「女性従業員が辞めない会社の秘密|キャリア支援と健康管理を両立させた中小企業の実践策」

人手不足が深刻化する今、女性従業員の活躍推進は多くの中小企業にとって避けて通れない経営課題となっています。しかし現場では「女性が活躍できる環境を整えたいが、何から手をつけてよいかわからない」「制度をつくっても使われない」「優秀な女性社員が出産を機に辞めてしまう流れを止められない」といった悩みの声が絶えません。

女性従業員のキャリア支援と健康管理を両立させることは、単なる「女性への配慮」ではありません。人材の定着率向上、生産性の改善、採用競争力の強化につながる、企業全体の経営戦略の問題です。本記事では、中小企業の経営者・人事担当者が今すぐ取り組める具体的な施策と、押さえておくべき法律の要点を体系的に解説します。

目次

なぜ今、女性のキャリア支援と健康管理の「両立」が求められるのか

女性のライフステージには、月経・妊娠・出産・育児・更年期といった男性にはない身体的・生活的な変化が伴います。これらは就業継続やキャリア形成に大きな影響を与える一方で、職場での支援が後手に回りやすい領域でもあります。

たとえば更年期症状(ほてり・倦怠感・抑うつ感など)は、40代後半から50代にかけて多くの女性に現れますが、本人も職場も「なんとなく体調が悪い」という状態が続きやすく、気づいたときには離職につながっているケースが少なくありません。管理職や熟練社員の離職は、中小企業にとって特に深刻なダメージとなります。

健康管理とキャリア支援を切り離して考えると、どちらも中途半端になりがちです。体調が安定しなければキャリアアップに挑戦する意欲は生まれませんし、キャリアに展望が持てなければ体調管理に前向きになれません。この二つをセットで考えることが、実効性ある施策の第一歩です。

中小企業が知っておくべき主要な法律と義務

施策を設計する前に、自社が法律上どのような義務を負っているかを整理しておく必要があります。知らずに対応が漏れていると、行政指導や訴訟リスクにもつながります。

女性活躍推進法の適用範囲が拡大された

2022年の改正により、常時雇用する従業員が101人以上の企業には「一般事業主行動計画」の策定・届出・公表が義務化されました(改正前は301人以上)。行動計画には、女性の採用比率、管理職比率、男女の継続勤務年数の差などの数値目標を盛り込む必要があります。

100人以下の企業は努力義務にとどまりますが、行動計画を策定・公表することで「えるぼし認定」(女性活躍に積極的な企業として厚生労働大臣が認定する制度)を取得できます。この認定は採用活動やブランディングにおいて有効なアピール材料になります。

育児・介護休業法の改正で個別対応が義務化された

2022年の改正では、妊娠・出産の申し出をした従業員に対して、育児休業制度の個別周知と取得意向の確認が事業主の義務となりました。「制度はあるが取りにくい」という空気を解消するための法改正です。口頭でのインフォメーションだけでなく、書面や電子媒体での情報提供が求められます。

また「産後パパ育休(出生時育児休業)」が創設され、男性も子の出生後8週間以内に最大28日間の育児休業を取得できるようになりました。男性の育休取得促進は、女性だけに育児負担が集中する構造を変える重要な施策です。

母性健康管理指導事項連絡カードへの対応は義務

「母健連絡カード(母性健康管理指導事項連絡カード)」とは、医師や助産師が妊娠中・産後の女性従業員に対して指導した内容を事業主に伝えるための公式ツールです。このカードに基づいて事業主が講じる措置(休業・時短・作業転換など)は男女雇用機会均等法に基づく義務であり、対応しなかった場合は法律違反となります。

人事担当者がこのカードの存在を知らないケースも見られます。妊娠報告を受けた際のフローを事前に整備しておくことが重要です。

小規模企業でもできる健康管理の仕組みづくり

「産業医もいないし、保健師もいない。健康管理なんてどうすればいいか」という声は、中小企業の人事担当者から非常によく聞かれます。しかし専任の産業医がいなくても、活用できるリソースは複数あります。

地域産業保健センターを積極的に使う

常時雇用50人未満の事業場は、産業医の選任義務がありません(50人以上は義務)。そのような企業向けに、厚生労働省が各都道府県に設置しているのが地域産業保健センター(通称:地さんぽ)です。産業医への相談、健康診断結果に基づく保健指導、職場復帰支援などのサービスを無料で利用できます

女性特有の健康課題に関する相談窓口として活用し、社内に専門家がいない部分をカバーする手段として有効です。

婦人科検診の受診率を上げる工夫をする

子宮頸がんや乳がんは、早期発見であれば治療成績が格段に向上する疾患です。しかし日本の受診率は他の先進国と比較して依然として低い水準にとどまっています。企業として検診費用の補助・受診のための時間確保・予約サポートといった具体的な後押しをするだけで、受診率は改善します。

また、生理休暇(労働基準法第68条に規定)については、「申請理由を書かなくてよい運用設計」にするだけで取得ハードルが大きく下がります。様式をシンプルにすることも、現場レベルでできるすぐに効果が出る施策の一つです。

更年期への対応は「見える化」から始める

更年期症状は個人差が大きく、本人が症状を職場で打ち明けにくい傾向があります。企業側ができることとして有効なのは、フレックスタイム制やテレワークの柔軟な適用、体調によって勤務時間を調整できる仕組みの整備です。

さらに進んだ取り組みとして、「更年期ポリシー」(更年期症状を抱える従業員への対応方針を明文化したもの)を策定する企業が国内外で増えています。就業規則への明記や社内ガイドラインの作成は、管理職が部下に適切に対応するための指針にもなります。

キャリア支援で陥りやすい失敗と、機能する制度の条件

「制度はあるが使われない」「制度を作ったが形骸化した」という経験を持つ企業は少なくありません。制度が機能しない最大の原因は、制度の設計と職場の文化・管理職の意識がかみ合っていない点にあります。

アンコンシャスバイアスへの対処が先決

アンコンシャスバイアスとは「無意識の偏見」のことです。たとえば「女性は昇進を望まないだろう」「子どもがいるから残業をお願いしにくい」といった思い込みが、管理職の行動を通じて女性のキャリアを知らず知らずのうちに制約しています。

管理職研修にアンコンシャスバイアスのプログラムを組み込むことは、法律上の義務ではありませんが、キャリア支援施策を機能させるための基盤として非常に重要です。研修の効果を高めるには、具体的な場面設定(例:時短勤務者への業務アサイン場面など)を使ったケーススタディが有効とされています。

定期的なキャリア面談をライフイベントと切り離して実施する

育休前後だけキャリアの話をするのでは不十分です。年1〜2回のキャリア面談を、在籍している全女性従業員に対して定期的に実施することが重要です。「今のポジションで満足しているか」「将来的に担いたい役割はあるか」「そのために何が必要か」を継続的に確認することで、退職の意思が固まる前に対処できる機会が生まれます。

面談は人事担当者だけでなく、直属の上長とは別ルートで実施する設計にすると、上司に言いにくい悩みをキャッチしやすくなります。

時短勤務者への評価制度を見直す

時短勤務者と通常勤務者の間に不公平感が生じるケースの多くは、「労働時間の長さ」で評価が決まる仕組みが残っていることに起因しています。「時間」から「成果」への評価軸の転換を進めることで、時短勤務者が不当に低く評価される構造を解消できます。

同時に、フルタイム勤務者が時短勤務者の業務を一方的にカバーする状況が続くと、職場内の軋轢が生まれます。業務の標準化・見える化を進め、特定の個人に依存しない体制をつくることが、制度を長続きさせるための土台となります。

今日から始める実践ポイント:優先順位の高い5つのアクション

「やるべきことはわかったが、限られたリソースで何から手をつければいいか」という疑問に対して、中小企業が優先度高く取り組むべき具体的なアクションをまとめます。

  • 自社の従業員規模を確認し、法律上の義務を洗い出す:女性活躍推進法・育児介護休業法・労働安全衛生法のそれぞれについて、自社に何が義務として課されているかを整理する。都道府県労働局への相談や社会保険労務士への確認が有効です。
  • 母健連絡カードへの対応フローを整備する:妊娠報告を受けた際の対応手順を書面化し、人事・総務・直属上司の役割分担を明確にする。知らないまま放置すると法律違反になるリスクがあります。
  • 地域産業保健センターに連絡し、活用できるサービスを確認する:産業医不在の小規模企業でも、無料の専門家相談が受けられます。まず窓口に問い合わせるだけで、自社の健康管理水準が大きく変わります。
  • 管理職を対象にしたアンコンシャスバイアス研修を1回実施する:外部講師を招いた研修でも、e-ラーニングを活用した研修でも構いません。「知らなかった」から「気づいている」状態にするだけで、現場の行動は変わります。
  • キャリア面談の仕組みを設計し、次の半期から試験運用を始める:フォーマットはシンプルで構いません。「今の業務に満足しているか」「将来やってみたい仕事はあるか」という2〜3の質問から始めるだけでも十分な出発点になります。

まとめ:女性が長く活躍できる職場は、全員にとって働きやすい職場

女性従業員のキャリア支援と健康管理を両立させるためには、単発の施策ではなく、制度・文化・評価の三つを整合させた継続的な取り組みが必要です。大企業のように専任の産業医や人事スタッフを抱えなくても、地域産業保健センターや社会保険労務士といった外部リソースを活用しながら、自社の規模に合った仕組みを少しずつ積み上げることができます。

重要なのは「完璧な制度を一気に整える」ことではなく、「現場が動ける仕組みを、できるところから確実に整える」ことです。

女性が体調を理由にキャリアを諦めず、キャリアを理由に健康を後回しにしない職場は、結果として男性を含む全従業員にとっても柔軟で働きやすい環境になります。女性活躍推進は「特別な配慮」ではなく、持続可能な組織をつくるための経営の基本として捉え直すことが、これからの中小企業経営者・人事担当者には求められています。

よくある質問

Q1: 100人以下の中小企業は女性活躍推進法に対応しなくてもよいのですか?

法律上は努力義務にとどまりますが、行動計画を策定・公表することで「えるぼし認定」を取得でき、採用活動やブランディングの有効なアピール材料になります。対応することで採用競争力の強化につながるため、企業経営の観点からは取り組むことが推奨されます。

Q2: 産業医がいない小規模企業では、女性従業員の健康管理をどうすればよいですか?

50人未満の企業は産業医の選任義務がありませんが、厚生労働省が設置している地域産業保健センター(地さんぽ)を無料で利用できます。女性特有の健康課題に関する相談や保健指導を受けられるため、社内にない専門知識をカバーできます。

Q3: 妊娠を報告された際に企業が対応すべきことは何ですか?

医師や助産師の指導内容を記載した「母性健康管理指導事項連絡カード」を受け取り、その内容に基づいて休業・時短・作業転換などの措置を講じることが男女雇用機会均等法で義務化されています。妊娠報告時のフローを事前に整備しておくことが重要です。

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