「2024年改定で何が変わった?テレワーク中の労災認定、知らないと会社が危ない」

テレワークが多くの企業に定着した今、「自宅で仕事中に怪我をした場合、労災になるのか」という疑問を持つ経営者・人事担当者は少なくありません。従来の職場を前提とした労務管理の枠組みでは対応しきれないケースが増えており、行政側でも認定基準の運用整備が進んでいます。2023年から2024年にかけて、厚生労働省はテレワーク中の労働災害に関するガイドラインや通達を更新し、判断の実務的な精度を高めました。

ただし、ここで注意が必要です。2024年時点において、労働者災害補償保険法(労災保険法)そのものが大幅に改正されたわけではありません。あくまでも行政解釈・運用基準の明確化が主軸であり、最新の正確な情報は厚生労働省の公式サイトや所轄の労働基準監督署でご確認ください。とはいえ、この運用整備は中小企業の実務に直接影響を与えるものであり、経営者・人事担当者として正しく理解しておくことが今後のリスク管理に欠かせません。

本記事では、テレワーク中の労災認定の基本的な考え方から、よくある誤解、そして企業として今すぐ取り組むべき実践ポイントまでを体系的に解説します。

目次

テレワーク労災認定の基本原則:「業務遂行性」と「業務起因性」

テレワーク中の労働災害を考える上でまず押さえておきたいのが、労災認定における二つの要件です。これはテレワーク固有のルールではなく、通常の職場における労災認定と同じ基準が適用されます。

業務遂行性とは

「業務遂行性」とは、労働者が使用者(会社)の支配・管理下に置かれている状態で行動していたかどうかを指します。平たく言えば、会社の指揮命令のもとで業務を行っていた時間帯・状況かどうかが問われます。テレワークの場合、自宅が就業場所となるため、「業務時間中かどうか」が判断の基軸になります。

業務起因性とは

「業務起因性」とは、業務と怪我・疾病との間に相当な因果関係があるかどうかを指します。たとえば、パソコン作業中に椅子から転倒して骨折した場合は業務との因果関係が認められやすいですが、業務時間中であっても家事をしている最中に負傷した場合は、業務との直接的な関係がないため認定されにくくなります。

自宅は「事業場」とはみなされませんが、就業場所としての自宅内において、業務中に発生した事故は労災の対象となりえます。「自宅だから関係ない」という判断は誤りであり、この点を経営者・人事担当者は特に意識する必要があります。

認定されやすい行為・されにくい行為:具体的な判断の目安

「どのような状況なら労災になるのか」という具体的な疑問に答えるため、代表的なケースを整理します。ただし、これはあくまでも目安であり、最終的な判断は個別の事実関係に基づいて労働基準監督署が行います。

認定されやすいケース

  • パソコン作業中に転倒・負傷した場合:明確に業務中の行為であり、認定されやすいとされています。
  • 業務中にトイレへ行く途中で転倒した場合:生理的必要行為として業務と一体のものとみなされ、認定の対象になりやすいと考えられています。
  • 長時間労働による精神疾患(うつ病など):客観的な労働時間の記録(PCログ・VPN接続記録など)があれば、従来の精神障害労災の認定基準(心理的負荷評価表)に基づいて認定される可能性があります。

認定されにくいケース

  • 昼休憩中に自宅内で負傷した場合:原則として私的行為の時間帯であり、業務起因性が認められません。
  • 業務時間中に家事をして負傷した場合:会社の指揮命令下にない私的行為であるため、業務起因性がないと判断されます。

グレーゾーンのケース

  • 業務時間中に宅配便を受け取る途中で負傷した場合:業務から完全に離れた私的行為とも、日常的に発生しうる短時間の行為とも解釈でき、個別の事実関係に基づく判断が必要です。

このようなグレーゾーンについては、社内で独自に判断せず、所轄の労働基準監督署や社会保険労務士に相談することを強く推奨します。メンタルヘルス関連の労災については、孤立やコミュニケーション不足による心理的負荷も評価対象になりえるため、メンタルカウンセリング(EAP)などの支援体制をあらかじめ整えておくことも重要です。

テレワーク規程の整備が労災対応の土台となる

テレワーク中の労災リスクを適切に管理するために、最も基本となるのがテレワーク勤務規程の整備です。規程がないまま運用している企業では、事故発生時に会社の管理責任の範囲が不明確になり、対応が後手に回るリスクがあります。

規程に盛り込むべき主な内容

  • 就業場所の特定と届出制の採用:テレワークを行う場所をあらかじめ届け出させることで、会社が管理できる範囲を明確にし、無制限に責任が拡大するリスクを抑えることができます。
  • 業務時間の明確化:始業・終業・休憩の時刻と記録方法(タイムカードシステム・チャットツールへのログ記録など)を明文化します。「何時から何時が業務時間か」が明確でないと、事故発生時の業務遂行性の判断が困難になります。
  • 自宅環境の安全基準:照明の明るさ、机・椅子の適切な使用、電源コードの管理など、作業環境に関する最低限の安全基準を定め、定期的なセルフチェックリストの提出を求めることが有効です。
  • 残業申請ルールの明文化:黙示の残業(会社が明示的に指示していないのに事実上残業している状態)を認めない運用を徹底し、過労による労災リスクを低減します。
  • 深夜・休日の業務連絡ルール:業務時間外のメール送受信やチャット応答に関するルールを設けることで、実態上の長時間労働を防ぎます。

テレワーク規程の整備は、労災リスクの管理だけでなく、労働時間管理の適正化にもつながります。労働安全衛生法第66条の8の3では、テレワーク労働者を含む全従業員の労働時間を適正に把握する義務が企業に課せられています。PCログやVPN接続記録など客観的なデータを活用した労働時間の記録・保存は、過労・メンタルヘルス関連の労災認定が問題になった際の重要な証拠にもなります。

事故発生時の初動対応:会社がすべきこと・してはいけないこと

社員から「テレワーク中に怪我をした」と申告があった場合、多くの経営者・人事担当者が対応に迷います。ここでは、初動対応のポイントを整理します。

会社がすべきこと

  • 事実確認シートによる速やかな記録:発生日時、発生場所(自宅内のどの場所か)、その時点での行為内容、負傷の状況を文書で記録します。記憶が薄れる前に記録することが、後の認定手続きにおいて重要です。
  • 医療受診を最優先に促す:労働者の健康回復を最優先し、速やかに医療機関を受診するよう促します。
  • 労災申請書類のサポート:療養補償給付の請求には様式第5号(指定医療機関での受診)等が必要です。労働者が申請手続きを行う際、会社は必要事項の記入をサポートします。
  • 労働基準監督署への報告:死亡災害または休業4日以上の場合は、労働者死傷病報告(様式第23号)を所轄の労働基準監督署に提出する義務があります。

会社がしてはいけないこと

  • 労災申請を妨害・拒否すること:「うちの会社の労災を使うな」「自己責任だ」などと申請を妨害する行為は、いわゆる「労災隠し」に該当し、労働安全衛生法違反として刑事罰の対象となります(50万円以下の罰金)。テレワーク中の事故だからといって、この原則に例外はありません。
  • 「自宅での怪我だから関係ない」と一方的に判断すること:業務遂行性・業務起因性の判断は会社ではなく労働基準監督署が行います。会社が独断で「これは労災ではない」と結論づけることは適切ではありません。

テレワーク環境においては、特にメンタルヘルス不調のサインを見逃すリスクが高まります。在宅勤務者の孤立感やコミュニケーション不足が長期化することで、精神疾患として労災認定につながるケースも想定されます。ストレスチェック制度(従業員50人以上の事業場に実施義務あり)の確実な実施とフォローアップに加え、産業医サービスを活用した定期的な健康管理体制の構築が効果的です。

通勤災害の考え方も変わる:サテライトオフィス移動の注意点

テレワークの普及によって、「通勤」の概念にも変化が生じています。自宅がそのまま就業場所となる場合、通勤そのものが発生しないため、通勤災害の問題が生じないように思われます。しかし実態はより複雑です。

たとえば、自宅からサテライトオフィスやコワーキングスペースへ移動する場合、その移動は「通勤」と認められる場合があります。一方で、自宅からサテライトオフィスを経由して本社へ向かうような中間移動(複数拠点を経由する通勤)については、経路の合理性や移動の目的によって判断が変わるため、注意が必要です。

就業場所をどこに設定するかによって、通勤災害の範囲が変わります。テレワーク勤務規程において就業場所を届出制にしていれば、この判断も整理しやすくなります。社員が複数の場所を行き来するような柔軟な働き方を採用している企業ほど、規程の整備と個別ケースの確認が重要です。

実践ポイント:中小企業が今すぐ取り組むべき5つのこと

以上の内容を踏まえ、中小企業の経営者・人事担当者が優先的に取り組むべき実践ポイントを整理します。専門家との連携体制が整っていない小規模企業でも、以下の取り組みから始めることで、テレワーク労災リスクを大幅に低減できます。

  • ① テレワーク勤務規程の新規作成または見直し:
    就業場所の届出制、業務時間の定義と記録方法、残業申請ルール、自宅環境の安全基準を盛り込んだ規程を整備します。既存の就業規則への付則として追加する形でも構いません。
  • ② 客観的な労働時間記録の仕組みの構築:
    PCログ、VPN接続記録、勤怠管理システムなどを活用し、労働時間を客観的に記録・保存できる体制を整えます。記録は過労関連の労災申請が発生した際の重要な証拠となります。
  • ③ 事故発生時の初動対応マニュアルの作成:
    事実確認シートのフォーマット、医療機関への受診案内、労災申請のサポート手順、労働基準監督署への報告フローをまとめたマニュアルを作成し、人事担当者が迷わず対応できるようにします。
  • ④ 定期的な安全衛生チェックの実施:
    在宅勤務者に対して定期的にセルフチェックリストを配布し、作業環境の安全状況を把握します。オンラインでの安全衛生委員会の開催と議事録保存も忘れずに行いましょう。
  • ⑤ 社会保険労務士・産業医との連携体制の確立:
    個別ケースの判断や規程の整備には専門的な知識が必要です。グレーゾーンの事案が発生した際にすぐ相談できる社会保険労務士のネットワーク、および健康管理の観点で連携できる産業医との関係を構築しておきましょう。

まとめ

テレワーク中の労働災害認定基準は、2023年から2024年にかけての行政解釈・運用の整備により、より実務的な精度が高まっています。労災保険法そのものの大幅改正ではありませんが、「自宅での怪我は会社に関係ない」「テレワーク規程がなくても問題ない」といった従来の誤解が通用しなくなっている点は明らかです。

業務遂行性と業務起因性の二要件はテレワークでも変わらず適用されます。規程の整備、労働時間の客観的な記録、事故発生時の適切な初動対応、そして専門家との連携体制の構築——これらを着実に進めることが、中小企業にとって最も現実的なリスク管理の方法です。

テレワーク環境は今後も維持・拡大される傾向にあります。今この機会に自社の労務管理を見直し、万一の事態に備えた体制を整えておくことが、経営者・人事担当者としての重要な責務といえるでしょう。

よくある質問(FAQ)

Q. テレワーク中に昼休みの直前、席を立とうとして転倒した場合、労災になりますか?

業務時間内か休憩時間内かという時間的な区分に加え、転倒した行為が業務と関連するものかどうかが判断のポイントになります。業務時間中に席を立った直後であれば業務遂行性が認められる可能性がありますが、休憩開始直後であれば私的時間として扱われる場合もあります。個別の事実関係によって判断が異なるため、所轄の労働基準監督署または社会保険労務士に相談することをお勧めします。

Q. テレワーク中の長時間労働によるメンタル不調は、労災として認定されますか?

テレワーク環境においても、精神障害の労災認定は従来の認定基準(心理的負荷評価表)に基づいて行われます。長時間労働の実態を示す客観的な記録(PCログ・VPN接続履歴・勤怠記録など)があれば、認定の可能性は高まります。孤立やコミュニケーション不足による心理的負荷も評価対象になりえます。早期発見・対応のために、メンタルカウンセリング(EAP)の導入も有効な選択肢です。

Q. 社員がテレワーク中の怪我を労災申請したいと言ってきました。会社は拒否できますか?

会社は労働者の労災申請を妨害・拒否することはできません。「自宅での怪我だから」「テレワーク中だから」という理由で申請を断ることは、労災隠しとして労働安全衛生法違反に問われる可能性があります(50万円以下の罰金)。会社の役割は申請の可否を判断することではなく、事実確認と申請手続きのサポートを行うことです。認定の判断は所轄の労働基準監督署が行います。

労働法改正への対応や安全衛生管理体制の整備には、INTERMINDの産業医サービスが力になります。専門家による継続的なサポートで法令対応を進められます。

監修・運営:INTERMIND株式会社

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