「カウンセリングの内容は会社にバレる?」EAPの守秘義務と情報管理の仕組みを徹底解説

従業員のメンタルヘルス支援を目的として、EAP(Employee Assistance Program=従業員支援プログラム)を導入する企業が増えています。しかし、実際に導入を検討すると、経営者や人事担当者からはこのような声が聞かれます。「費用を払っているのに、相談内容が何も共有されないのでは意味がないのでは?」「従業員が重篤な状態にあるとき、会社に知らせてもらえるのか?」一方、従業員側では「EAPを使ったことが上司に知られたくない」「相談内容が人事評価に影響するのでは」という不安から、利用を躊躇するケースも少なくありません。

この記事では、EAPカウンセリングにおける守秘義務の仕組みと情報管理の実態を、法律の観点も交えながら解説します。EAPへの誤解を解消し、会社と従業員の双方にとって信頼できる制度として機能させるためのポイントをお伝えします。

目次

EAPの守秘義務はなぜ重要なのか

EAPカウンセリングの根幹を支えるのは守秘義務(秘密保持義務)です。これは、カウンセラーが相談者から得た情報を、本人の同意なく第三者に開示してはならないという原則です。この原則があってこそ、従業員は安心して心の悩みを打ち明けることができます。

守秘義務は単なる業界の慣習ではなく、法律によって裏付けられています。EAPのカウンセラーが公認心理師の資格を持つ場合、公認心理師法第41条により「正当な理由がなく、その業務に関して知り得た人の秘密を漏らしてはならない」と明文化されており、違反した場合は1年以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられます。また、精神科医がカウンセリングに関与する場合は刑法第134条(秘密漏示罪)の対象にもなります。

なお、臨床心理士については現時点で法律上の守秘義務規定はありませんが、資格を認定する公益財団法人日本臨床心理士資格認定協会の倫理規程により自主的に守秘義務が課されています。EAPベンダーを選定する際には、どのような資格を持つカウンセラーがどのような倫理規程のもとで業務を行っているかを確認することが重要です。

さらに、EAPカウンセリングの記録は個人情報保護法上の「要配慮個人情報」に分類されます。要配慮個人情報とは、心身の状態に関する情報など、不当な差別や偏見が生じる可能性のある情報のことです。この情報の取得や第三者への提供には、原則として本人の明示的な同意が必要です。EAPベンダーは個人情報取扱事業者として安全管理措置を義務付けられており、EAPを導入する企業側にも委託先であるベンダーを適切に監督する義務があります。

「会社に筒抜け」は本当か?報告情報の実態

経営者から「費用を払っているのだから、相談内容を報告してもらえるはず」というご意見を耳にすることがあります。しかし、これは守秘義務の仕組みに対する誤解です。EAPカウンセリングで話された内容は、原則として本人の同意がない限り会社には報告されません。

では、EAPベンダーから企業に提供される情報はまったくないのかというと、そうではありません。標準的な運用では、以下のような個人を特定しない集計データが企業に報告されます。

  • EAPの利用件数・利用率(匿名統計)
  • 相談カテゴリの分布(職場ストレス・家族問題・健康不安など)
  • 相談者の属性に関する統計情報(年代別・部署別などの集計)

このような集計データは、職場環境の課題把握や組織改善のための重要な情報源となります。たとえば「ハラスメントに関する相談が増加している」というカテゴリ傾向を把握することで、研修の実施や管理職への指導といった組織的対応につなげることができます。個人を特定せずに職場環境改善に活用するこのアプローチは、適法かつ実効性の高い方法といえます。

一方で「利用したこと自体を会社に通知しない」か「利用件数のみ匿名集計で報告する」かという設定は、契約の段階で企業側が選択・決定できる事項です。EAPを導入する際には、この点を契約書に明確に盛り込み、従業員にも事前に周知することが、利用率を高めるうえで非常に重要なポイントになります。

守秘義務の例外規定:緊急時にはどこまで会社に報告されるのか

人事担当者が特に気になるのは「従業員が自傷・自殺リスクを抱えている場合、会社に知らせてもらえるのか」という点ではないでしょうか。守秘義務には、一定の例外規定が認められています。主なものは以下のとおりです。

  • 本人の同意がある場合:本人が「会社に伝えてほしい」と明示的に同意した場合
  • 生命に関わる緊急性がある場合:自傷・他害の切迫した危険が認められるとき
  • 法令による開示義務がある場合:裁判所命令など法的に開示が求められるとき
  • 虐待が疑われる場合:児童虐待防止法などに基づく通告義務が発生するとき

ただし、ここで注意が必要なのは、緊急報告の基準は非常に厳格だという点です。「少し落ち込んでいる」「最近元気がない」といった軽微な不調に対して、カウンセラーが会社に報告することは通常ありません。自傷・他害の「切迫した」危険、つまり今すぐにでも行動に移す可能性が具体的に認められる場合に限られます。

この緊急時の報告フロー(誰に・どのタイミングで・どのような手順で通知するか)については、EAP導入前の契約段階で会社とEAPベンダー間で明確に取り決めておくことが不可欠です。曖昧なまま運用を開始すると、実際に緊急事態が発生した際に判断が遅れ、対応が後手に回る可能性があります。

また、EAPカウンセリングの記録を人事考課や懲戒手続きの証拠として利用することは、個人情報保護法における目的外利用の禁止に抵触する可能性があります。「問題社員がEAPを利用している。その内容を確認して対処したい」という発想は、制度の根幹を揺るがす行為であり、絶対に避けなければなりません。

産業医・人事・EAPの三者間における情報連携の設計

中小企業の現場でしばしば問題になるのが、産業医・人事担当者・EAPカウンセラーの間で情報がうまく連携されず、それぞれの支援が分断されてしまうケースです。たとえば、従業員がEAPに相談しながら、同時に産業医面談も受けているにもかかわらず、双方が別々の判断を下してしまうといった状況です。

こうした問題を防ぐためには、三者間の情報共有ルールを事前に文書化しておくことが重要です。具体的には、以下のような取り組みが有効です。

  • 会社・EAPベンダー・従業員の三者で情報管理ルールを定めた同意書を整備する
  • EAPカウンセラーと産業医が情報を共有する場合は、本人から個別に同意を取得するプロセスを設ける
  • 産業医・人事・EAPそれぞれの役割と情報の流れを図示化し、従業員にわかりやすく説明する
  • 休職・復職判断に必要な情報は、EAPではなく産業医を通じて収集するフローを明確にする

休職・復職の判断において、EAPカウンセリングの内容そのものを人事判断の根拠にすることは適切ではありません。ただし、本人が同意した場合に限り、EAPカウンセラーが産業医に一定の情報を提供し、産業医が会社に意見を伝えるというルートは合法的かつ適切な連携方法となります。この流れを制度として整備しておくことで、従業員のプライバシーを守りながら、職場復帰支援を円滑に進めることができます。

メンタルカウンセリング(EAP)を導入する際には、こうした三者間の情報連携の設計が制度全体の信頼性を左右します。自社に合ったルール設計ができているか、あらためて確認してみてください。

EAPベンダー選定・契約時に確認すべき守秘義務のチェックポイント

EAPサービスを提供するベンダーによって、守秘義務の水準や情報管理体制には差があります。中小企業が複数のベンダーを比較するにあたって、以下の観点で評価することをおすすめします。

カウンセラーの資格と倫理規程の確認

カウンセリングを担当するスタッフが、公認心理師・臨床心理士・精神科医などの有資格者であるかを確認しましょう。特に公認心理師は法律上の守秘義務が明文化されているため、より明確な法的根拠をもって守秘義務が担保されます。また、ベンダーが日本EAP協会(JEASAP)などの業界団体の認定を受けているかどうかも、信頼性を判断する指標の一つとなります。

情報セキュリティ体制の確認

カウンセリング記録が電子データとして保存される場合、暗号化やアクセス権限の設定が適切に行われているかを確認します。クラウド型のEAPシステムを提供するベンダーに対しては、サーバーの所在地や情報セキュリティに関する国際規格(ISO27001など)の取得状況を問い合わせることが有効です。

契約書の守秘義務条項の精査

EAP契約書には、以下の内容が明記されているかを確認してください。

  • 会社に対して報告される情報の範囲(集計データのみか、個人情報を含む可能性があるか)
  • 緊急時の報告フローと報告基準
  • 退職者・休職者のカウンセリング記録の保存期間と削除ルール
  • 情報漏えいが発生した場合の責任の所在と対応手順

これらの項目が曖昧なまま契約を結ぶと、後々のトラブルの原因になります。必要に応じて専門家(弁護士や社会保険労務士)に契約書の確認を依頼することも検討してみてください。

従業員への事前周知の設計

EAPの利用率が伸びない主な理由の一つは、守秘義務の仕組みが従業員に正しく伝わっていないことです。「何が会社に報告され、何が報告されないか」を、社内周知資料や説明会を通じて事前に明示することで、従業員の不安を解消し、利用のハードルを下げることができます。とりわけ「利用の有無も含めて会社には通知されない」ことを明確に伝えることが、信頼形成に効果的です。

実践ポイント:守秘義務を守りながらEAPを機能させるために

EAPカウンセリングの守秘義務を正しく理解したうえで、組織として実践できる具体的なポイントをまとめます。

  • EAP導入前に情報管理ルールを文書化する:三者間(会社・EAPベンダー・従業員)の役割と情報の流れを契約書・同意書に明記する
  • 従業員への周知を丁寧に行う:「守秘義務がある=会社には知られない」ことを明確に伝え、利用への心理的ハードルを下げる
  • 集計データを活用して組織改善につなげる:個人を特定しない利用傾向データを職場環境の見直しや研修計画に活用する
  • 産業医との連携ルールを整備する:情報共有が必要な場合は本人同意を前提とした手順を設計し、産業医を軸とした連携フローを構築する
  • 緊急時の対応フローを事前に決めておく:自傷・他害リスクが認められた場合の報告先・手順を契約段階で明確にしておく
  • ベンダーのセキュリティ体制を定期的に確認する:契約後も情報管理の水準を継続的にチェックする仕組みを持つ

中小企業では、人事担当者が他の業務と兼務しているケースが多く、情報管理体制の整備に十分な時間を割けないこともあるかと思います。しかし、EAP制度の信頼性は守秘義務の徹底にかかっており、ここを曖昧にしてしまうと従業員の利用促進につながらず、制度が形骸化してしまいます。まずは契約書の守秘義務条項と緊急時の報告フローの確認から、一つずつ整備を進めることをおすすめします。

産業医との連携体制についても合わせてご検討の方は、産業医サービスもぜひご参照ください。EAPと産業医が連携することで、個人への支援と組織改善の両輪を回す体制をより効果的に整えることができます。

まとめ

EAPカウンセリングの守秘義務は、法律によって明確に裏付けられた重要な原則です。相談内容が会社に筒抜けになることはなく、通常は個人を特定しない集計データのみが企業に提供されます。ただし、生命に関わる緊急事態など一定の例外規定があり、こうした対応フローを事前に設計しておくことが不可欠です。

経営者・人事担当者としては、「相談内容を知ることができない」という事実を出発点として受け入れたうえで、集計データを活用した組織改善・産業医との適切な連携・従業員への丁寧な周知という三つのアプローチでEAPを機能させていくことが、制度を真に活かす道となります。守秘義務を正しく理解し、従業員が安心して利用できる環境を整えることが、メンタルヘルス対策の実効性を高めるための第一歩です。

Q. EAPカウンセリングの記録を、休職・復職の人事判断に使うことはできますか?

EAPカウンセリングの記録は、個人情報保護法上「要配慮個人情報」に該当するため、導入目的(メンタルヘルス支援)以外の用途への利用は原則として認められません。人事判断に必要な情報は、本人の同意を得たうえで産業医を通じて収集・提供するフローを整備することが、法的にも実務的にも適切な対応となります。具体的な運用方法については、専門家(弁護士・社会保険労務士など)にご相談ください。

Q. EAPを利用したことが上司や人事に知られることはありますか?

標準的なEAPの運用では、個人の利用の有無を含む情報は会社側に通知されません。会社に提供されるのは、利用件数や相談カテゴリなどの匿名集計データのみです。ただし、契約内容によって異なる場合があるため、導入時に「利用の有無を会社に通知しない」旨を契約書に明記し、従業員に周知することが重要です。

Q. 従業員が自殺リスクを抱えている場合、カウンセラーは会社に報告しなければならないのですか?

守秘義務の例外として「生命に関わる緊急性がある場合」の開示が認められていますが、その基準は厳格です。「少し気分が落ち込んでいる」程度では適用されず、自傷・他害の切迫した危険が具体的に認められる状況に限られます。緊急時の報告フロー(誰に・どのような手順で通知するか)は、EAP導入前の契約段階で明確に取り決めておくことを強くおすすめします。

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