「ストレスチェックで”高ストレス者”が出たら何をすべきか?中小企業の面談・対応プロセスを徹底解説」

従業員のメンタルヘルス対応に頭を悩ませている経営者・人事担当者は少なくありません。「最近元気がないあの社員、どう声をかければいいか」「ストレスチェックで高ストレス判定が出たが、次に何をすればいいかわからない」――そんな声は中小企業の現場で日常的に聞かれます。

メンタルヘルス上のハイリスク者への対応は、放置すれば従業員の健康被害につながるだけでなく、企業の安全配慮義務違反として法的責任を問われる可能性もあります。一方で「どこまで踏み込んでいいか」「プライバシーに配慮しながらどう情報を共有するか」といった判断の難しさも伴います。

本記事では、ハイリスク者の識別から面談の設計・実施、情報管理、専門家へのつなぎ方まで、中小企業でも実践できる具体的なプロセスを順を追って解説します。

目次

「ハイリスク者」とは誰か――識別の基本的な考え方

まず「ハイリスク者」という言葉の定義を整理しておきましょう。法律上に明確な定義があるわけではありませんが、実務上はメンタルヘルス上の問題が生じるリスクが高い状態にある従業員を指すことが一般的です。

重要なのは、一つの情報源だけで判断しないことです。複数の観点から情報を組み合わせることで、見落としを減らすことができます。

スクリーニングに活用できる情報源

  • ストレスチェック結果労働安全衛生法第66条の10に基づき、50人以上の事業場では年1回の実施が義務付けられています。高ストレス者として判定された従業員は優先的な対応対象となります。
  • 長時間労働データ:時間外労働が月80時間を超えている場合、同法第66条の8により本人申出があれば医師による面接指導が義務となります。勤怠記録を定期的に確認する習慣を持ちましょう。
  • 欠勤・遅刻・早退のパターン変化:突然増えた休みや遅刻は、心身の不調のサインである可能性があります。
  • 上司・同僚からの気づき(ラインケア):日常的に一緒に働く管理職や同僚は、変化に最初に気づける立場にあります。「何か気になる」という感覚を報告できる仕組みを整えておくことが大切です。
  • 健康診断結果体重の急激な変化や睡眠に関する問診項目なども、メンタルヘルス不調の手がかりになります。

現場で確認できる早期サインの例

  • 表情が暗くなった、口数が減った
  • ミスや確認漏れが増えた
  • 身だしなみが以前と変わった
  • 会話の内容に「消えたい」「疲れ果てた」といった言葉が増えた
  • 急に活発になりすぎる(躁状態のサインの場合もあります)

これらのサインが複数重なっている場合や、変化が急激な場合は特に注意が必要です。管理職向けの研修でこうした具体例を共有しておくと、現場の「気づき力」が向上します。

面談の種類と役割分担――誰が何をするか

ハイリスク者への面談は、目的に応じて種類が異なります。それぞれの役割を混同しないことが、対応の質を保つうえで重要です。

産業医による面接指導

労働安全衛生法に基づく制度的な面接指導です。就業上の措置(業務の軽減・異動・休職など)を判断するための医学的根拠を得ることが主な目的です。ストレスチェックで高ストレス判定を受けた従業員が申し出た場合、または長時間労働者(月80時間超・本人申出あり)に対して、事業者は産業医による面接指導を実施する義務があります。

なお、50人未満の事業場では産業医の選任義務はありませんが、労働安全衛生法第66条の9により、必要な措置を講じる努力義務があります。地域産業保健センター(地産保)や外部の産業医サービスを活用することで、こうした体制を整えることが可能です。

保健師・看護師・人事担当者による面談

医療的な判断を行うのではなく、従業員の話をしっかり聴き、状況を把握することが目的です。本人が話しやすい関係性を築く「入口」の役割を担います。上司ではなく人事担当者や産業保健スタッフが最初の接触窓口になることで、本人の心理的ハードルが下がる場合が多いとされています。

管理職による面談(ラインケア面談)

日常的な業務管理の中で行う面談です。業務の負担状況の確認や、本人の意向を把握することが中心です。ただし管理職が「治療する」「診断する」立場になるのは適切ではなく、あくまで「気になることを人事・産業保健部門につなぐ」役割に徹することが大切です。

面談の設定と進め方――「聴く」ことを中心に置く

面談を設定する際のアプローチ

ハイリスク者に面談を申し込む際、「問題がある」「受診してほしい」という姿勢で臨むと、本人が防衛的になりやすくなります。「少し話を聞かせてほしい」「最近の状況を確認させてほしい」という姿勢で、会社が本人を心配していることを伝えることが重要です。

  • プライバシーが守られる個室・時間帯を選ぶ
  • 「任意の面談である」と伝える(強制と受け取られないよう配慮する)
  • 複数人で囲んで話すのは避け、できれば1対1か、同性のスタッフを同席させる

面談中の基本原則

面談の場では、まず「聴く」ことに徹することが原則です。

  • 否定・説得・アドバイスを急がない:「気にしすぎでは?」「頑張れば大丈夫」といった言葉は本人を追い詰める場合があります。
  • 詰問調の質問を避ける:「なぜそんな状態になったのか」という問い方ではなく、「最近どんなことが大変でしたか」のようにオープンな問いかけをします。
  • 具体的な症状を確認する:睡眠は取れているか、食欲はあるか、楽しめていることがあるか――こうした具体的な質問は状況把握に役立ちます。
  • 自傷・自殺念慮の有無を直接確認する:研究や専門機関の知見によれば、「死にたいという気持ちはありますか?」と直接尋ねることで自殺を誘発するわけではないとされています。危機的なサインが見られる場合は、勇気を持って確認することが必要です。

面談後には必ず次のアクション(フォローアップ面談の日程・医療機関への受診の提案など)を具体的に決めてから終えるようにしましょう。「また話しましょう」という曖昧な終わり方では、フォローが途切れがちになります。

情報管理と法的リスク――プライバシーと安全配慮義務のバランス

ハイリスク者対応においてもう一つ重要なのが、情報の取り扱いです。健康情報は個人情報保護法上の要配慮個人情報(センシティブ情報)に該当し、通常の個人情報よりも厳格な管理が求められます。

情報共有の原則

  • 健康情報の取得・利用・第三者提供には、原則として本人の同意が必要です。
  • 経営者や管理職に情報を伝える場合も、「業務上必要な範囲」にとどめることが求められます。「〇〇さんはうつ病です」と病名をそのまま伝えることは不適切であり、「業務の調整が必要な状態にある」といった形で伝えることが望ましいとされています。
  • 厚生労働省のガイドラインでは、「事業者における労働者の健康情報等の取扱規程」の策定が推奨されています。情報へのアクセス権限・管理責任者・保存期間などを文書化しておきましょう。

記録を必ず残す

面談を実施した場合は、日時・参加者・話した内容の概要・次のアクションを必ず記録として残してください。後から「対応した」「していない」という争いになった場合に、記録が企業側の対応を示す証拠となります。

一方で、安全配慮義務(労働契約法第5条)の観点からは、問題を把握しながら何も対応しなかった場合、使用者として損害賠償責任を問われるリスクがあります。プライバシーへの配慮と安全配慮義務の履行は、相反するものではなく、両立できるプロセスを設計することが重要です。

専門家へのつなぎ方と社内体制の整備

中小企業では産業医や産業保健スタッフが常駐していないケースが多く、「誰に相談すればいいかわからない」という声をよく耳にします。しかし、外部の専門家・支援機関を活用することで、社内だけで抱え込まずに対応できる体制を整えることが可能です。

利用できる外部リソース

  • 地域産業保健センター(地産保):50人未満の事業場を対象に、産業医・保健師等による無料の相談支援を提供しています。各都道府県の産業保健総合支援センター(さんぽセンター)に問い合わせることで利用できます。
  • 外部産業医サービス:非常勤で産業医を利用できるサービスです。産業医サービスを活用することで、定期的な面接指導や職場巡視の体制を整えることができます。
  • EAP(従業員支援プログラム):外部のカウンセリング機関が従業員の相談を直接受け付けるサービスです。従業員が「会社に知られたくない」と感じている場合でも利用しやすく、早期介入の入口として効果的です。メンタルカウンセリング(EAP)の導入を検討してみてください。
  • 主治医との連携:すでに医療機関にかかっている従業員の場合、就業上の配慮について主治医から「診断書」や「意見書」を得ることで、会社側の判断根拠を得ることができます。

社内の対応フローを文書化する

「気になる従業員が出たとき、誰が・何をするか」を事前に社内のルールとして文書化しておくことが、対応のスピードと一貫性を高めます。「ラインケアから人事に報告→人事が初回面談→必要に応じて産業医面接指導→就業上の措置判断」といったフローを関係者で共有しておきましょう。

実践ポイントまとめ

  • 複数の情報源を組み合わせてハイリスク者を早期に把握する。ストレスチェックだけに頼らない。
  • 面談の目的と担当者を明確にする。人事・産業保健スタッフ・産業医それぞれの役割を混同しない。
  • 面談は「聴く」ことを中心に置き、否定や説得を急がない。
  • 自傷・自殺念慮の確認を避けない。危機サインがある場合は直接確認することが必要。
  • 健康情報の取り扱いルールを文書化し、必要な範囲でのみ共有する。
  • 面談記録を必ず残し、次のアクションを明確にして面談を終える。
  • 地産保・外部産業医・EAPなど外部資源を積極的に活用し、人事担当者が一人で抱え込まない体制をつくる。

ハイリスク者への対応は、従業員の健康を守るためだけでなく、企業としての安全配慮義務を果たすという法的・経営的観点からも不可欠なプロセスです。「何かあってから動く」ではなく、仕組みを整えておくことが、中小企業においても求められています。一つひとつのステップを確認しながら、自社の体制を少しずつ整えていくことから始めてみてください。

よくある質問(FAQ)

ストレスチェックで高ストレス判定が出た従業員が面談を拒否した場合、どうすればよいですか?

産業医による面接指導は、従業員本人からの申出があって初めて実施義務が生じます(労働安全衛生法第66条の10)。本人が申出をしない・面談を望まない場合に強制することはできません。ただし、会社として「面談の機会があること」「会社が心配していること」を伝え続けること、そして人事担当者や信頼できる管理職が日常的に声をかけ続けることが重要です。拒否された場合でも記録に残し、状況を継続的に観察するようにしてください。

産業医がいない中小企業でも、ハイリスク者への対応は法律上義務がありますか?

50人未満の事業場では産業医の選任義務はありませんが、労働契約法第5条の安全配慮義務はすべての事業場に適用されます。また、労働安全衛生法第66条の9では、必要な措置を講じる努力義務も定められています。産業医不在の場合は、地域産業保健センター(地産保)の無料相談や外部産業医サービスを活用することで、義務・努力義務の両方に対応できる体制を整えることが可能です。

従業員のメンタルヘルス情報を上司に共有してもよいですか?

健康情報は個人情報保護法上の要配慮個人情報に該当し、本人の同意なく第三者に提供することは原則禁止されています。上司への情報共有が「業務上必要な措置のため」であっても、病名等をそのまま伝えることは適切ではありません。「業務量の調整が必要な状態にある」など、就業上の対応に必要な範囲の情報に限定し、本人の同意を得たうえで共有することが基本です。社内の情報取扱規程を整備しておくことで、こうした判断の基準を明確にできます。

監修・運営:INTERMIND株式会社

産業医紹介・EAPサービス(外部メンタルカウンセリング)を提供する産業保健の専門会社。精神科専門医・心理士・保健師からなるスペシャリストチームが、中小企業の職場メンタルヘルス課題を支援しています。

公式サイト産業医紹介サービスメンタルカウンセリング(EAP)

目次