「健康経営銘柄」に選ばれる企業が密かにやっている7つの準備とは?中小企業でも狙える選定条件を徹底解説

「健康経営銘柄」という言葉は耳にしたことがあっても、自社に関係する制度なのか、どう準備すればよいのかが曖昧なまま時間が過ぎている——そのような状況にある経営者・人事担当者は少なくありません。実際には「健康経営銘柄」と「健康経営優良法人」は別の制度であり、前者は東証上場企業のみを対象としています。中小企業が目指すべきは健康経営優良法人(中小規模法人部門)の認定ですが、銘柄選定の仕組みを理解することは、自社の健康経営を高いレベルで設計するうえで非常に参考になります。

本記事では、健康経営銘柄の選定条件と背景にある評価の仕組みを正確に解説しながら、中小企業が実践的に取り組める準備ステップを具体的にお伝えします。制度の全体像を把握してから自社の立ち位置を確認することで、散発的な施策を「戦略的な健康経営」へと転換する糸口が見えてくるはずです。

目次

健康経営銘柄と健康経営優良法人の違いを正確に理解する

まず混同されやすい二つの制度の違いを整理します。

健康経営銘柄は、経済産業省と東京証券取引所が共同で2015年から運営している制度です。東証上場企業を対象に、経産省が実施する「健康経営度調査」の結果をもとに、業種区分ごとにおおむね1〜2社程度を選定します。選定されることで、中長期的な企業価値向上を重視する機関投資家や市場関係者への訴求力が高まるのが最大のメリットです。上場企業のIR戦略とも直結しているため、基本的には上場企業固有の取り組みと理解してください。

一方、健康経営優良法人認定制度は、上場・非上場を問わず法人全般を対象としており、大規模法人部門と中小規模法人部門に分かれています。中小企業が目指すべきはこちらの「中小規模法人部門」であり、さらに認定法人の上位500法人に与えられる「ブライト500」の称号を積み重ねることが、中小企業における健康経営の差別化に直結します。

ただし、健康経営銘柄の評価軸——すなわち経営トップのコミットメント、データに基づくPDCA、具体的な施策ラインナップ——は、健康経営優良法人の審査基準とも大きく重なっています。銘柄選定の仕組みを理解することは、中小企業が高水準の健康経営を構築するための「設計図」として十分に活用できます。

健康経営度調査が評価する5つのカテゴリー

健康経営銘柄の選定は、経産省が毎年実施する健康経営度調査のスコアに基づきます。調査票は例年8〜9月ごろ公表され、10〜11月ごろが回答期限の目安です。評価はスコアリング型であり、単年度の点数だけでなく取り組みの継続性・改善の軌跡も重視されます。主な評価カテゴリーは以下の5つです。

  • 経営理念・方針:健康経営の位置づけが中期経営計画や統合報告書に明記されているか
  • 組織体制:経営者のコミットメントが可視化され、担当者が明確に配置されているか
  • 制度・施策実行:健診・保健指導・ストレスチェック・禁煙・運動促進などの施策が実施されているか
  • 評価・改善:アウトカム指標(成果指標)が設定され、PDCAサイクルが機能しているか
  • 法令遵守・リスクマネジメント:労働安全衛生法などの関連法規が適切に遵守されているか

この構造は、健康経営優良法人の審査項目とも対応しています。特に「評価・改善」のカテゴリーは、多くの企業が施策を実施しているだけで終わりがちな部分です。アブセンティーズム(疾病による欠勤・休職)やプレゼンティーズム(出勤しているが体調不良等により生産性が低下している状態)を測定するSPQ等のツールを活用した定量的な効果測定が、上位スコアの鍵となります。

経営トップのコミットメントを「見える形」にする方法

健康経営において、経営者の関与は形式的なものであってはなりません。評価でも重視されるのは、トップが主体的に健康経営を推進していることが社内外から確認できる状態です。具体的には以下のような取り組みが有効です。

  • 代表者名義での「健康宣言」の発表と、自社ウェブサイト・社内掲示板等への公表
  • 健康経営の方針を中期経営計画や統合報告書、IR資料に明記する
  • 取締役会・経営会議において健康関連KPI(重要業績評価指標)を定例の議題として報告する
  • 社内報や朝礼など経営者が直接従業員へメッセージを発信する機会の設定

中小企業においては「経営者と従業員の距離が近い」という強みがあります。経営者が自ら健康診断を受け、その重要性を発信するだけでも、従業員の行動変容につながるケースは多くあります。重要なのは「やっている」だけでなく、「記録として残り、第三者が確認できる」状態を作ることです。

また、健康経営の推進にあたっては、専任または兼任の担当者を明確に任命し、産業医サービスを活用して産業医・保健師が形式的な関与にとどまらず積極的に施策立案に参加できる体制を整えることが推進力を高めます。健康保険組合や協会けんぽとのコラボヘルス(保険者と事業主が連携して従業員の健康増進を図る取り組み)を推進することも、評価項目として加点につながります。

データヘルスの実践:健診・ストレスチェック結果を「活用」する

健康経営の質を決定づけるのが、データに基づく施策立案と効果検証の仕組みです。多くの企業が「健康診断は実施している」段階にとどまっていますが、評価上求められるのは収集したデータを分析し、施策へ反映させているかどうかです。

まず取り組むべき事項を整理すると、以下のようになります。

  • 健康診断受診率100%の達成:労働安全衛生法第66条に基づく実施義務を完全に履行するとともに、有所見者への再検査・精密検査受診の勧奨を徹底する
  • ストレスチェックの集団分析結果の活用:労働安全衛生法第66条の10に基づく実施義務を果たすだけでなく、集団分析(部署別の傾向分析)の結果を職場環境改善に結びつける
  • 経年比較できるデータ蓄積:単年度の結果だけでなく、前年比・3年間の推移を追えるよう記録形式を統一する
  • 個人情報保護との両立:健診結果等の取り扱いは個人情報保護法および安全配慮義務の観点から適正な管理が必要。集計・分析は匿名化・集団分析を基本とし、産業医が関与する形で情報管理ルールを文書化する

大規模法人では健保データと健診データを連結した分析が求められますが、中小企業でも協会けんぽのデータ提供を活用することで一定の分析が可能です。データ活用に踏み出せない最大の原因が「個人情報保護への不安」であれば、まず産業医や社会保険労務士と連携して社内ルール(規程)を整備することが先決です。

メンタルヘルス対策については、ストレスチェックの実施と職場環境改善に加え、メンタルカウンセリング(EAP)の導入が効果的です。EAP(Employee Assistance Program:従業員支援プログラム)は、従業員が抱える仕事・家庭・健康などの問題に対して、外部専門機関によるカウンセリングや情報提供を行う仕組みで、利用実績はプレゼンティーズム改善の根拠データとしても活用できます。

中小企業が健康経営優良法人認定を目指す際の施策ラインナップ

健康経営銘柄・優良法人の審査では、複数の健康課題に対してバランスよく施策を実施していることが求められます。以下は、評価項目に対応した主な施策の例です。

  • 禁煙対策:就業時間中の禁煙ルールの設定、卒煙支援プログラムの提供
  • 適正体重維持・メタボ対策:食堂・社員食堂でのヘルシーメニュー提供、運動習慣促進(歩数計の配布、運動イベントの実施等)
  • 女性特有の健康課題への対応:婦人科健診(子宮頸がん・乳がん検診)の費用補助、不妊治療支援、更年期症状への相談窓口整備
  • メンタルヘルス対策:EAPの導入、管理職向けラインケア研修、復職支援プログラムの整備
  • 感染症予防:インフルエンザワクチン接種費用補助、HPVワクチン支援
  • 長時間労働対策:残業時間の上限設定と運用、勤怠管理システムの整備、産業医による長時間労働者への面接指導(労働安全衛生法第66条の8に基づく義務)の確実な実施

これらの施策を「実施した」で終わらせず、実施率・参加率・改善率などの指標を記録し、翌年度の計画に反映させるPDCAサイクルを回すことが高評価の条件となります。施策の数よりも、課題特定→施策実施→効果測定→改善というサイクルが機能しているかどうかが問われます。

実践ポイント:準備を進めるための年間スケジュール

健康経営銘柄の選定プロセスを念頭に置いた場合、年間を通じた準備スケジュールの目安は以下のとおりです。中小企業が健康経営優良法人を目指す場合も、ほぼ同様のサイクルで計画できます。

  • 4〜7月:前年度施策の効果検証・課題整理、翌年度の健康経営計画立案、担当者・体制の確認
  • 8〜9月:健康経営度調査票の公表内容確認、回答準備の開始(上場企業の場合)。中小企業は優良法人申請要件の最新情報確認
  • 9〜11月:調査票・申請書類への回答・提出
  • 12〜翌2月:経産省による審査・スコアリング
  • 3月ごろ:銘柄・優良法人の発表・認定

特に注意が必要なのは、「今年から取り組んで今年の申請に間に合わせる」という発想では高評価を得にくい点です。評価では取り組みの継続性・改善の軌跡が重視されるため、今年度の準備は来年度の申請を見据えた「種まき」と捉えるのが現実的です。

リソースが限られる中小企業では、以下の3点を最初の優先事項として設定することをお勧めします。

  • 健康診断受診率100%の達成と有所見者フォローの仕組み化
  • 代表者名義の健康宣言の発表と社内外への公表
  • ストレスチェックの実施と集団分析結果に基づく職場環境改善の着手

この3点は法令上の義務とも重なる部分が大きく、「義務を果たす→記録・分析する→施策に結びつける」という順序で進めることで、無理なく健康経営の基盤を構築できます。

まとめ

健康経営銘柄は東証上場企業を対象とした制度ですが、その評価軸は中小企業が取り組む健康経営優良法人認定(中小規模法人部門)と本質的に共通しています。経営トップのコミットメントの可視化、データに基づく施策立案と効果測定、多面的な健康施策の実施と継続——この3軸が健康経営の実力を決定します。

健康経営は「従業員の健康を守るコスト」ではなく、「人材の生産性・定着率・採用力を高める投資」として捉え直すことが、経営層の理解を得るための第一歩です。短期的な費用対効果が見えにくい取り組みだからこそ、データを積み重ね、改善の軌跡を記録し続けることが長期的な成果につながります。

まず自社の現状を正直に棚卸しし、法令上の義務を確実に果たすところから始めてください。産業医や保健師、外部の専門サービスを上手に活用しながら、年間サイクルで継続的に取り組むことが、認定・選定という結果よりもはるかに重要な「健康経営の文化づくり」につながります。

よくある質問(FAQ)

健康経営銘柄と健康経営優良法人は何が違いますか?中小企業はどちらを目指せばよいですか?

健康経営銘柄は東証上場企業のみを対象とした制度で、経済産業省と東京証券取引所が共同で選定します。一方、健康経営優良法人認定制度は上場・非上場を問わず法人全般を対象としており、中小企業は「中小規模法人部門」の認定を目指すことになります。上位500法人に与えられる「ブライト500」の認定を積み重ねることが、中小企業における健康経営の差別化につながります。銘柄選定の評価軸を参考にしながら、まずは優良法人認定を目標に取り組むことをお勧めします。

専任担当者がいない中小企業でも健康経営優良法人の認定を取得できますか?

専任担当者の配置は必須要件ではなく、総務・人事の兼務でも対応は可能です。ただし、取り組みを継続的に記録・管理できる体制を作ることが重要です。産業医や外部の産業保健サービスを活用して施策立案を支援してもらう、協会けんぽの保険者機能(データ提供・保健指導等)を積極的に活用するなど、外部リソースをうまく組み合わせることで、少人数でも実効性のある健康経営推進体制を整えることができます。

健康経営の費用対効果はどのように測定・説明すればよいですか?

アブセンティーズム(疾病による欠勤・休職日数)やプレゼンティーズム(出勤しているが体調不良等により生産性が低下している状態)をSPQ等の測定ツールで定量化する方法が有効です。また、健康診断の有所見率の改善、ストレスチェックの高ストレス者比率の変化、残業時間の削減実績なども経年比較できる形で記録しておくと、経営層への説明材料として活用できます。初期段階では離職率や採用コストの変化など、すでに把握しているデータと健康施策の相関を示すだけでも、経営層の理解を得やすくなります。

監修・運営:INTERMIND株式会社

産業医紹介・EAPサービス(外部メンタルカウンセリング)を提供する産業保健の専門会社。精神科専門医・心理士・保健師からなるスペシャリストチームが、中小企業の職場メンタルヘルス課題を支援しています。

公式サイト産業医紹介サービスメンタルカウンセリング(EAP)

目次