【2025年最新】中小企業が今すぐ確認すべき「コンプライアンス違反の相談窓口」設置義務と対応手順

コンプライアンス違反の相談窓口を「一応設けてある」という企業は少なくありません。しかし、実際に従業員から相談が寄せられているかどうか問われると、「ほとんど使われていない」という声が多く聞かれます。窓口があっても機能していなければ、職場内の問題は水面下に潜り、ある日突然、訴訟や行政指導という形で経営を直撃します。

中小企業においては、人事担当者が1〜2名という体制が一般的で、窓口の運営・管理まで手が回らないという現実があります。また、「内部通報制度は大企業の話」「就業規則にコンプライアンス条項を入れれば十分」という誤解も根強く残っています。

本記事では、2022年改正の公益通報者保護法や中小企業にも適用されるハラスメント防止法制の内容を整理しながら、実効性のある相談窓口の設計方法と、コンプライアンス違反が発覚した際の対応手順を具体的に解説します。

目次

中小企業にも適用される法律上の義務を正しく把握する

「相談窓口の設置は大企業だけの義務では?」という誤解が中小企業の経営者・人事担当者の間で広く見られます。しかし、実際には規模に関わらず義務が発生するケースが存在しており、まずはその全体像を正確に把握することが重要です。

公益通報者保護法(2022年6月改正施行)のポイント

公益通報者保護法とは、企業内の不正行為などを通報した従業員を、解雇や降格・減給といった不利益な取り扱いから守るための法律です。2022年6月の改正施行により、以下の点が大きく変わりました。

  • 常時使用する労働者が300人を超える事業者には、内部通報体制の整備が義務化されました。300人以下の企業は努力義務にとどまりますが、「義務でないから不要」と判断するのは危険です。
  • 通報者の個人情報保護義務が強化され、情報を漏洩した窓口担当者個人も制裁の対象となりました。
  • 保護対象が拡大され、退職後1年以内の元従業員や役員も保護される対象に加わりました。
  • 窓口担当者には守秘義務が法律上課されます。「相談内容を上司や社長にそのまま報告する」ことは、場合によって法律違反になりうるという認識が必要です。

ハラスメント防止法制の適用状況

パワーハラスメント(職場内の優位性を背景にした嫌がらせ)の防止措置については、2022年4月から中小企業にも義務が適用されました(大企業は2020年から)。厚生労働省の指針では、相談窓口の設置は義務的措置として明記されており、「設けることが望ましい」という任意の取り組みではありません。

セクシュアルハラスメントや妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントについては、以前から企業規模を問わず対策が義務づけられています。また、相談者への不利益取り扱い禁止も明確に定められており、「相談したことを理由とした報復」は法律違反です。

形骸化しない相談窓口の設計方法

「相談窓口はある」のに誰も使わないという状況は、多くの中小企業で起きています。その最大の原因は、従業員が「相談しても握りつぶされる」「誰に伝わるか分からない」と感じていることです。窓口を機能させるには、設置するだけでなく、信頼される仕組みをつくることが不可欠です。

内部窓口と外部窓口を併設する

社内に相談窓口を設けるだけでは、「上司や経営者に伝わるかもしれない」という不安から、従業員が相談をためらいます。外部の第三者機関(弁護士・社会保険労務士など)を外部相談窓口として活用することで、通報者の心理的ハードルを下げることができます。

外部窓口の費用は、顧問弁護士・社労士との契約内容によって異なりますが、中小企業向けに月額数万円程度から対応しているケースもあります。コスト感が掴めない場合は、まず各都道府県の社会保険労務士会や弁護士会に相談するところから始めるとよいでしょう。また、各都道府県労働局の「総合労働相談コーナー」は無料で利用できる行政の窓口です。

「誰に伝わるか」を事前にルール化して周知する

相談者が最も不安に思うのは「自分が相談したことが周囲にばれないか」という点です。そのため、以下の情報をあらかじめ明文化し、従業員全員に周知することが必要です。

  • 相談内容は誰が確認し、どの範囲に共有されるか
  • 匿名での相談が可能かどうか
  • 相談したことで不利益を受けないという保証
  • 調査の結果について相談者にどのようにフィードバックされるか

このルールが明確でない限り、いくら窓口を設置しても形骸化します。

複数の相談チャネルを用意する

相談窓口への連絡手段は、メール・電話・Webフォーム・対面など複数の方法を用意することが望ましいとされています。「直接話すのは怖い」という従業員もいれば、「文字を残したくない」という人もいます。相談者が自分に合った方法を選べる環境を整えることが、実際の利用率を高めます。

コンプライアンス違反が発覚した際の対応手順

ハラスメントや不正行為が相談窓口に持ち込まれた、あるいは別の経路で発覚した場合、「何を・誰が・どの順番でやるべきか」が分からないまま対応してしまうと、後から訴訟リスクが生じることがあります。対応の流れをあらかじめ定型化しておくことが重要です。

対応フローの基本的な流れ

  • ステップ1:相談受付・事実確認の可否判断
    相談内容を記録し、調査を行うべき案件かどうかを判断します。この時点で相談者の了承なく内容を第三者に伝えることは、守秘義務の観点から問題があります。
  • ステップ2:調査方針の決定と調査担当者の選任
    調査は中立・公正な立場の人物が担当する必要があります。加害者とされる人物と近い関係にある者が調査を担当することは避けるべきです。経営者・役員が加害者の場合は、外部の弁護士や専門機関に調査を依頼することが有効です。
  • ステップ3:関係者へのヒアリング実施
    被害者・加害者・目撃者などへのヒアリングを行います。ヒアリングの順序(原則として被害者から先に実施)と、記録方法をあらかじめ統一しておくことが重要です。調査記録は必ず書面で残してください。後の紛争に備えた証拠として機能します。
  • ステップ4:事実認定と処分の検討
    収集した情報をもとに事実を認定し、就業規則の懲戒規定と照らし合わせて処分内容を検討します。処分は懲戒委員会などの組織的判断として行うことで、恣意的(個人の感情や都合による)な対応との批判を防ぎます。
  • ステップ5:被害者へのフォローと職場環境の改善
    処分後も被害者のメンタルヘルスのフォローや、必要に応じた配置転換などを実施します。再発防止策を策定・周知することも、法的義務の観点から求められています。

従業員のメンタルヘルスのフォローに課題を感じている場合は、メンタルカウンセリング(EAP)の導入も検討に値します。外部の専門家が従業員からの相談を受ける体制を整えることで、問題の早期発見にもつながります。

よくある誤解と失敗例:知らないでは済まされないポイント

コンプライアンス対応における誤解は、企業の法的リスクを高める直接の原因になります。以下に代表的な誤解と正しい理解を整理します。

誤解①「窓口を設置すれば義務を果たした」

厚生労働省の指針では、単に窓口を設けるだけでなく、「相談しやすい環境の整備」まで含めて義務的措置とされています。窓口の存在が従業員に周知されていない、実際に相談があっても適切に対応されていないといった状態では、義務を果たしているとは言えません。

誤解②「相談内容は全部上司・社長に報告してよい」

通報者が特定されるような情報を広く共有することは、公益通報者保護法上の守秘義務に反する可能性があります。「誰が相談したか」という情報は、原則として調査担当者以外に開示しないことが基本原則です。善意で経営者に報告した結果、法律違反になるケースもあることを認識しておいてください。

誤解③「調査は素早く社内で終わらせれば問題ない」

「社内で処理したい」という意識が強いと、調査の独立性が損なわれ、被害者から「公正な対応がされなかった」として訴訟に発展するリスクがあります。特に加害者が上位の管理職や役員の場合は、外部専門家の介入が不可欠です。また、調査記録を残さないまま処分を行うと、後から「手続きに不備があった」として懲戒処分の有効性が争われることがあります。

実践ポイント:中小企業が今すぐ始められる体制整備

リソースの限られた中小企業が相談窓口を実効性のあるものにするために、優先して取り組むべき実践ポイントを以下にまとめます。

  • 経営トップが率先して発信する
    相談窓口の存在を経営トップ自ら従業員に伝えることで、「組織として取り組んでいる」という信頼感が生まれます。年1回の全体会議や朝礼での発信が有効です。
  • 外部専門家を活用してコストを抑える
    専属のコンプライアンス担当者を置けない中小企業は、社会保険労務士や弁護士との顧問契約を外部窓口として活用することで、対応の質を担保しながらコストを抑えることができます。また、厚生労働省委託の「ハラスメント悩み相談室」は中小企業も無料で活用できます。
  • コンプライアンス研修を年1回以上・全員参加で実施し記録を残す
    研修の実施記録は、万一の際に「適切な予防措置を講じていた」ことを示す証拠になります。管理職向けには「相談を受けたときの対応訓練」を別途実施することも重要です。
  • 就業規則のコンプライアンス条項を実態に合わせて整備する
    就業規則に条項があっても、懲戒の手続きや対象行為が曖昧だと、処分の有効性が争われます。社会保険労務士に依頼して、実態に即した内容に見直すことを検討してください。
  • 産業医と連携してメンタルヘルス対応を強化する
    コンプライアンス違反はしばしば被害者のメンタルヘルスに深刻な影響を与えます。産業医サービスを活用することで、問題発生後の従業員ケアを専門家がサポートする体制を整えられます。

まとめ

コンプライアンス違反への対応は、問題が起きてから考えるのでは遅すぎます。中小企業においても、ハラスメント防止のための相談窓口設置は法律上の義務であり、公益通報者保護法の守秘義務や不利益取り扱い禁止も適用される現実があります。

「窓口を設置する」という形だけの対応から脱却し、従業員が実際に使える仕組みを整えることが、企業を訴訟リスクや行政指導から守る最も確実な方法です。外部の専門家リソースをうまく組み合わせながら、段階的に体制を整備していくことをお勧めします。問題が表面化する前に、今一度、自社の相談窓口が実際に機能しているかを確認してみてください。

よくある質問

従業員数が300人以下の中小企業は内部通報制度を整備しなくてよいのですか?

公益通報者保護法上、300人以下の企業への内部通報体制の整備は「努力義務」にとどまります。ただし、ハラスメント防止のための相談窓口設置は従業員規模にかかわらず義務的措置とされています。また、努力義務であっても、相談窓口がないために問題が深刻化した場合の法的・社会的リスクは企業が負うことになります。体制整備は早期に取り組むことが望ましいと言えます。

相談窓口の担当者が「守秘義務」を負うとはどういう意味ですか?

2022年の公益通報者保護法改正により、内部通報を受ける担当者には法律上の守秘義務が課されました。通報者が誰であるかを特定できる情報を、調査に必要な範囲を超えて開示することは、この義務に反する可能性があります。違反した場合、担当者個人が制裁の対象となりうるため、相談内容の取り扱いルールを事前に文書化し、担当者に周知することが重要です。

経営者や役員がハラスメントの加害者とされた場合、誰が対応すればよいですか?

経営者・役員が加害者とされる場合、社内の誰もが中立な立場で調査を行うことが困難なケースが多くあります。このような場合は、外部の弁護士や第三者機関に調査を依頼することが適切です。社内での「自己調査」は、調査の公正性に疑義が生じやすく、訴訟に発展した際に不利になる可能性があります。事前に外部専門家との顧問契約を結んでおくと、緊急時にスムーズに対応できます。

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