「うつ病・双極性障害の社員が手帳を取得したら?」解雇はNG・企業が今すぐ取るべき合理的配慮の具体策

ある日突然、長年勤務している従業員から「精神障害者保健福祉手帳を取得しました」と申告を受けた場合、あなたの会社はどう対応しますか。「いったいどうすればよいのか」と戸惑う経営者・人事担当者は少なくありません。手帳取得イコール即退職・解雇というわけではなく、むしろ対応を誤ると法的リスクを負う可能性があります。一方で、正しく理解すれば障害者雇用率のカウントに活用できるなど、企業側にとってもメリットのある制度です。

本記事では、精神障害者保健福祉手帳と就労継続の関係性について、法律上の位置づけから実務対応まで、中小企業の経営者・人事担当者にわかりやすく解説します。

目次

精神障害者保健福祉手帳とは何か——基本的な仕組みを整理する

精神障害者保健福祉手帳は、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(精神保健福祉法)第45条を根拠とする公的手帳です。対象となるのは、統合失調症・うつ病・双極性障害・発達障害など精神疾患を有し、精神障害のために長期にわたって日常生活や社会生活に制約がある方です。

手帳には1級(重度)・2級(中度)・3級(軽度)の3段階の等級があります。ここで多くの企業担当者が誤解しやすいのが、「等級=業務遂行能力の高低」という先入観です。しかし実際には、等級はあくまでも日常生活・社会生活上の制約の程度を示す指標であり、特定の業務をこなす能力を直接表すものではありません。たとえば3級であっても一定の配慮があれば十分に活躍できるケースもあれば、2級であっても業務内容を調整すれば就労継続が可能なケースもあります。

申請には、精神疾患の診断から6カ月以上経過していることが要件で、窓口は市区町村です。有効期間は2年間(更新制)で、状態が改善すれば等級の変更や返納も可能です。つまり手帳は固定的なものではなく、本人の状態に合わせて変化する可能性があります。この点を踏まえると、企業側も定期的な状況確認が必要となります。

手帳取得を理由とした不利益取扱いは違法——法律上のリスクを正確に把握する

従業員から手帳取得の申告を受けた際、「業務に支障が出るのでは」「他の社員への影響は」と考え、退職勧奨や解雇を検討する経営者もいます。しかし、障害を理由とした解雇・降格・減給等の不利益取扱いは障害者雇用促進法第34条・第35条で明確に禁止されています。手帳取得を理由とした解雇は不当解雇となるリスクが非常に高く、労働紛争に発展した場合、企業が多大な損害を被る可能性があります。

就業規則に「心身の故障による解雇」条項がある場合でも、それは手帳の等級だけで判断するものではなく、実際の業務遂行能力や産業医の意見を踏まえた個別判断が必要です。手帳を持っているという事実のみをもって解雇するのは、法的に正当化できません。

また、2024年4月からは民間企業においても合理的配慮の提供が義務化されました(障害者雇用促進法第36条の2〜4)。合理的配慮とは、障害のある従業員が職場で働き続けられるよう、過重な負担にならない範囲で勤務上の調整を行うことです。具体的には以下のような対応が挙げられます。

  • 勤務時間の短縮やフレックスタイム制の導入
  • 休憩の頻度・場所・時間の調整
  • 通院時間の確保(遅刻・早退の柔軟な取り扱い)
  • 業務内容や担当範囲の調整
  • 座席や照明など職場環境の配慮
  • 指示の方法や連絡手段の工夫(口頭のみでなく書面を活用するなど)

「過重な負担」にあたるかどうかは企業の規模・財務状況なども考慮されますが、まずは本人と丁寧に話し合い、できる範囲の配慮を検討することが求められます。

障害者雇用率への活用——既存社員の手帳取得も報告対象になる

精神障害者保健福祉手帳を所持する従業員は、障害者雇用促進法に基づく障害者雇用率(法定雇用率)のカウント対象となります。2024年4月時点の法定雇用率は2.5%で、2026年7月には2.7%への引き上げが予定されています。対象企業規模は従業員40人以上(2026年7月からは37.5人以上)です。

カウントの方法は、週30時間以上の労働で1カウント、週20時間以上30時間未満の場合は0.5カウントとなります。

ここで多くの企業が見落としがちなのが、採用時から雇用している既存社員が途中で手帳を取得した場合も、報告対象に追加できるという点です。障害者雇用は「最初から障害者として採用した人だけ」と誤解されることがありますが、在職中に手帳を取得した従業員も対象になります。

ただし、雇用率への計上には本人の書面による同意が必須です。同意なく計上すると個人情報保護法・障害者雇用促進法違反となります。申告を受けた際は、まず本人に計上への同意を確認し、同意を得た場合のみ翌年の障害者雇用状況報告に反映させてください。

雇用率の管理や報告実務に不安がある場合は、産業医サービスを活用して専門家に相談することも有効な選択肢のひとつです。

申告を受けたときの対応フロー——実務的な手順を押さえる

従業員から手帳取得の申告を受けた際、場当たり的な対応は後のトラブルの原因となります。以下のステップを参考に、組織として一貫した対応をとることが重要です。

Step1:本人の意向を丁寧に確認する

まず、本人がどのような配慮を希望しているか、雇用率カウントへの同意はどうするか、職場内での情報開示をどの範囲まで認めるかを確認します。この段階では企業側が一方的に判断を押しつけず、本人の意思を尊重した対話が基本です。

Step2:産業医・保健師との面談を設定する

就労継続の可否や必要な配慮内容を医学的に判断するため、産業医または保健師との面談を設定します。産業医の役割は「職場で安全・健康に働けるかどうかを判断すること」であり、主治医の意見(医療上の観点)とは異なる視点で評価が行われます。この二者の連携が実務の要となります。

Step3:必要に応じて主治医の意見書を取得する

本人の同意のもと、主治医に就労継続に関する意見書や診断書の提出を依頼します。就業上の制限事項や配慮すべき点が記載されている場合、それを産業医の判断と合わせて検討します。

Step4:合理的配慮の内容を本人と協議・文書化する

口頭の約束ではなく、具体的な配慮内容を書面で残すことが重要です。「どのような配慮を、いつから、どの範囲で実施するか」を明記し、本人と会社双方が署名した文書として保管します。これは後のトラブル防止にもなります。

Step5:情報管理体制を整備する

手帳所持・精神疾患に関する情報は要配慮個人情報(個人情報保護法第2条第3項)に該当します。人事部門内でも「知る必要のある者のみ」にアクセスを限定し、同僚への開示は本人の明示的な同意がある場合のみとします。開示した場合は、開示範囲・内容・日時を記録として残してください。

Step6:定期的なフォローアップ面談を実施する

配慮の内容が適切かどうかは、一度決めたら終わりではありません。3〜6カ月ごとを目安に本人と面談し、状況の変化に合わせて柔軟に見直します。手帳の有効期限(2年)に合わせて等級が変更される可能性もあるため、定期的な見直しの仕組みを作ることが大切です。

休職中の従業員が手帳を取得した場合の復職判断

うつ病や双極性障害などで休職中の従業員が、休職期間中に精神障害者保健福祉手帳を取得するケースがあります。この場合、「手帳を取得した=重篤な状態が継続している」と判断して復職を過度に制限したり、逆に「手帳があれば配慮して働かせれば大丈夫」と安易に考えたりすることは、どちらも問題です。

復職の可否は、手帳の等級ではなく、現時点での業務遂行能力と配慮後の業務遂行可能性によって判断します。具体的には以下の点を確認します。

  • 主治医の復職可能との診断書があるか
  • 産業医が就業区分(通常勤務・就業制限・要休業)をどう判定しているか
  • 試し出勤(リハビリ出勤)の実施可否と結果
  • 本人が希望する業務内容・勤務時間と実際の業務との乖離
  • 職場環境や人間関係など再発リスクになる要因の有無

休職・復職の判断においては、主治医と産業医の連携が特に重要です。主治医は「患者の回復を支援する立場」で意見を述べるのに対し、産業医は「その職場の業務内容に照らして実際に働けるか」という実務的な観点から判断します。両者の意見が異なる場合には産業医の意見を優先した対応を行うことが一般的ですが、最終的な判断は企業が行います。

メンタルヘルス不調による休職・復職の支援体制を強化したい場合は、メンタルカウンセリング(EAP)の導入も効果的です。従業員が専門家に相談できる環境を整えることで、早期発見・早期対応が可能になります。

実践ポイント——中小企業が今すぐできる対応整備

大企業と比べて人事専門スタッフが少ない中小企業でも、以下のポイントを整備することで適切な対応が可能になります。

  • 社内ルール(ガイドライン)の整備:手帳取得の申告があった際の対応手順を文書化し、担当者が変わっても一貫した対応ができるようにする
  • 産業医との連携体制の確立:従業員50人未満でも産業医の活用が可能であり、外部の産業医サービスを利用することで専門的なサポートを受けられる
  • 合理的配慮のリスト化:自社で実施可能な配慮の内容をあらかじめリスト化しておくことで、申告を受けた際に迅速に協議ができる
  • 個人情報管理の見直し:要配慮個人情報の取り扱いについて、アクセス権限・保管方法・廃棄ルールを明確にする
  • 管理職への教育:現場の管理職が適切な対応をとれるよう、基礎知識の研修機会を設ける
  • 定期的な法改正情報のキャッチアップ:障害者雇用促進法や個人情報保護法は改正が続いており、最新の情報を確認する習慣をつける

まとめ

精神障害者保健福祉手帳の取得は、従業員にとっても企業にとっても、適切な就労継続に向けた重要なステップとなり得ます。手帳を取得したからといって即座に業務が困難になるわけではなく、等級はあくまでも生活上の制約の程度を示すものです。大切なのは、現状の業務遂行能力と合理的配慮後の可能性を丁寧に評価することです。

法律上は、手帳取得を理由とした不利益取扱いは禁止されており、2024年4月からは合理的配慮の提供が民間企業にも義務化されました。一方で、障害者雇用率への計上という形で企業にとってもメリットのある制度でもあります。

申告を受けた際は、本人の意向確認・産業医との連携・配慮内容の文書化・情報管理の徹底という手順を踏み、一貫した対応をとることが重要です。中小企業であっても外部の専門家を上手に活用しながら、法令を遵守した職場環境の整備を進めていきましょう。

よくある質問(FAQ)

Q. 従業員が精神障害者保健福祉手帳を取得した場合、会社はその情報を同僚に伝えてよいですか?

手帳の所持や精神疾患に関する情報は個人情報保護法上の「要配慮個人情報」に該当します。本人の明示的な同意がない限り、同僚や上司を含む第三者への開示は原則として禁止されています。開示する場合は、本人の書面による同意を得たうえで行い、開示した相手・内容・日時を記録として残してください。

Q. 精神障害者保健福祉手帳の等級が高い(1級)従業員は、業務が続けられないと判断してよいですか?

等級は日常生活・社会生活上の制約の程度を示すものであり、特定の業務をこなす能力を直接表すものではありません。就労継続の可否は、産業医による就業区分の判定や主治医の意見、実際の業務内容との照合をもとに個別に判断する必要があります。等級だけを根拠に就労継続を制限・拒否することは、合理的配慮の観点からも問題になる可能性があります。

Q. 従業員が手帳を持っていることを障害者雇用率に計上するには、どのような手続きが必要ですか?

雇用率への計上には、本人からの書面による同意取得が必須です。同意書には、計上する目的・期間・担当部署などを明記します。同意なく計上することは個人情報保護法および障害者雇用促進法に違反するため、必ず書面での確認を行ってください。同意を得た後、翌年の障害者雇用状況報告(毎年6月1日時点の状況を報告)に反映します。

Q. 合理的配慮の提供が「過重な負担」かどうか、どのように判断すればよいですか?

過重な負担かどうかは、企業の規模・事業内容・財務状況・配慮に伴うコストや業務への影響などを総合的に勘案して判断します。中小企業の場合は大企業と同様の対応が困難なケースもありますが、それを理由にまったく配慮を行わないことは認められません。まずは本人と話し合い、自社が対応可能な範囲から検討することが基本的な姿勢です。不明な点は、労働局や産業医への相談も活用してください。

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