なぜ今、両立支援の整備が急務なのか
少子高齢化が進む日本では、育児や介護を抱えながら働く社員は今や珍しい存在ではありません。厚生労働省の調査によれば、育児休業取得率は女性で8割超、男性でも年々上昇傾向にあり、介護を理由とした離職者は年間約9万人前後とされています(数値は調査年度により変動します)。こうした現実に向き合うことは、中小企業にとって「大企業の話」ではなく、今すぐ取り組むべき経営課題です。
しかし、多くの中小企業では「育休を取らせたいが代わりの人員が確保できない」「法律が頻繁に変わって何をすれば良いかわからない」「介護は突然やってくるので対応できる自信がない」といった悩みを抱えています。制度を整えることへの不安や負担感から、対応が後手に回ってしまうケースも少なくありません。
本記事では、育児・介護と仕事の両立支援について、最新の法改正内容から実務的な対応手順、活用できる助成金まで、中小企業の経営者・人事担当者が押さえておくべきポイントをわかりやすく解説します。
なぜ今、両立支援の整備が急務なのか
育児・介護休業法は、2022年から2025年にかけて段階的に大幅な改正が行われています。法改正の内容を把握せずに運用を続けることは、法令違反につながるリスクがあるだけでなく、優秀な人材の離職や採用競争での不利につながりかねません。
中小企業が両立支援に取り組む必要性は、大きく3つの観点から整理できます。
- 法令遵守の観点:義務化された制度への未対応は、行政指導や企業イメージの低下を招く可能性があります。
- 人材確保・定着の観点:両立支援が整っている企業は、求職者から選ばれやすく、既存社員の定着率も高まる傾向があります。
- 経営コスト削減の観点:離職による採用・育成コストは、休業中の代替要員にかかるコストより高くつくことが多く、早期の制度整備が結果的に経済的です。
特に中小企業は業務が属人化しやすく、一人が抜けるだけで現場が混乱しがちです。だからこそ、「誰かが休んでも回せる体制」を平時から整えておくことが、事業継続のリスク管理にもなります。
2025年までの法改正で何が変わったか
育児・介護休業法の改正内容は多岐にわたりますが、中小企業が特に注目すべき変更点を以下に整理します。
育児関連の主な改正内容
2022年10月に創設された産後パパ育休(出生時育児休業)は、子の出生後8週間以内に最大4週間取得できる制度で、男性の育児参加を強く後押しするものです。通常の育児休業とは別に取得でき、2回に分割して取ることも可能です。ただし、この制度は就業規則・育児介護休業規程に明記されていないと、社員が取得しようとした際にトラブルになるケースがあります。規程の整備が先決です。
また、育休取得意向確認義務は全企業が対象です。社員本人や配偶者の妊娠・出産の申し出があった際に、会社側が育休取得の意向を確認することが義務づけられています。「言い出しにくい雰囲気」を会社側から取り除くための制度であり、上司が個別に声がけをするだけでなく、書面やメールでの確認フローを整備しておくことが望まれます。
2025年4月施行の改正では、以下の点が注目されます(中小企業への適用時期は要件によって異なる場合があります。最新情報は厚生労働省または社会保険労務士にご確認ください)。
- 子の看護休暇の拡充:取得できる子の対象年齢が「小学校就学前」から「小学校3年生修了まで」に拡大されます。また、取得事由も感染症に伴う学級閉鎖への対応などが加わります。
- 柔軟な働き方の選択肢提供の義務化:3歳から小学校就学前の子を持つ社員に対して、テレワーク等を含む柔軟な働き方の措置を複数提示し、そのうち一つを選択できるようにすることが義務となります。中小企業でも対応が求められるため、テレワーク環境の整備や制度化を早めに検討しておく必要があります。
介護関連の改正内容
介護休業は、対象家族1人につき通算93日、3回まで分割して取得できます。また、介護休暇(年5日、対象家族が2人以上の場合は10日)は時間単位での取得も可能です。2025年4月施行予定の改正では、介護に直面した社員への個別の情報提供・意向確認義務が新設されます。社員が介護を抱えていることを申し出た際に、利用できる制度を個別に周知することが義務となるため、社内の情報提供フローを今のうちに整えておくことが重要です。
給付金と助成金を最大限に活用する
育児・介護休業中の社員に対しては、雇用保険から給付金が支給されます。会社が負担するコストについての誤解も多いため、仕組みを正しく理解しておきましょう。
育児休業給付金・介護休業給付金の概要
育児休業給付金は、休業開始から180日間は賃金の67%相当、それ以降は50%相当が雇用保険から支給されます。産後パパ育休(出生時育児休業)中も67%が支給されます。介護休業給付金も賃金の67%が給付されます。これらは会社が直接支払うものではなく、ハローワークを通じて支給される仕組みです(申請手続きは原則として事業主が代行します)。
受給するには、社員が雇用保険の被保険者であること、また休業開始前の2年間に賃金支払基礎日数が11日以上ある月(または就業時間が80時間以上の月)が12ヵ月以上あることが要件となります。パートタイム社員や短時間労働者でも条件を満たせば対象となるため、給与計算担当者と連携して確認しておく必要があります。
活用できる主な助成金
会社側が活用できる助成金として、厚生労働省が実施する両立支援等助成金があります。主なコースを以下に紹介します。なお、助成金の支給額・要件・申請期限は変更される場合があるため、最新情報は厚生労働省のウェブサイトまたは社会保険労務士にご確認ください。
- 育児休業等支援コース:育休取得・職場復帰への取り組みに対して助成が受けられます。育休復帰支援プランの作成が要件の一つとなっています。
- 育児休業中等業務代替支援コース(2024年新設):育休中の業務を代替するために手当を支給したり、代替要員を新規雇用したりする会社への助成です。中小企業にとって特に実務的な助成金といえます。
- 介護離職防止支援コース:介護休業の取得や職場復帰支援に取り組んだ会社に対して支給されます。
これらの助成金は申請手続きが一定程度複雑なため、社会保険労務士(以下、社労士)に相談することを強くおすすめします。多くの社労士は初回相談を無料で受け付けており、地域の社労士会や商工会議所を通じてアクセスすることも可能です。
申し出を受けてから復職までの実務フロー
育休・介護休業の申し出を受けた際に、現場が混乱しないよう対応フローをあらかじめ整備しておくことが重要です。
申し出を受けた際の対応
妊娠・出産・介護の申し出があった時点で、まず担当者が書面または電子メールで取得意向を確認し、その結果を記録として残すことが基本です。口頭だけで済ませると、後から「言った・言わない」のトラブルになるリスクがあります。
申し出を受けた際に上司や同僚が感情的な反応を示したり、取得を思いとどまらせるような発言をすることはマタハラ・パタハラ(ハラスメント)に該当する場合があります。管理職への事前研修や、ハラスメント防止規程の整備が予防策として有効です。
休業中の業務管理
休業に入る前に、以下の点を整理しておくことで現場の混乱を最小限に抑えられます。
- 業務マニュアルや引き継ぎ資料の作成(休業開始の1〜2ヵ月前から着手)
- 代替要員の確保方法(派遣社員の活用、社内での業務再分配など)
- 休業中の連絡頻度・方法について本人と事前に合意する(過度な業務連絡はハラスメントに当たる場合があります)
復職支援のポイント
復職後に離職が起きやすい背景には、「職場に居場所がない」「評価への不安」「業務負荷の急激な増加」などがあります。これを防ぐために、復職の1〜2ヵ月前から面談を設け、業務内容・勤務時間・部署配置を丁寧に調整することが重要です。
短時間勤務制度(3歳未満の子を養育する場合は1日6時間勤務を選択できるよう措置することが義務)を利用する社員については、勤務時間に応じた評価基準を設けることが望ましいです。フルタイム社員と同一の評価基準を機械的に適用することは、本人のモチベーション低下につながりかねません。評価制度の見直しが難しい場合は、まず「短時間勤務中の評価はどう扱うか」を就業規則や内部ルールに明記するだけでも前進です。なお、評価制度の具体的な設計については、社労士や弁護士等の専門家にご相談ください。
介護対応に特有の難しさと企業ができること
育児と異なり、介護はいつ始まるか予測がつかず、長期化・重度化するリスクもあります。また、「親の介護をしている」ということを職場で話しにくいと感じる社員も多く、問題が表面化する前に離職してしまうケースが少なくありません。
企業が取り組むべきことは、まず社員が介護状況を自己開示しやすい職場環境をつくることです。具体的には、相談窓口の設置、管理職向けの介護支援制度研修、社内報や掲示板を通じた制度周知などが効果的です。
また、介護が始まった社員に対しては、地域の介護保険サービスや地域包括支援センターの情報を提供することも企業の重要な役割です。「会社でできる支援には限りがある」ということを認識しつつ、外部リソースへの橋渡しを丁寧に行うことが、介護離職防止につながります。介護サービスの選定・手続きについては、地域包括支援センターや専門の介護相談員にご相談ください。
実践ポイント:今すぐ取り組める5つのアクション
制度整備を一度に完璧に行おうとすると、どこから手をつければよいかわからなくなりがちです。まずは以下の5つを優先順位の高い取り組みとして検討してください。
- 育児介護休業規程の最新化:産後パパ育休など2022年以降の改正内容が規程に反映されているか確認し、未対応であれば早急に更新します。社労士に依頼すると確実です。
- 育休取得意向確認フローの整備:妊娠・出産・介護の申し出があった場合に、誰が・いつ・どのように意向確認をするかを書面化しておきます。
- 管理職向けの研修実施:ハラスメント防止と両立支援制度の内容について、管理職への定期研修を実施します。外部講師を呼ばなくても、市販のeラーニング教材で対応可能です。
- 業務マニュアルの整備:育休・介護休業に限らず、誰かが急に不在になっても業務が回るよう、主要業務のマニュアル化を進めます。これは事業継続計画(BCP)の観点からも有益です。
- 助成金の申請を検討する:両立支援等助成金の各コースを確認し、要件を満たす可能性があれば社労士に相談します。申請期限や手続き上の注意点は専門家のサポートを受けることをおすすめします。
まとめ
育児・介護と仕事の両立支援は、法令遵守の問題であると同時に、人材確保・定着・組織の持続可能性に直結する経営課題です。2025年にかけて施行される法改正への対応は待ったなしですが、一方で会社の取り組みを評価し、長く働き続けてくれる社員を増やすチャンスでもあります。
まず着手すべきは、規程の整備と申し出対応フローの明確化です。その上で、助成金の活用や管理職への教育など、段階的に体制を整えていくことが現実的なアプローチといえます。
「うちの会社は小さいから」という理由で後回しにするのではなく、「小さいからこそ一人ひとりの働きやすさが会社全体に影響する」という視点で、両立支援策を前向きに検討してみてください。社員が安心して働ける環境をつくることは、最終的には会社の競争力を高めることにつながります。
※本記事は情報提供を目的としており、個別の法的・労務的アドバイスを提供するものではありません。自社の規程整備や助成金申請、評価制度の設計などについては、社会保険労務士・弁護士等の専門家にご相談ください。また、法令の内容は改正により変更される場合がありますので、最新情報は厚生労働省のウェブサイト等でご確認ください。
よくある質問
Q1: 育児休業給付金は会社が負担する必要があるのですか?
いいえ、育児休業給付金と介護休業給付金は雇用保険から支給されるため、会社が直接負担する必要はありません。ただし、給付金の申請手続きは会社が対応する必要があります。
Q2: 中小企業でも産後パパ育休やテレワークの措置を必ず実施しなければなりませんか?
はい、産後パパ育休の取得意向確認義務と2025年4月以降の柔軟な働き方の措置提供義務は全企業が対象です。ただし実装時期や具体的な要件については企業規模によって異なる場合があるため、最新情報を厚生労働省や社会保険労務士に確認することをお勧めします。
Q3: 介護休業はどのくらい長く取得できますか?
介護休業は対象家族1人につき通算93日まで、3回まで分割して取得できます。また、年5日の介護休暇(対象家族が2人以上の場合は10日)は時間単位での取得も可能です。
労務管理の課題を抱える企業様には、INTERMINDの産業医サービスをご検討ください。産業医と連携した従業員の健康管理体制を構築できます。









