「男性育休を取らせたら職場が変わった?中小企業が見落としがちなメンタルヘルスとの深い関係」

「うちの会社は制度だけはある」「でも誰も取れていない」——中小企業の経営者・人事担当者からよく聞かれる言葉です。2022年の育児・介護休業法改正により、男性育休をめぐる法的環境は大きく変わりました。しかし、制度の整備が進む一方で、実際の取得率や取得後のフォローについては、多くの企業でまだ課題が残っているのが現状です。

本記事では、男性育休の取得推進とメンタルヘルスがどのように結びついているのかを解説します。「取得させれば終わり」ではなく、取得前・取得中・復職後のそれぞれで何をすべきかを、中小企業の実情に合わせて具体的にお伝えします。

目次

男性育休を取得することがメンタルヘルスに与えるプラスの影響

「育休を取らせると職場が回らなくなる」という不安は、多くの中小企業の経営者が抱えるリアルな悩みです。しかし、育児参加に積極的に関わった男性従業員のその後のデータを見ると、職場にとってもプラスになる側面があることが分かってきています。

研究や調査において、男性が育休を取得して育児に主体的に関わることで、父親自身の自己効力感(自分はできるという感覚)が高まり、家族との絆が強化されるという報告が蓄積されています。この心理的な充実感は、仕事へのエンゲージメント(会社や仕事への積極的な関与)の向上にもつながりやすいとされています。

さらに注目すべきは、育休取得後に復職した男性の離職率が低下する傾向が見られる点です。会社が自分の育児を支えてくれたという体験は、従業員のロイヤルティ(会社への忠誠心・定着意欲)を高める要因になります。人手不足が深刻な中小企業にとって、育休推進は「コスト」ではなく「定着投資」と位置づける視点が重要です。

一方で、育休中に孤立感や「職場に迷惑をかけている」という罪悪感を抱える男性従業員も少なくありません。制度を整備するだけでなく、取得中・復職後のフォローが伴わなければ、せっかくの休業がかえってメンタル不調の引き金になってしまうリスクもあります。

2022年改正育児・介護休業法で何が変わったのか

男性育休の推進に取り組む前提として、現行の法律が何を求めているかを正確に理解しておく必要があります。2022年の育児・介護休業法改正は段階的に施行されており、中小企業も対応が求められる内容が含まれています。

全企業規模が対象となった義務事項(2022年4月施行)

妊娠・出産の申し出をした従業員本人、またはその配偶者(男性従業員の妻が出産した場合など)に対して、育休制度の内容を個別に説明し、取得するかどうかの意向を確認することが全企業に義務付けられました。従業員数に関係なく、すべての会社がこの対応をしなければなりません。

産後パパ育休(出生時育児休業)の新設(2022年10月施行)

子どもが生まれた後8週間以内に、最大4週間の育休を取得できる「産後パパ育休」が新設されました。この制度の特徴は以下の通りです。

  • 2回に分割して取得することが可能
  • 労使協定(会社と従業員代表が取り決めた協定)を締結することで、休業中の一部就業も認められる
  • 通常の育児休業とは別に取得できる(最大で計4週間+育児休業期間を確保できる)

育休取得状況の公表義務(2023年4月施行)

従業員1,000人を超える企業には育休取得率の公表が義務付けられました。中小企業は現時点では努力義務にとどまりますが、取引先や採用候補者からの目線が厳しくなっていることを考えると、早めの対応が企業のイメージにも影響します。

経済的支援も活用できる

育休中は雇用保険から育児休業給付金が支給されます。休業開始から180日間は手取り収入の約80%相当、それ以降は約67%相当が受け取れます。また、育休期間中は労使ともに社会保険料が免除されるため、従業員の手取り額は給付金のみで考えるよりも実質的に維持されます。

さらに、男性従業員が育休を取得した中小企業を対象に、「両立支援等助成金(出生時両立支援コース)」として最大57万円(2024年度時点・要件あり)が支給される制度もあります。業務のカバー体制整備に充てる費用の一部を賄えるため、積極的な活用をお勧めします。詳細は所轄の労働局やハローワーク、または厚生労働省の「育休ポータル」でご確認ください。

「取得させっぱなし」が最も危険——育休前・中・後のメンタルケア

男性育休とメンタルヘルスの関係を語るうえで、最も重要なのは「取得さえすれば問題ない」という誤解を解くことです。取得前・取得中・復職後のそれぞれの段階で、適切なフォローを行わなければ、かえってメンタル不調のリスクが生まれます。

取得前:不安を取り除く対話の場を設ける

育休に入る前の段階では、上司との面談を必ず実施しましょう。確認すべき内容は次の通りです。

  • 業務の引き継ぎ計画(誰がどの業務をカバーするか)
  • 育休期間中の連絡ルール(任意・緊急時のみなど明確に)
  • 復職後のキャリアや業務内容についての見通し

「復帰後に自分の居場所があるかどうか分からない」という不安を抱えたまま休業に入る男性従業員は少なくありません。事前の対話でこの不安を軽減することが、休業中のメンタルヘルス維持に直結します。

取得中:孤立感への配慮(強制ではなく、つながりの維持)

育休中は職場から切り離される感覚が強まります。「自分がいない間に職場が変わってしまう」「迷惑をかけているのではないか」という罪悪感が蓄積されやすい時期です。

この時期に重要なのは、強制ではなく任意の近況確認の仕組みをつくることです。「何か困ったことがあればいつでも連絡してください」という一言や、チームのニュースレターを送るなど、緩やかなつながりを保つ工夫が効果的です。ただし、業務連絡を強要することはかえってプレッシャーになるため、あくまでも本人が選択できる形にしましょう。

復職後:「浦島太郎症候群」への対応

復職直後の男性従業員が陥りやすいのが、いわゆる「浦島太郎症候群」です。自分がいない間に業務の流れやチームの関係性が変わっており、情報格差や疎外感によってメンタル不調が生じるケースです。

復職後は、必ず復職面談を実施することを社内のルールとして定めてください。確認すべき内容には、現在の業務への適応状況、育児と仕事の両立に関する困りごと、今後のキャリアに対する不安などが含まれます。この面談を形式的に終わらせず、上司が傾聴する姿勢を持つことが大切です。

見落とされがちな課題:支援する側のメンタルヘルス対策

育休推進の議論で見落とされやすいのが、育休取得者を支える側の同僚・上司のメンタルヘルスです。業務の負担が特定の人に集中することで、残業時間が増加し、不公平感や燃え尽き感が生じるリスクがあります。

残業時間とストレスチェックの重点モニタリング

育休取得者が出た部署については、残業時間の変化を定期的に確認し、ストレスチェック(従業員50人以上の事業所では年1回実施が義務)の結果を重点的に分析することをお勧めします。問題の兆候を早期に察知することで、対処の選択肢が広がります。

業務代替の負担を「見える評価」に結びつける

育休取得者の業務を担った従業員が「頑張っても何も変わらない」と感じると、不満が積もり、職場全体の雰囲気が悪化します。業務代替への手当支給や人事評価への明示的な反映を検討してください。「育休を支えることが評価される職場」という文化が根付くことで、育休取得者も肩身の狭い思いをせずに休業できます。

パタニティ・ハラスメント(パタハラ)の防止

パタニティ・ハラスメント(パタハラ)とは、男性従業員が育休を取ろうとしたときに、上司や同僚から嫌がらせや不利益な扱いを受けることを指します。「男が育休を取るなんて」「出世を諦めるのか」といった言動がこれに当たります。

パタハラはパワーハラスメントに該当し、労働施策総合推進法(いわゆるパワハラ防止法)に基づく雇用管理上の措置義務の対象です。中小企業も2022年4月から対応が義務化されています。「ハラスメントだと気づいていなかった」では通じないため、管理職向けの研修や就業規則への明記など、実効性のある対策が必要です。

中小企業が今日から始められる実践ポイント

最後に、制度整備よりも前に取り組めることを整理します。法律の義務対応と並行して、職場風土の変化を促す具体的なアクションが重要です。

  • 経営者・管理職が率先して賛意を示す:トップが「うちの会社は育休を歓迎する」と明言するだけで、従業員が取得を申し出やすくなります。経営者自身が育休を取得した場合は、その体験を社内で共有することが最も強いメッセージになります。
  • 取得した従業員のロールモデルを見える化する:育休を取得した男性従業員の体験談を社内報や朝礼などで紹介することで、「自分も取れるかもしれない」という心理的安全性(失敗や発言を恐れずに行動できる状態)が高まります。
  • 分割取得・産後パパ育休を柔軟に活用する:一度に長期間の取得が難しい場合は、産後パパ育休(最大4週間・2分割可)や育児休業の分割取得を組み合わせることで、業務への影響を最小限に抑えながら取得を実現できます。「まず1週間から」という段階的なアプローチも有効です。
  • 助成金情報を早めに収集する:両立支援等助成金は要件や金額が年度によって変わることがあります。所轄の労働局やハローワーク、社会保険労務士への相談を通じて、最新情報を確認してください。
  • 育休前・復職後の面談を社内ルールとして明文化する:担当者が変わっても対応の質が維持されるよう、育休前後の面談を就業規則や人事マニュアルに盛り込んでおくことが重要です。

まとめ

男性育休の取得推進は、単なる法律対応や取得率の数字を改善するための施策ではありません。育休を取得した従業員のメンタルヘルスと定着率の向上、支援する側の公平感と職場環境の改善、そして会社全体の心理的安全性の醸成——これらは相互に結びついており、どれかひとつだけを切り取っても機能しません。

中小企業であるからこそ、経営者の言動が職場風土に直接影響します。「うちは小さいから無理」ではなく、「小さい組織だからこそ変化を起こしやすい」という視点で、今できることから一歩ずつ取り組んでみてください。制度と文化の両輪を整えることが、長期的な人材定着と組織の健康につながります。

よくある質問

Q1: 男性育休を取得すると、本当に職場が回らなくなるのではないでしょうか?

記事では、育休取得後の男性従業員の離職率が低下し、仕事へのエンゲージメントが向上する傾向が報告されていると述べられています。中小企業にとって育休推進は「コスト」ではなく「定着投資」と考えることが重要で、長期的には人材確保につながるメリットがあります。

Q2: 育休中に従業員が罪悪感を感じてメンタルヘルスが悪化する可能性があるとのことですが、それを防ぐには何をすればいいですか?

記事では、制度の整備だけでなく、取得前・取得中・復職後のメンタルケアが必要であることが強調されています。具体的には取得前の上司との面談で不安を取り除く、取得中は定期的なコミュニケーションを保つ、復職後は段階的な業務復帰などのフォローが重要です。

Q3: 中小企業でも2022年の育児・介護休業法改正に対応する必要がありますか?

はい、妊娠・出産の申し出があった従業員への育休制度の個別説明と意向確認は、2022年4月から全企業規模に義務付けられています。また、1,000人以下の中小企業は育休取得率の公表は努力義務ですが、採用や取引先の評判に影響するため早めの対応が推奨されています。

従業員のメンタルヘルスケアには、INTERMINDのEAP(従業員支援プログラム)の導入が効果的です。精神科専門医による相談窓口を社外に設置できます。

産業医・メンタルヘルスのご相談はお気軽に

まずは資料請求・無料相談から。専任担当がサポートします。

目次