下のSOSサインに気づくスキルを養う

遅刻・早退の増加、ミスの頻発、コミュニケーションの変化など、メンタル不調のサインを管理職が早期に察知できるよう、具体的なチェックリストやロールプレイを研修に取り入れることも有効です。

スティグマを解消し、EAPを「日常のツール」として定着させる

「メンタルヘルスの相談=弱い人がするもの」というスティグマを組織の中から取り除くには、EAPの位置付けそのものを変える必要があります。

最も効果的なアプローチは、EAPをウェルネス(健康増進)や予防的な文脈で紹介することです。「不調になったら使うもの」ではなく、「日常的なストレスマネジメントやキャリア相談、家族の悩みにも使えるもの」として案内することで、相談へのハードルが格段に下がります。実際、多くのEAPサービスは法律・家計・介護・育児など、メンタルヘルス以外の幅広い相談にも対応しています。

また、継続的な周知活動も欠かせません。入社時のオリエンテーションはもちろん、給与明細への案内挿入、社内報・イントラネットへの定期掲載、ポスター掲示など、複数の接点を組み合わせることが重要です。年に1〜2回「EAP活用月間」を設けてリマインドを行うことも、利用率向上に効果的です。

さらに、ストレスチェック実施後に高ストレスと判定された従業員に対して、EAPを個別に案内することは、制度として非常に有効な活用方法です。本人が医師面接を受けることへの抵抗感がある場合でも、EAPのカウンセリングを入口にすることで、より適切なサポートにつなげられる場合があります。

実践ポイント:明日から始められる5つのアクション

ここまでの内容を踏まえ、経営者・人事担当者がすぐに取り組める具体的なアクションを整理します。

  • アクション1:守秘義務の範囲を文書化して全従業員に配布する
    EAPプロバイダーと協力し、「会社に報告される情報・されない情報」を一枚の紙にまとめて配布します。難しい法律用語は使わず、平易な言葉で書くことがポイントです。
  • アクション2:経営者・役員からの公式メッセージを発信する
    社内報、全体会議、メールなどを通じて「EAPを使うことは推奨されており、評価には一切影響しない」というメッセージを経営トップが発信します。これだけで従業員の心理的ハードルは大きく変わります。
  • アクション3:次回の管理職研修にEAPセッションを追加する
    既存のラインケア研修やハラスメント防止研修にEAPの紹介セッション(30分程度でも十分)を追加します。管理職が正確な情報を持つことが、組織全体のEAP活用を底上げします。
  • アクション4:EAPを「メンタル専用」ではなく「総合相談窓口」として案内する
    チラシやポスターの文言を「悩んでいる方へ」ではなく「仕事・家庭・お金・健康、どんな相談でも」という形に変えます。幅広い相談に対応していることを強調することで、相談への心理的障壁を下げられます。
  • アクション5:匿名の利用データを定期的に確認し、組織課題の把握に活用する
    EAPプロバイダーから月次または四半期ごとに、個人が特定されない形での利用率・相談カテゴリーの集計レポートを受け取り、職場環境改善のヒントとして活用します。このデータが人事評価に使われないことを従業員に明示することも忘れずに行ってください。

また、EAPの活用と並行して、産業医との連携体制を整えることも重要です。産業医サービスを通じて、EAPを補完する形で個別の就業上の配慮や職場環境改善のアドバイスを受けることで、より包括的なメンタルヘルス支援体制を構築できます。

まとめ

EAPの利用率が低い根本的な原因は、サービスの質や認知度の問題ではなく、「使っても安全だ」と従業員が感じられる職場文化が形成されていないことにあります。守秘義務の可視化、経営トップのコミットメント、管理職教育、継続的な周知、スティグマの解消——これらは一朝一夕では実現しませんが、一つひとつ積み重ねることで、確実に組織の文化を変えていくことができます。

法律上の安全配慮義務の観点からも、EAPを形式的に導入するだけでなく、実際に使われる仕組みを整えることは企業の責任です。従業員が「困ったときに相談できる場所がある」と信頼できる職場は、生産性の向上や離職率の低下にもつながります。ぜひ今日から、できるところから一歩を踏み出してみてください。

よくある質問(FAQ)

Q1. EAPの利用率はどのくらいが目安ですか?

業界全体の平均利用率は3〜5%程度とされていますが、職場文化の整備や継続的な周知活動によって10〜20%台に達している企業もあります。利用率の数字だけを目標にするのではなく、「従業員が必要なときに使える状態になっているか」を定性的にも評価することが重要です。まずは現状の利用率を把握し、年度ごとの変化を追う形で改善策の効果を測るとよいでしょう。

Q2. 従業員がEAPを利用したことは会社に報告されますか?

原則として、個人の利用の有無や相談内容はEAPプロバイダーの守秘義務によって保護されており、会社に報告されることはありません。ただし、本人や第三者の生命に重大な危険がある場合など、例外的に情報共有が行われるケースが契約上定められていることがあります。この例外規定の範囲を就業規則や利用案内に明記し、従業員に事前に周知することが信頼構築の観点から非常に重要です。

Q3. 従業員数が少ない中小企業でもEAPは有効ですか?

はい、むしろ中小企業にとってEAPは有効な選択肢のひとつです。小規模な組織では社内に産業医や保健師が常駐していないケースが多く、外部の専門機関であるEAPが果たす役割は大きくなります。労働安全衛生法のストレスチェック制度は従業員50人未満の事業場では努力義務ですが、EAPを活用することで法の趣旨に沿ったメンタルヘルス対策を実施することができます。費用についてはプロバイダーごとに異なりますので、複数社を比較検討することをお勧めします。

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