「DV被害者が職場にいたらどうする?中小企業が今すぐ知っておくべき対応策とEAPの活用法」

「うちの社員がDV被害を受けているかもしれない」と感じたとき、経営者や人事担当者はどう動けばよいのでしょうか。多くの中小企業では、DV(ドメスティック・バイオレンス)は「家庭内の問題」として職場が関与する話題ではないと考えがちです。しかし、DV被害は被害者の就労能力や心身の安全に直接影響を与え、ひいては職場全体の安全とパフォーマンスにも関わる重大な課題です。

本記事では、中小企業の経営者・人事担当者が知っておくべきDV被害への職場支援の基礎知識、関連する法律の要点、そしてEAP(従業員支援プログラム)が果たす具体的な役割について解説します。

目次

なぜ職場がDVに向き合う必要があるのか

DV被害者が職場に在籍していることは、決して珍しいことではありません。内閣府の「男女間における暴力に関する調査」(令和3年度版)によると、女性の約4人に1人、男性の約6人に1人が配偶者から何らかの暴力を受けた経験があると回答しています。統計的に見れば、中小企業であっても複数名の被害者が在籍している可能性は十分にあります。

問題は、DV被害者の多くがその事実を隠す傾向にあることです。被害者は「恥ずかしい」「信じてもらえないかもしれない」「加害者に知られたら何をされるかわからない」といった複合的な恐怖から、職場では笑顔を作り続けることがあります。その結果、遅刻や欠勤の増加、集中力の低下、原因不明のけが、不自然な外出制限などのサインが別の理由(体調不良、モチベーション低下など)と混同されがちです。

さらに、DV被害者にとって職場は極めて重要な意味を持ちます。経済的自立の手段であり、加害者から物理的に離れられる数少ない安全な場所でもあるからです。もし職場が適切な支援を行わず、被害者が仕事を失うようなことになれば、加害者への依存を深める悪循環に陥りかねません。職場支援はDV被害者の自立・回復を左右する重大な要素の一つです。

企業が知っておくべき法律の基礎知識

DV被害への職場対応には、複数の法律が関係しています。「法律的な根拠がないと動けない」と感じる経営者・人事担当者のために、主要な法律の要点を整理します。

DV防止法(配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律)

配偶者・元配偶者・生活の本拠を共にする交際相手からの暴力を規制する法律です。2023年の改正によって、「精神的暴力」「性的暴力」も保護命令の対象として明確に加えられました。裁判所が発する接近禁止命令・退去命令・電話等禁止命令に違反した場合、2年以下の懲役または200万円以下の罰金が科されます。現時点では職場(使用者)に対する直接的な法的義務は規定されていませんが、被害者から保護命令の存在を知らされた場合には、職場として対応に協力することが求められます。

労働契約法第5条の安全配慮義務

使用者(企業)は、労働者の生命・身体の安全を確保するよう配慮する義務を負います。これは「DV加害者が職場に押しかけてきた場合のリスク」も含まれると解釈されています。被害者が職場環境に起因して怪我を負ったり、心理的な二次被害を受けたりした場合、企業の対応に問題があれば安全配慮義務違反を問われる可能性があります。

ストーカー規制法・個人情報保護法

加害者が職場に電話をかけてきたり、退勤時刻を聞き出そうとしたりする行為は、ストーカー規制法の対象となりうる行為です。警察への相談・禁止命令申請も可能です。また、加害者が「緊急連絡先」として登録されている配偶者である場合には、その情報の取り扱いに十分な注意が必要です。個人情報保護法を根拠に、加害者からの問い合わせに対して従業員情報の提供を拒否することが正当とされます。社内で統一した断り文句と対応ルールを事前に整備しておくことが重要です。

有給休暇と就労継続の保護

被害者が保護命令申請・シェルター入居・行政手続きなどのために時間を確保する必要がある際、労働基準法第39条の有給休暇取得を適切に案内することが支援の一つとなります。また、DV被害を理由とした不当な解雇・降格は、労働契約法上の問題となるリスクがあります。

職場として整備すべき具体的な支援体制

法律の理解を前提に、次は実務レベルの体制整備について解説します。

相談窓口の明示と担当者の事前指定

被害者が最初に直面する壁は「誰に話せばいいかわからない」という状況です。産業医・産業カウンセラー・EAP担当者・人事担当者など、複数の相談先を従業員に周知しておくことが重要です。「相談できる人がいる」という認知があるだけで、被害者が声を上げやすくなります。

また、相談を受けた人事担当者が「どこまで組織に報告すべきか」と板挟みになるケースがあります。守秘義務を基本としながらも、安全上の緊急事態が生じた場合には一定の情報共有を行うというルールを事前に明確化しておくことで、担当者の負担を軽減できます。

情報管理の徹底

DV被害者にとって、自分の居場所や勤務情報が加害者に漏れることは生命に関わるリスクです。職場として行うべき情報管理の具体例を以下に示します。

  • 緊急連絡先リストの見直し:被害者から申し出があった場合、緊急連絡先から加害者(配偶者)の情報を削除または別管理とする
  • 電話対応ルールの統一:外部から従業員の在席状況・出退勤時刻・住所を問い合わせてきた場合、「個人情報保護方針に基づきお答えできません」と全員が統一して答えられるよう事前に研修を行う
  • 住民票の支援措置との連動:DV被害者が市区町村に申し出ることで住民票の閲覧制限が受けられる「支援措置申出制度」があります。社内でもこの制度の存在を案内できると、被害者の安全確保に役立ちます

物理的セキュリティと緊急時対応プロトコルの整備

「加害者が職場に押しかけてきた」という緊急事態は実際に起きうるケースです。事前にプロトコル(対応手順)を整備しておかないと、現場が混乱します。

  • 受付・警備担当者に加害者の特徴(必要に応じて写真)を共有する(プライバシーへの配慮を前提に、被害者本人の同意を得て行う)
  • 不審者が侵入した場合の警察通報フローを明文化し、関係者に周知する
  • 必要に応じて入退館管理を強化する

就労上の柔軟な配慮措置

被害者が「特別扱いされたくない」と感じることへの配慮も必要ですが、一方で物理的・時間的な配慮なしには就労継続が困難になります。以下のような措置は「特別扱い」ではなく「合理的な配慮」として位置づけ、必要な従業員が申請しやすい雰囲気を作ることが重要です。

  • 一時的な休暇取得・シフト変更・在宅勤務の柔軟な承認
  • 保護命令申請・シェルター入居・行政手続きのための時間確保
  • 安全確保のための配置転換・事業所変更の検討
  • 収入の継続を守るための不当な解雇・降格の回避

EAP(従業員支援プログラム)が果たす役割

EAPとは、従業員のメンタルヘルスや生活上の問題をサポートするための組織的支援プログラムです。カウンセリング、情報提供、専門機関への紹介などを組み合わせたサービスで、外部機関に委託する形で導入する企業が増えています。DV被害への対応においても、EAPは複数の重要な役割を担います。

早期発見とアセスメント

EAPのカウンセラーは、不調サインのスクリーニング(問診・面談)を通じて、DV被害を背景とした心理的問題を早期に察知することができます。人事担当者や上司が気づけなかった背景事情を、守秘義務のもと安全に聴き取ることができる点が大きな特徴です。被害者にとっても、「会社の人に話すのは怖いが、外部の専門家になら話せる」という心理的ハードルの低さが開示を促します。

秘密厳守の相談環境の提供

EAPの大原則は守秘義務です。相談内容が直接上司や人事に伝わるわけではないという安心感が、被害者の相談意欲を高めます。「職場に知られたら加害者に伝わるかもしれない」という恐怖を持つDV被害者にとって、社外の専門機関への相談窓口は不可欠な選択肢となります。

専門機関への適切なリファー(紹介)

EAPカウンセラーは、被害者の状況に応じて、配偶者暴力相談支援センター(各都道府県設置)、女性相談センター、法テラス(法律相談・弁護士費用立替制度)、警察の生活安全課などへの適切な紹介を行います。被害者一人では公的支援の全体像を把握することが困難なため、専門家が「つなぎ役」を担うことには大きな意義があります。

管理職・人事担当者への支援(二次的トラウマの予防)

DV被害者の支援にあたる管理職・人事担当者が、継続的な相談対応を通じて疲弊する「二次的トラウマ(共感疲労)」のリスクも見過ごせません。EAPは被害者本人だけでなく、対応者自身のメンタルケアも担うことができます。相談を受けた後に「自分はどう対応すればよかったのか」と悩む担当者が、専門家に助言を求められる環境を整えることも重要です。

EAPの導入を検討している場合は、ぜひメンタルカウンセリング(EAP)のサービス内容もご確認ください。中小企業の規模・予算に合わせた柔軟な導入プランが利用可能です。

実践ポイント:今日から着手できる5つのステップ

「体制整備が必要なのはわかったが、何から始めればよいかわからない」という声は多く聞かれます。以下の5つのステップを優先度の高い順に整理しました。

  • ステップ1:相談窓口を明文化して従業員に周知する。産業医・外部EAPなど複数の相談先を案内文として掲示・配布するだけでも、被害者が声を上げやすい環境が生まれます。
  • ステップ2:電話対応と情報管理のルールを統一する。外部からの従業員情報照会に対する断り文句と手順を全スタッフに周知します。研修は短時間のロールプレイでも効果的です。
  • ステップ3:緊急時対応プロトコルを作成する。「不審者が職場に来た場合」のフローチャートを1枚ペーパーで作成し、受付・警備・管理職に配布します。
  • ステップ4:就労配慮措置の申請ルートを整備する。休暇・シフト変更・在宅勤務などの柔軟対応を「本人申請→人事確認→承認」という簡素な手続きで運用できるよう明文化します。
  • ステップ5:EAPの導入または既存サービスの活用を検討する。外部カウンセリング機能をもつEAPを導入することで、人事担当者の負担を分散させ、被害者が安全に相談できる場を確保できます。

また、産業医との連携によって職場環境の安全管理をより組織的に進めることも可能です。詳しくは産業医サービスのページをご覧ください。

まとめ

DV被害への職場支援は、「プライベートな問題への介入」ではありません。被害者の就労継続・経済的自立・身の安全を守ることは、安全配慮義務を負う企業として求められる対応であり、同時に職場全体の安全と健全な組織運営にも直結する課題です。

中小企業だからこそ、経営者・人事担当者が被害者と近い距離にいます。その距離を「早期発見と支援」につなげることができれば、大企業にはない強みになります。法律の理解・情報管理の整備・EAPの活用を組み合わせることで、DV被害者が安心して働き続けられる職場環境をつくることは、決して難しいことではありません。今日から着手できることから、一歩ずつ整備を進めていただければと思います。

Q. DV被害者の社員から相談を受けた場合、人事担当者は何を最優先すべきですか?

まず「話してくれてありがとう」という受容の姿勢を示すことが最優先です。被害者は大きな勇気を出して開示しているため、否定・疑問・解決策の押しつけは禁物です。その上で、本人の意思を確認しながら、外部相談窓口(EAP・配偶者暴力相談支援センターなど)の情報を提供し、就労上の配慮措置について話し合うステップに進みます。担当者一人で抱え込まず、産業医やEAPカウンセラーと連携することが、被害者にとっても担当者にとっても最善の対応につながります。

Q. 加害者が職場に電話や訪問をしてきた場合、どのように対応すればよいですか?

電話での問い合わせには「個人情報保護方針に基づき、従業員の在籍・勤務状況についてはお答えできません」と全員が統一して応答するよう、事前にルールを徹底してください。職場への直接訪問の場合は、入室を許可せず、毅然とした態度で退去を求めた上で、状況に応じて警察に通報することが原則です。加害者が保護命令に違反している場合はストーカー規制法・DV防止法の対象となるため、警察への相談を積極的に行うことをお勧めします。

Q. 小規模な会社でもEAPを導入できますか?コストはどのくらいかかりますか?

EAPは大企業向けというイメージを持たれることがありますが、近年は中小企業向けの低コストプランや、従業員数に応じた月額制サービスも増えています。従業員1人あたり月数百円程度から導入できるサービスも存在します。また、商工会議所の福利厚生支援や業界団体の共済を通じて利用できる場合もあります。まずは複数のEAP提供機関に見積もりや相談をしてみることが、自社に合ったプランを見つける第一歩です。

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