「受けてもらえない…」を解消!中小企業が保健指導の実施率を劇的に上げた7つの工夫

「健康診断は毎年実施しているのに、保健指導になると受けてもらえない」——そんな声を、中小企業の人事担当者からよく耳にします。特定保健指導の全国平均実施率は近年でも目標値を下回る水準が続いており、とりわけ人員・予算・時間の制約が大きい中小企業では、対象者への働きかけから記録管理まで、担当者一人が抱えきれない業務量になりがちです。

しかし、保健指導の実施率を放置しておくことは、単なる”やり残し”では済みません。従業員の生活習慣病リスクが蓄積されれば医療費負担や欠勤・休職の増加につながり、経営への影響は中長期にわたります。また、特定保健指導の実施率が目標を下回った場合、保険者には後期高齢者医療制度への支援金が最大10%加算されるペナルティが課されるなど、制度上の不利益も生じます。

本記事では、保健指導の実施率が上がらない根本的な理由を整理したうえで、中小企業でも取り組める具体的な改善策を解説します。体制構築から従業員への働きかけ、効果の見せ方まで、実務に直結する内容をお届けします。

目次

なぜ保健指導の実施率は上がらないのか——根本原因を整理する

実施率向上の打ち手を考える前に、まず「なぜ受けてもらえないのか」という原因を正確に把握することが重要です。原因は大きく、従業員側の要因会社・体制側の要因に分けられます。

従業員側の要因

  • 「自分には必要ない」という過小評価:健診結果に異常値が出ていても自覚症状がなければ、緊急性を感じにくいのが人間の自然な心理です。
  • 「面倒・時間がない」という心理的ハードル:複数回の面談が必要な積極的支援(3ヶ月以上の継続支援)は、特に忙しい現場職や外勤者には大きな負担感を与えます。
  • プライバシーへの不安:健康情報を会社に知られることへの抵抗感も、受診拒否の一因です。

会社・体制側の要因

  • 案内のタイミングが遅い:健診結果が出てから対象者への案内まで3ヶ月以上空いてしまうケースが少なくありません。時間が経つほど対象者の動機は低下します。
  • 専門職が社内にいない:保健師や管理栄養士を常駐させることが難しい中小企業では、そもそも実施体制の構築が課題になります。
  • 業務として組み込まれていない:「なんとなく案内を送っているだけ」という状態では、フォローアップが機能せず完了率が低くなります。

これらの要因が複合的に絡み合っているため、「案内文を少し工夫する」程度の対応では根本的な改善にはつながりません。仕組み全体を見直す視点が必要です。

制度の基本を押さえる——特定保健指導と労安法の保健指導

「保健指導」という言葉には、法律上異なる2つの枠組みがあります。混同すると責任の所在が曖昧になるため、整理しておきましょう。

特定保健指導(高齢者医療確保法)

対象は40〜74歳の医療保険加入者です。特定健康診査(いわゆるメタボ健診)の結果に基づき、腹囲・BMI・血糖・血圧・脂質などのリスクに応じて「動機付け支援」か「積極的支援」に振り分けられます。実施義務者は医療保険者(協会けんぽや健康保険組合)ですが、職場という接点を持つ事業者が協力・連携することで実施率は大きく変わります。第4期(2024〜2029年度)の目標実施率は60%以上とされており、現状との乖離を埋めることが保険者・事業者共通の課題です。

労働安全衛生法に基づく保健指導(第66条の7)

こちらは事業者の努力義務として定められた保健指導です。一般健康診断の結果、異常所見があった従業員に対し、医師または保健師が保健指導を行うよう努めなければならないとされています。「努力義務だから任意でよい」と放置するのは誤りで、労働者の健康確保という観点から積極的に取り組む姿勢が求められます。

つまり、特定保健指導は保険者主体、健診後の保健指導は事業者主体という整理ができます。両方に関与できる立場にあるのが人事・産業保健担当者です。外部の産業医サービスを活用することで、嘱託産業医との連携を補完しながら保健指導の実施体制を強化することも有効な選択肢です。

実施率を高める5つの実践的アプローチ

①「1ヶ月以内」の案内と多チャネルでの声がけ

健診結果が出たら、できるだけ1ヶ月以内に対象者を特定し案内を送ることが鉄則です。時間が経つほど「なんとなく先送り」が定着してしまいます。案内の内容も「受けてください」という通知文にとどまらず、「無料で受けられる」「30分程度で完了する」「オンラインでも可能」といった受けやすさのメリットを具体的に示しましょう。

また、紙の案内状だけでなく、社内チャット・メール・上司からの直接声がけを組み合わせることが効果的です。特に所属長を通じた「会社として取り組んでいること」の伝達は、従業員の受診意欲を高めるうえで大きな役割を果たします。対象者リストを部署別に整理し、上司・管理職に協力を依頼する体制を作ることがポイントです。

②受けやすい環境をゼロから設計する

実施率が低い企業の多くは、「案内はしているが、受ける環境が整っていない」状態にあります。以下の点を一つひとつ確認してください。

  • 就業時間内に実施できるか:時間外や休日に設定すると受診率は著しく低下します。勤務時間中に組み込む仕組みを整えることが前提です。
  • オンライン・電話面談を選択肢に加えているか:「オンラインは効果が薄い」という誤解がありますが、複数の研究・実践報告において、オンライン保健指導は対面と同等の効果が示されています。外勤者・シフト勤務者にとってはむしろ有効な手段です。
  • 健診当日の同時実施を検討しているか:動機付け支援は健診当日に同時に行う方式も認められています。別日に予約を取り直す手間がなくなるため、完了率が上がりやすくなります。
  • 複数の日程候補を提示しているか:「この日しかない」では都合が合わない従業員が漏れます。2〜3週間以内に複数の選択肢を用意することで、対象者の自発的な選択を促せます。

③継続フォローを「仕組み」として組み込む

動機付け支援は1回の支援で完結しますが、積極的支援では3ヶ月以上の継続的な関与が必要です。途中脱落を防ぐには、「言われたからやる」ではなく、本人が自分事として取り組める仕組みづくりが欠かせません。

具体的には、最初の面談時に3〜6ヶ月の支援スケジュールを本人と確認し、行動目標も本人自身が設定できるよう促します。支援者が一方的に目標を課すのではなく、「自分で決めた目標」という感覚(自己効力感)を持ってもらうことが継続率を高めます。また、中間点でのリマインド連絡、体重・腹囲の変化をグラフで示すフィードバックなど、小さな変化を「見える化」する工夫も脱落防止に有効です。

④外部リソースを積極的に活用する

「社内に保健師がいないから保健指導ができない」という状況は、中小企業では珍しくありません。しかし、外部の専門機関との連携によって、この課題は解消できます。

  • 協会けんぽの費用補助制度を活用する:協会けんぽに加入している場合、特定保健指導の費用補助制度が設けられています。活用することでコスト負担を軽減できます。
  • 健診機関・外部保健指導機関との連携:健診を委託している機関が保健指導も提供しているケースは多く、情報連携が円滑になる利点があります。事前に委託契約の内容を確認し、保健指導まで一体的に委託できるか検討しましょう。
  • EAPサービスとの組み合わせ:生活習慣の改善には行動変容が伴い、ストレスや心理的要因が絡むことも少なくありません。メンタルカウンセリング(EAP)との連携によって、従業員の健康課題をより包括的に支援できる場合があります。

⑤経営層を動かすデータの作り方

保健指導への投資を継続するためには、経営層への説明責任が伴います。「健康のためだから大切」という定性的な訴えだけでは、コスト削減を優先したい場面で予算が削られてしまいます。

実施率・完了率の推移に加え、翌年の健診結果と比較した腹囲・血圧・血糖値の改善率を定量的に示すことが説得力を高めます。さらに、医療費の削減額や欠勤・休職日数との相関を可能な範囲で試算し、投資対効果(ROI)として経営層に報告するフォーマットを用意しておくことで、翌年度予算の確保につながりやすくなります。部署別・年齢別の集計は、対策の優先順位を絞るうえでも有効です。

よくある誤解と失敗を防ぐポイント

最後に、実務でよく見られる誤解と失敗例を確認しておきましょう。

  • 誤解①「健診を実施すれば義務は果たしている」:健診の実施はあくまでスタート地点です。健診後に保健指導を実施して初めて、健康管理のPDCAサイクルが機能します。労働安全衛生法第66条の7が定める保健指導の努力義務は、健診後の対応を含む概念です。
  • 誤解②「特定保健指導は健保の仕事であり、事業者は関係ない」:実施義務は保険者にありますが、職場という接点を持つ事業者が協力しなければ実施率は上がりません。健保と事業者が連携して取り組む姿勢が求められます。
  • 誤解③「本人が嫌がっているなら強制できないから仕方ない」:強制は不適切ですが、受けやすい環境を整え、繰り返し働きかけることは人事の役割です。「拒否されたから終わり」ではなく、受診を促すための改善を続けることが重要です。
  • 失敗例:健診後3ヶ月以上経ってから案内を送る:時間が空くほど対象者の意識・動機は薄れます。健診結果の回収から案内送付までのリードタイムを短縮する業務フローを作ることが先決です。
  • 失敗例:人事担当者だけが案内を送り、職場の上司が関与しない:上司や管理職を「健康のキーマン」として巻き込む体制がないと、従業員への浸透は限られます。管理職向けの健康管理研修を実施し、職場単位での取り組みとして位置づけることが効果的です。

実践ポイントまとめ

  • 健診結果が出たら1ヶ月以内を目安に対象者を特定し、複数チャネルで案内する
  • 就業時間内・オンライン対応・複数日程など受けやすい環境を先に設計する
  • 積極的支援では最初から支援計画を提示し、本人が目標を設定できる仕組みを作る
  • 専門職が社内にいない場合は健診機関・協会けんぽ・外部専門機関との連携で補完する
  • 実施率・改善率・ROIを定量データとして経営層に定期報告するフローを整備する
  • 管理職を巻き込み、職場単位での健康づくりとして位置づける

保健指導の実施率を高めることは、従業員一人ひとりの健康リスクを減らすと同時に、医療費・欠勤・生産性損失という経営課題への対応でもあります。「できることから一つずつ」という姿勢で、今年度の健診後の対応から見直してみてください。体制構築に課題を感じている場合は、外部の専門サービスを組み合わせることで、コストを抑えながら実効性の高い仕組みを作ることが可能です。

よくあるご質問

特定保健指導の実施率が低いと、会社にどんなペナルティがありますか?

特定保健指導の実施義務は医療保険者(協会けんぽや健康保険組合)にあります。実施率が目標値を下回った場合、後期高齢者医療制度への支援金が最大10%加算されるペナルティが保険者に課されます。事業者への直接のペナルティではありませんが、保険料負担の増加という形で間接的に影響が及ぶ可能性があります。また、労働安全衛生法上の保健指導努力義務を怠ると、行政指導の対象となる場合もあるため、事業者としても積極的な対応が求められます。

社内に保健師がいない中小企業でも保健指導を実施できますか?

実施できます。協会けんぽが提供する特定保健指導の委託サービスや、健診機関が一体的に提供する保健指導プログラムを活用することで、社内に専門職がいなくても対応が可能です。また、外部の産業保健サービスや保健指導専門機関に委託する方法もあります。費用面では協会けんぽの補助制度を活用することでコスト負担を軽減できます。まずは現在契約している健診機関や協会けんぽに相談してみることをお勧めします。

オンライン保健指導は対面と比べて効果が劣りますか?

「オンラインは効果が薄い」という印象を持つ方もいますが、複数の研究や実践報告において、オンライン保健指導は対面と同等の効果が確認されています。特に外勤者・シフト勤務者・遠隔地の従業員にとっては、時間・場所の制約が減ることで受診しやすくなるメリットがあります。重要なのは実施形式よりも、支援の質・継続性・本人の行動変容へのサポートです。対面・オンライン・電話を組み合わせた柔軟な提供体制を整えることが、実施率向上につながります。

健康診断の事後措置や保健指導の体制整備には、INTERMINDの産業医サービスが役立ちます。専属の産業保健スタッフが継続的にサポートします。

監修・運営:INTERMIND株式会社

産業医紹介・EAPサービス(外部メンタルカウンセリング)を提供する産業保健の専門会社。精神科専門医・心理士・保健師からなるスペシャリストチームが、中小企業の職場メンタルヘルス課題を支援しています。

公式サイト産業医紹介サービスメンタルカウンセリング(EAP)

産業医・メンタルヘルスのご相談はお気軽に

まずは資料請求・無料相談から。専任担当がサポートします。

目次