「誰も使わない…」EAPカウンセリングの利用率が劇的に変わる従業員への伝え方5選

「導入したのに、誰も使っていない」——EAP(Employee Assistance Program:従業員支援プログラム)を導入した企業の人事担当者から、こうした声を聞くことは珍しくありません。EAPとは、従業員のメンタルヘルスや生活上の悩みを専門家に相談できる外部カウンセリングサービスのことです。厚生労働省の指針でも活用が推奨されていますが、業界平均の利用率は1〜5%程度にとどまるとされています。

月額のコストを払い続けているにもかかわらず利用者がほとんどいないという状況は、経営層から「費用対効果が見えない」「撤廃を検討すべきでは」というプレッシャーにつながります。しかし問題の本質は、EAPそのものの価値ではなく、従業員への「伝え方」と「伝え続け方」にあることがほとんどです。

本記事では、中小企業の経営者・人事担当者に向けて、EAPのカウンセリング利用率を実際に引き上げるための具体的なコミュニケーション設計を解説します。

目次

なぜEAPは「導入しても使われない」のか——利用率低迷の構造的原因

利用率が上がらない理由を「従業員のメンタルヘルスへの関心が低いから」と片付けてしまうのは、早計です。実態を掘り下げると、いくつかの構造的な問題が重なっています。

認知率そのものが低い

「EAPサービスがあることを知らなかった」という声は、利用しない理由のなかでも特に多く聞かれます。入社時のオリエンテーションで一度触れただけ、あるいは制度導入時にメールを一通送っただけ、という周知では、従業員の記憶には定着しません。人は繰り返し接触することで初めて情報を「使えるもの」として認識します。

「カウンセリング=重篤な人が行くもの」というイメージ

多くの従業員は、カウンセリングを精神科的な治療や、深刻なメンタル不調を抱えた人が利用するものと捉えています。「自分はそこまでじゃない」「行ったら大げさに思われる」という心理的ハードルが、予防的・日常的な利用を妨げています。

「会社に知られるのでは」という不安

EAPには守秘義務があり、相談内容が会社に報告されることはありません。しかし「そう言われても本当に信じてよいのか」という疑念は、一度の説明では解消されないのが実情です。特に中小規模の組織では「誰が利用しているか、なんとなくわかってしまうのでは」という懸念も根強くあります。

管理職が紹介役として機能していない

従業員がEAPを利用するきっかけの一つは、上司や人事担当者からの案内です。しかし管理職自身がEAPの使い方を理解しておらず、部下に不調のサインが出ていても適切な声がけができていないケースが多くあります。

言葉のリフレーミング——「誰でも使えるサービス」として再定義する

利用率向上の第一歩は、EAPの「定義」を変えることです。「カウンセリング」「メンタルヘルス相談」という言葉が持つ重さが、そのまま利用への心理的障壁になっています。

呼び方・表現を変える

「カウンセリング」という言葉を前面に出すのではなく、「ライフサポートデスク」「仕事・生活の相談窓口」「セルフケアサービス」といった表現に言い換えることで、利用対象者のイメージが広がります。「困っている人向けのサービス」から「仕事や生活をより良くしたいすべての従業員が使えるサービス」へと再定義することが重要です。

使えるシーンを具体的に示す

EAPが対応できる相談内容は、メンタル不調にとどまりません。職場の人間関係、キャリアの悩み、介護や育児に関する相談、夫婦・家族関係の問題など、日常のさまざまな場面で活用できます。これらの具体的なユースケースを社内で共有することで、「自分にも使える場面があるかもしれない」という気づきを促すことができます。

  • 「最近、上司との関係がぎこちなくて、どう接すればいいかわからない」
  • 「育児と仕事の両立で限界を感じている」
  • 「転職を考えているが、誰にも相談できない」
  • 「睡眠が浅く、仕事のパフォーマンスが落ちている気がする」

こうした「身近なシーン」を伝えることで、「深刻な人しか使えないもの」というイメージを払拭できます。

守秘義務への不安を繰り返し払拭する——信頼は「積み重ね」でしか生まれない

EAPの守秘義務に関する不安は、一度説明しただけでは解消されません。これは従業員の理解力の問題ではなく、「本当に秘密が守られるか」という信頼の問題であり、信頼は繰り返しのコミュニケーションによってしか積み上がらないためです。

守秘義務の内容を明文化して繰り返し伝える

「相談内容は会社に報告されません」という事実を、社内ポスター・メール・社内報・給与明細の同封文書など、複数のチャネルで繰り返し明記してください。サービスによっては「利用した事実すら会社に通知されない」仕組みを持つものもあります。その場合は、その点を特に強調して伝えることが有効です。

人事・上司を経由しない直接アクセスの導線を整える

「上司に知られてから相談する」という構造では、従業員は動きにくくなります。従業員が直接、EAPの窓口に連絡できる導線——電話番号・チャット窓口・予約URLなど——を、目に見える形で常時提示しておくことが重要です。

個人情報保護法の観点からも「守秘」を根拠づける

個人情報保護法において、精神的健康状態に関する情報は「要配慮個人情報」に分類されており、特別な保護が求められています。EAPは専門機関として、この情報を厳格に管理しています。このような法的背景を簡潔に添えることで、「制度として守られている」という安心感を与えることができます。

周知を「イベント」から「仕組み」に変える——継続的なコミュニケーション設計

多くの企業が陥るのが、「導入時に一度案内して終わり」という周知の仕方です。しかし人が行動を起こすには、適切なタイミングに繰り返し接触することが必要です。周知を「イベント(点)」ではなく「仕組み(線)」として設計してください。

年間スケジュールに組み込む

年2〜4回を目安に、EAPに関する案内を定期的に発信する計画を立てましょう。以下のようなタイミングは特に有効です。

  • ストレスチェック結果の配布時:高ストレスと判定された従業員だけでなく、全従業員にEAPの利用を案内する
  • 繁忙期の前後:期末・年度替わりなど、業務負荷が高まりやすい時期
  • 組織変更・異動の直後:環境変化が心理的負荷につながりやすい場面
  • 入社半年・1年のタイミング:新入社員が職場に慣れてくる頃に改めて案内する

なお、労働安全衛生法第69条では、事業者は従業員の健康保持増進のための措置を講じる努力義務を負っています。また、労働契約法第5条に定める安全配慮義務の観点からも、EAPの存在を従業員に知らせ、活用できる状態にしておくことは、法的義務の履行という側面も持ちます。相談窓口の周知は、単なる福利厚生の案内にとどまらない重要な取り組みです。

複数チャネルで発信する

社内メール、SlackやMicrosoft Teamsなどのチャットツール、社内報、休憩室・トイレへのポスター掲示、給与明細への同封など、従業員の目に触れやすい媒体を組み合わせて活用しましょう。チャネルが多ければ多いほど接触頻度が増え、認知率の向上につながります。

管理職を「利用促進の担い手」として育てる

従業員がEAPを使うきっかけとして、上司や人事担当者からの紹介は大きな影響力を持ちます。しかし管理職自身がEAPについて理解していなければ、部下への紹介もできません。

管理職研修にEAP活用を組み込む

管理職向けの研修に、「部下から不調のサインが見えたときの対応方法」と「EAPの紹介トーク」をセットで組み込んでください。たとえば「最近、元気がなさそうに見えるけど、もし話しにくいことがあれば、外部の相談窓口もあるから気軽に使ってみて」という一言が、従業員にとって大きな後押しになることがあります。

管理職自身が「使ったことがある人」になる

管理職が自らEAPを体験し、「実際に使ってみたら気軽に話せた」という経験を持つことで、紹介の説得力が変わります。また、管理職層が利用することは、「EAPを使うことは弱さではない」という文化的なメッセージにもなります。特に男性管理職・ベテラン層が利用を躊躇する傾向があるため、経営者や人事部長からの率先した発信が有効です。

経営者・人事部長からのメッセージを発信する

「この会社では、困ったときに相談することを評価します」「利用したことが人事評価に影響することは一切ありません」というメッセージを、経営者や人事部長が文書・動画などで直接発信することは、組織文化の変容を促す上で非常に有効です。制度の存在を「人事が言っている」ではなく「会社として推奨している」という位置づけにすることで、従業員の安心感が高まります。

実践ポイントまとめ——明日から始められる利用率向上アクション

  • 言葉を変える:「カウンセリング」から「相談サービス」「ライフサポート」へ。使えるシーンを5〜10例、具体的に社内共有する
  • 守秘義務を繰り返し伝える:ポスター・メール・社内報で定期的に「内容は会社に知らされません」と明記する
  • 直接アクセスの導線を整える:窓口の電話番号・URL・所要時間・費用(無料)を、常時見える場所に掲示する
  • 年間スケジュールに組み込む:ストレスチェック・繁忙期・組織変更のタイミングに合わせて年2〜4回の案内を計画する
  • 管理職を巻き込む:研修で紹介トークを習得させ、管理職自身が体験者になる機会を設ける
  • 経営層がコミットを見せる:「使ってほしい」「評価に影響しない」というメッセージを経営者・人事責任者が発信する

EAPの利用率向上は、単なる広報活動ではありません。従業員が安心して相談できる環境をつくることは、メンタルヘルス不調の予防・早期対応につながり、結果として離職率の抑制や生産性の維持にも寄与します。導入したまま「眠っている」EAPを、ぜひ組織の財産として活かしてください。

EAPの導入・運用についてご検討の際は、メンタルカウンセリング(EAP)のサービス内容もぜひご参照ください。また、ストレスチェック後のフォローアップや高ストレス者への対応を強化したい場合は、産業医サービスとの連携も効果的です。

よくある質問(FAQ)

EAPの利用率の目安はどのくらいですか?

業界平均は1〜5%程度とされていますが、周知の工夫や管理職への教育を継続的に行っている企業では10〜20%に達するケースもあります。利用率そのものをKPIとして追いかけるよりも、従業員が必要なときに使える状態をつくることを目標に設計することが推奨されます。

カウンセリングの内容は本当に会社に知られないのですか?

正規のEAPサービスでは、相談内容は守秘義務によって保護されており、会社側に報告されることはありません。サービスによっては「利用した事実すら会社に通知されない」仕組みを採用しているものもあります。ただし、この事実を従業員が信頼するためには、一度の説明では不十分です。ポスターやメールなど、複数の場面で繰り返し伝えることが重要です。

中小企業でもEAPは効果的に活用できますか?

はい、活用できます。むしろ中小企業では社内に専門の相談窓口を設けることが難しいため、外部のEAPサービスが果たす役割は大きいといえます。ただし「誰が利用しているかわかってしまうのでは」という懸念を持ちやすい規模感でもあるため、守秘義務に関する説明と直接アクセスの導線整備を特に丁寧に行うことが利用率向上のポイントになります。

ストレスチェックとEAPはどのように連携させればよいですか?

労働安全衛生法に基づくストレスチェック(常時使用する労働者が50人以上の事業場で実施が義務)の結果を従業員に配布するタイミングは、EAPの案内を行う絶好の機会です。高ストレス者だけに限定して案内するのではなく、全従業員に向けて「気になることがあれば気軽に相談できる窓口があります」と伝えることで、予防的な利用を促すことができます。

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