ハラスメント被害を訴えた従業員が、相談や調査の過程でさらに傷ついてしまう——。こうした「セカンドハラスメント」の問題が、近年の職場において深刻な課題として浮上しています。一次ハラスメントへの対応に追われる中小企業では、二次被害まで意識が及ばないことも少なくありません。しかし、セカンドハラスメントは会社の法的責任に直結するリスクであり、被害者の心身に与えるダメージも甚大です。
本記事では、セカンドハラスメントの定義と具体例から、法的な責任の所在、そして中小企業でも実践できる予防・対応策まで、実務の視点から丁寧に解説します。
セカンドハラスメントとは何か:見落とされがちな二次被害
セカンドハラスメント(二次ハラスメント)とは、ハラスメント被害を相談・申告した人が、その相談や調査の過程において受ける新たな嫌がらせや不利益な扱いのことを指します。加害者となるのは相談窓口の担当者だけでなく、管理職、同僚、さらには経営者自身に及ぶ場合もあります。
たとえば次のような言動が、セカンドハラスメントの具体例として挙げられます。
- 相談を受けた担当者が「それはあなたにも問題があるのでは?」と反論する
- 「なぜもっと早く言わなかったの?」と被害者を責めるような発言をする
- 調査の過程で被害者の氏名や詳細な内容が加害者側や職場に漏れる
- 「あの人が告げ口した」という噂が職場内に広まり、被害者が孤立する
- 管理職が部下に対して「あんなことで相談するなんて」と口にする
- 同僚が被害者を避けたり、白い目で見るようになる
- 調査結果の通知時に「証拠が不十分で何もできない」と突き放す
一次ハラスメントの被害に加え、助けを求めた先でさらに傷つくという体験は、被害者の精神的ダメージを著しく拡大させます。そして、こうした二次被害が職場内で起きていても、経営者や人事担当者がその深刻さを認識できていないケースが非常に多いのが現状です。
セカンドハラスメントをめぐる法的リスク:会社が問われる責任
セカンドハラスメントは、単なる対応の不備にとどまらず、会社の法的責任に直結する問題です。関連する法律・制度の要点を押さえておきましょう。
労働施策総合推進法(パワハラ防止法)における義務
2020年6月(中小企業は2022年4月)に施行された改正労働施策総合推進法、いわゆる「パワハラ防止法」では、事業主にハラスメント防止措置が義務化されました。同法第30条の2では、相談者・行為者への不利益取扱いの禁止が明文化されており、相談対応において被相談者の秘密を保持することも事業主の義務として規定されています。
セカンドハラスメントは「相談・調査への協力を理由とした不利益取扱い」に該当しうることから、法令違反のリスクをはらんでいます。
男女雇用機会均等法・育児介護休業法との関係
セクシャルハラスメントやマタニティハラスメントに関しても、相談者への不利益取扱いは禁止されています。また、相談者が特定されるような情報漏えいそのものが問題行為として位置づけられており、情報管理の不備は法的に問題となり得る点を認識しておく必要があります。
厚生労働省指針が求める事業主の対応
厚生労働省のハラスメント防止指針では、「相談者・行為者等のプライバシー保護」が事業主の講ずべき措置として明記されています。また、調査協力者への不利益取扱いの防止や、相談対応担当者への研修・教育の実施も推奨されています。
民事上の損害賠償リスク
セカンドハラスメントによって被害者が精神的損害を受けた場合、会社が使用者責任(民法715条)を問われる可能性があります。また、従業員の心身の安全に配慮する義務である安全配慮義務(労働契約法第5条)違反として、損害賠償請求の対象となるリスクも否定できません。一次ハラスメントへの対応として調査を行った結果、二次被害まで生じてしまった場合、会社の賠償責任が拡大するケースもあり得ます。
相談対応担当者が陥りがちな5つの失敗パターン
セカンドハラスメントが発生する背景には、相談対応担当者の知識不足や、善意からくる誤った対応が潜んでいます。中小企業では人事担当者が兼務・少人数である場合が多く、専門的なトレーニングを受ける機会が限られているのも一因です。以下によくある失敗パターンを整理します。
パターン①:被害者を問い詰める言葉を使ってしまう
「なぜもっと早く相談しなかったのか」「あなたにも落ち度があるのでは」といった言葉は、担当者が真相を把握しようとする意図から出ることがあります。しかし被害者にとっては、自分の経験を否定され、責任を転嫁されたと感じる発言です。こうした言葉が相談を受けた最初の場面で出てしまうと、被害者は「相談しなければよかった」と感じ、問題が潜在化します。
パターン②:両者を同席させて話し合わせる
「両方の言い分を聞けば公平な対応になる」という考えから、被害者と加害者を同席させて事情を聴くことがあります。しかしこれは、二次被害そのものです。職場内で上下関係や力関係がある場合には特に、被害者が萎縮し、真実を話せなくなるリスクがあります。事情聴取は必ず別々に行うことが原則です。
パターン③:情報管理が不十分で職場内に漏れる
加害者への事実確認の際に、被害者の氏名や詳細な内容を伝えすぎることで、情報が職場内に広まるケースがあります。調査に関わる人数が増えるほど情報漏えいのリスクは高まります。相談内容は書面やシステムで厳重に管理し、閲覧できる人を限定することが不可欠です。
パターン④:個人的な意見や感情的な発言をしてしまう
相談を受けた担当者が「私もそう思う」「それはひどいですね」と感情的に同調したり、逆に「それくらいよくあることですよ」と軽視するような発言をしてしまうことがあります。相談担当者には中立性の保持が求められており、個人的な判断を口にすることは適切ではありません。
パターン⑤:一度の相談で終わらせてしまう
相談を受けて調査・処分を行った後、被害者へのフォローが途絶えてしまうケースも少なくありません。問題が解決したように見えても、職場での孤立やストレスが継続している場合があります。一度の対応で完結させず、継続的なフォローアップを仕組みとして組み込むことが重要です。
セカンドハラスメントを予防するための実践的な体制づくり
中小企業において、セカンドハラスメントを予防するためには、担当者個人の資質に頼るのではなく、仕組みとして対応できる体制を整えることが欠かせません。以下の視点から実務的な対策を進めましょう。
相談窓口担当者が守るべき対応5原則の徹底
相談を受ける際の基本姿勢として、以下の5原則を担当者全員で共有してください。
- 傾聴・共感:まず最後まで話を聞き、感情を否定しない
- 中立性の保持:個人的な意見・判断を口にしない
- 秘密保持の徹底:知り得た情報を不必要に共有しない
- 被害者中心の対応:「どうしてほしいか」を本人に確認してから進める
- 継続的なフォロー:一度の相談で終わらせず、経過を定期的に確認する
これらの原則を明文化し、相談窓口担当者向けの対応マニュアルとして整備することが効果的です。
情報管理の具体的な実務ルールを確立する
情報漏えいによるセカンドハラスメントを防ぐために、以下の実務ルールを整備しましょう。
- 相談内容は書面またはシステムで厳重に管理し、閲覧権限を担当者に限定する
- 加害者への事実確認時は、被害者が特定されない程度の情報提供にとどめる
- 調査に協力する第三者(同僚など)にも守秘義務を書面で明確に説明する
- 相談記録は将来の紛争時の証拠として重要なため、法定保存期間を超えて適切に管理する
管理職・従業員への教育・研修を定期的に実施する
セカンドハラスメントは相談窓口担当者だけが関わる問題ではありません。管理職が「なんであんなことで相談するんだ」と発言したり、同僚が被害者を避けるようになることも二次被害です。全従業員を対象とした教育・研修が予防の柱となります。
研修では、定義の説明だけでなく、職場の具体的な事例を用いた演習形式を取り入れることが効果的です。「被害者の味方をすること=公平でない」という誤解を解くことや、ハラスメント調査中の職場での噂話・憶測を禁止する旨を就業規則等に明文化することも有効です。管理職向けには、部下から相談を受けた際の具体的な対応手順を訓練することを推奨します。
なお、ハラスメント対応を社内だけで完結させることが難しい場合には、外部の専門家と連携することも重要な選択肢のひとつです。従業員が社内では話しにくい悩みを安心して相談できる環境として、メンタルカウンセリング(EAP)の導入を検討することも、二次被害防止の有効な手段となります。
対応プロセスをフローチャート化して標準化する
ハラスメント対応の品質を属人化させないためには、相談受付から調査・結果通知・フォローアップまでの一連の流れをフローチャートとして整備し、誰が担当しても同質の対応ができる仕組みを作ることが重要です。フローには、各段階でのチェックポイント(「被害者への確認は取れているか」「情報共有の範囲は適切か」など)を盛り込むとより実効性が高まります。
実践ポイント:中小企業が今日から取り組めること
大規模な仕組みの整備が難しい中小企業でも、今日から取り組めることがあります。以下の優先順位で対策を進めることをお勧めします。
- まず担当者の意識改革から:相談窓口の担当者が5原則を理解し、被害者を責める言葉を使わない意識を持つことが最初の一歩です
- 情報共有範囲のルール化:「誰に・どこまで伝えるか」を明文化し、口頭での情報共有を最小限にする
- 管理職への個別ブリーフィング:全体研修が難しい場合でも、管理職に対してセカンドハラスメントの概念と禁止事項を説明する機会を設ける
- 1ヶ月後・3ヶ月後のフォロー確認をカレンダーに登録する:アフターフォローを「仕組み」として組み込むために、相談対応後の確認スケジュールをシステム的に管理する
- 外部専門家との連携体制を整備する:社会保険労務士や産業カウンセラー、産業医などとの連携窓口を事前に確保しておく
特に、精神的な問題が複雑化している場合や、社内での対応に限界を感じる場合には、産業医サービスを活用することで、専門的な立場からの助言・支援が得られ、会社としての対応品質を高めることができます。
まとめ
セカンドハラスメントは、善意の対応や無意識の言動から生まれることが少なくありません。だからこそ、「知らなかった」では済まされない問題でもあります。パワハラ防止法の義務化により、企業は相談者の秘密保持と不利益取扱いの防止という法的責任を負っています。二次被害が発生した場合、安全配慮義務違反や使用者責任として損害賠償請求に発展するリスクも現実として存在します。
中小企業においては、制度を一気に整備しようとすると負担が大きく、途中で形骸化してしまいがちです。まずは相談窓口担当者の対応原則の徹底と、情報管理ルールの明文化という「小さな一歩」から始めることを推奨します。そして段階的に、管理職教育・研修の充実、外部専門家との連携体制の整備へと展開していくことで、組織全体でセカンドハラスメントを予防できる職場環境をつくることが可能です。
被害者が「相談してよかった」と感じられる対応が、従業員の信頼を守り、健全な職場環境の維持につながります。今一度、自社のハラスメント対応プロセスを点検する機会としていただければ幸いです。
よくある質問
セカンドハラスメントとはどのような行為を指しますか?
セカンドハラスメント(二次ハラスメント)とは、ハラスメント被害を相談・申告した人が、その相談や調査の過程でさらに受ける嫌がらせや不利益な扱いを指します。相談窓口担当者の不適切な発言、職場内での情報漏えいによる孤立、管理職や同僚からの否定的な反応などが代表的な例です。加害者は担当者だけでなく、管理職・同僚・経営者にも及ぶ可能性があります。
中小企業でセカンドハラスメントが起きた場合、会社はどのような責任を問われますか?
セカンドハラスメントによって被害者が精神的損害を受けた場合、会社は民法715条の使用者責任を問われる可能性があります。また、労働契約法第5条の安全配慮義務違反として損害賠償請求の対象になりうるほか、労働施策総合推進法(パワハラ防止法)が定める相談者への不利益取扱い禁止義務に違反する可能性もあります。
ハラスメント調査の際、情報漏えいを防ぐにはどうすればよいですか?
相談内容は書面またはシステムで管理し、閲覧権限を担当者に限定することが基本です。加害者への事実確認時は被害者が特定されない程度の情報提供にとどめ、調査に協力する第三者には守秘義務を書面で明確に説明します。また、調査中の職場内での噂話・憶測を禁止する旨を就業規則等に明文化することも有効な対策です。
被害者と加害者を同席させて話し合わせることは問題ですか?
被害者と加害者を同席させての事情聴取は、二次被害そのものとなる危険があります。職場内に上下関係や力関係が存在する場合、被害者が萎縮して真実を話せなくなるほか、新たな精神的ダメージを与えるリスクがあります。事情聴取は必ず別々に行い、直接対面させることは避けることが原則です。







